💥11」─1─フランスのイスラム教徒移民居住区と犯罪、テロ。2016年。~No.29No.30No.31 @ 

ヨーロッパとイスラーム (岩波新書)

ヨーロッパとイスラーム (岩波新書)

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 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。  
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・    
 フランスにおける労働力確保の為の移民政策は破綻し治安は悪化した。貧困化した一部の移民二世や三世は社会への不満から宗教テロに走った。
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 2015年1月7日 産経ニュース 「フランスで風刺週刊紙事務所襲撃、少なくとも死者11人という情報も【フランス週刊紙銃撃テロ】 .
 7日、パリの銃撃現場で担架を搬送する救助隊員ら(ロイター)
 【ベルリン=宮下日出男】英BBC放送が7日、フランス・メディアの報道として伝えたところによると、銃を持った複数の男が仏風刺週刊紙シャルリー・エブドのパリ市内の事務所を襲撃した。オランド大統領は、少なくとも11人が死亡し、4人が重傷と語った。同紙に対しては2011年、イスラム預言者ムハンマドを表紙に扱ったことを受け、火焔瓶が投げられたこともある。」
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 1月8日 産経ニュース「仏風刺新聞社で銃乱射 12人死亡 大統領、テロと非難 イスラム風刺画原因か 犯人「預言者のかたきを討った」
 7日、パリの銃撃現場で担架を搬送する救助隊員ら(ロイター)
 【ベルリン=宮下日出男】フランスの風刺週刊紙シャルリー・エブドのパリ市内の本社で7日、覆面をした複数の男が銃を乱射した。ロイター通信などによると、同紙の編集者や風刺画家を含む12人が死亡、20人が負傷した。犯人が「(イスラム教の)預言者ムハンマド)の敵を討った」と、乱射しながら叫んでいたとの報道もある。男らは車で逃走し、当局が行方を追っている。ロイター通信などは「フランスで起きた最悪のテロ事件」だと伝えた。
 男らは、編集者や記者らが定例の編集会議を行っていた部屋に向けて銃を乱射。記者らのほかに死亡したのは、男らと撃ち合った警察官2人だという。負傷者のうち数人が重体で、死者は増える可能性がある。
 犯人は2人もしくは3人とみられ、銃のほかロケット弾も所持していたとの情報もある。目撃者などによると、男らは襲撃後、路上で通行人に発砲し、車を奪って逃走した。
 オランド仏大統領は事件発生後、急遽(きゅうきょ)現場を訪れ、「テロリストによる襲撃に疑いはない」と表明。緊急閣議を招集した。政府はパリ周辺の警戒を最高レベルに引き上げた。
 シャルリー・エブドは時事問題を風刺画と記事で伝える週刊紙。7日に発売された最新号は「若者はジハード(聖戦)を好む」と題して、イスラム教の聖戦を風刺する漫画と記事を掲載していた。7日の襲撃前には、イスラムスンニ派過激組織「イスラム国」の指導者、バグダーディ容疑者を題材とする風刺漫画をツイッターに掲載していた。
 同紙をめぐっては、2011年にムハンマドの風刺画を掲載後、事務所に火炎瓶が投げ込まれ全焼する事件が発生。これ以降、警察当局が警備を強化していたが、本社が現在の場所に移転してから警備が手薄になっていたとの情報がある。
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 SAPIO 2015年2月号「『移民政策』を推し進めれば日本はフランスの二の舞いになる
 いまや仏では基本的安全さえ危ぶまれている
 ジャン=マリー・ル・ペン『日本は少子高齢化によって移民労働力が必要との声があがっていると聞く。しかし、労働力不足の解決策として労働者を外から連れてくるのではなく、長期的な視座に立って子供を作る政策を考えるべきだ。国が移民政策に逃げるのは、我々仏が辿ってきた道同様、あまりに安易である。
 仏は戦後、雇用者たちの労働力補強の一環として、移民労働政策を取り入れてきた。それは、経済成長と低賃金労働を見込めたからだった。
 しかし、74年まで、我々は、それが国家の安定を揺るがすことになるとは気づかなかった。当時、ジスカールデスカン大統領の下で、74年に移民労働者の「家族呼び寄せ」が可能になり、国内に大きな変化が起きた。労働移民として入国した外国人が、さらに家族を仏に呼び寄せ、仏政府は労働者ではない人々にも仏国籍を与えたのだ。
 それから40年が経過した今、移民は我が国において日常化、あるいは大衆化した現象となった。数にするとおよそ30万人の外国人が毎年、仏に入ってくるようになった。平均2人の子供を持つ仏の家族に対し、移民によっては、5人の子供を持つことも稀ではない。
 現在、人口6,500万人のうち、1,500万〜2,000万人はムスリム移民で占められている。
われわれは、二重国籍を許可しているため、たとえば、アルジェリアで選挙が行われる際には、仏国籍を持つアルジェリア人80万人が投票する。しかも、彼らは、仏大統領を選ぶ権利も持ち合わせるのだ。
 このような事態を防ぐために、移民には制限を与えることが必要なのは明解だった。労働者として入ってきた移民と、家族呼び寄せで入ってきた移民がいるが、我々は彼らの衣食住、教育、医療の面倒まで見ている。失業者も、現在、数百万人に上る。これは文明上、「グラヴィッシム(深刻な問題)」と言えるだろう。
 最終的にテロに協力することになる
 モントルイユ(パリ郊外)のマリ移民は、パマコ(マリの首都)に次ぐ大きなコミュニティーを持っている。彼らにしてみれば、同じ人種で同じ言葉を話すため、仏に適応することなく、共同体を作り上げることができる。こうなると、同じ国の中で、構造的な危機を抱え込むことになる。
 さらに、イスラム化現象は、仏国内で止むことをしらない。
 私は、こう思う。
 殺戮を繰り返すテロリストに、ムスリム移民は最終的に降伏し、テロに協力することになるのではないか、と。なぜならテロリストは人々を簡単に殺すため、降伏するか殺されるかの選択になるからである。今日の仏社会は、基本的安全さえも侵されている。
 日本の現状は、まだ仏とは比較できない。人口1億2,500万人のうち、外国人移民が200万人。私は92年(小誌92年5月28日号)、日本が仏のように移民を大量に招くことを反対した。いま一度、やめた方がいいと進言したい。
 10年8月14日、靖国神社を訪問した。私は常に、ナシオン(国家)を念頭に置いている。それぞれの国における歴史やナシオンは侵されてはならない。ナシオンの下では、国の治安、自由、アイデンティティー、文化や言語は、永遠に守られていくべきなのだ。』
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 2016年2月号 正論 「フランス発 残虐きわまるISテロの広がりに日本も備えよ  安部雅延
 ≪当然の帰結か?≫
 2015年1月、風刺週刊誌者シャルリ・エブド襲撃テロから10ヶ月後の11月13日、またもパリで同時多発テロが発生し、130人の死者を出す悲劇が起きた。2015年という年は、世界秩序を牽引してきた西洋文明そのものの弱体化を思い知らされた年でもあった。
 ……
 表向きは、多様な文化的背景を持つ人々を受け入れ、人間らしく生きる権利が平等に与えられているとされるフランスだが、こと宗教が絡むと警戒感を強める。それはフランス人のDNAに刻み込まれた、あまりにも長いカトリック教会の権力支配やイスラム勢力との戦いの歴史に由来するものでもある。
 フランスのアラブ世界との関わりは長い。歴史を繙(ひもと)けば、約1000年前、イスラム王朝セルジューク朝の領土拡大を懸念する東ローマ帝国が、時のローマ教皇、ウルバヌス2世に救援を求めたを十字軍の時代に遡る。ウルバヌス2世はフランスの騎士たちを集め、聖地エルサレムイスラム教徒から奪還する命を与え、彼らは現在のシリア方面に向かった。
 旧約聖書に出てくるヨルダン川に臨む『乳と蜜の流れる土地カナン』こそ、今のシリア南西部、レバノンイスラエル一帯に当たる。当時、一大ブームになった十字軍遠征では、異教徒から聖地を奪還する大義名分とは別に、遠征先でイスラム教徒だけでなく、ユダヤ人らも虐殺し、掠奪、強姦が当たり前だったことが記録されている。
 フランスは、8世紀から800年間イベリア半島を支配したイスラム勢力のピレネー越えを阻み、彼らのヨーロッパ大陸制覇の夢を打つ砕いた国でもある。7世紀から8世紀に掛けてアラビア半島のみならず、シリア、エジプト、北アフリカ全土、イベリア半島まで支配したイスラム勢力だが、ピレネー山脈を超えることはできなかった。
 さらにフランスは第一次世界大戦オスマン帝国の解体に画策した英国と共に戦い、現在のシリア、レバノン、トルコの一部を委任統治領として手に入れ、シリアを1946年まで統治している。加えて、北アフリカマグレブ諸国も植民地化し、アラブ世界を治めた。
 1962年まで8年間続いたアルジェリア戦争では、フランス側で戦ったアルジェリア人25万人をフランスに移民として受け入れたが、彼らは『アルキー』と呼ばれ、3流市民扱いを受けた。その影は今もフランス社会に残る。
 21世紀に入り、マグレブ諸国の統治時代、フランスが拷問や非人道的行為を多々行ったことが表面化した。これを封じるため、2005年2月に『フランスの植民地支配を肯定する法律』を成立させ、アルジェリア支配を正当化しようとしたが、厳しい批判で廃止されている。
 ≪ライシテの重圧≫
 ……
 基本的人権の尊重、言論や信教の自由の保障、民主主義、自由な経済活動、弱者への思いやり、人種・宗教差別の禁止、平等社会の実現などは、米国にも継承され、日本も明治維新以降、近代化で西洋文明に多くを学んだ。
 さらにナチス・ドイツによる甚大な被害を経験した欧州諸国は、独裁政治とファシズムの拒否という共通認識を持つ。加えてフランスのように君主制を革命で解体させ、君主らと長年蜜月の関係にあったローマ・カトリック教会の政治的影響力を排除するため、ライシテ(世俗主義)を定め、政教分離を徹底した。
 実は、このライシテこそがイスラム系移民を苦しめている。1905年に定められたライシテは、本来、大革命以降の学校教育に関するローマ・カトリック勢力と政府の綱引きから始まった。それが政治からの宗教排除へと変貌し現在に至る。
 フランスは2004年に公共の場(学校など)でのムスリム女性のスカーフ着用禁止令を施行し、2011年からムスリム女性の顔や全身を覆うブルカを公共の場で着用することも全面的に禁じた。顔や体を覆うことは治安対策で問題があるとか、ブルカは女性隷属の象徴でフランスの文化ではないとの理由もあったが、最大の根拠はライシテだった。
 ……
 ところが、ライシテの原則の大半が、ムスリムに向けられている現実は否定できない。フランスにはヨーロッパ最大の500万人のムスリムと、ヨーロッパ最大のユダヤ社会を抱えている。ユダヤ人の子供はユダヤ人学校へ通い、ライシテとは無縁だ。パリ及び校外だけで75のユダヤ人学校が存在するのに、その10倍の人口のムスリムには、イスラムが運営する学校はない。
 フランスの私立学校の大半はカトリック系で、ムスリムの子供たちは、経済的理由からも宗教的理由からも通えない。つまり、公立学校で登校を拒否されれば、ムスリムたちは教育を受ける機会を失う。それに比べ、ユダヤ人は質の高い教育を受け、社会の富裕層を形成し、政界、財界に影響力を行使している。
 他の欧州諸国、例えばイスラム教徒が200万人いる英国では、各公立学校の校長が自由に校則を決められ、大半の学校はスカーフ、キッパ、シーク教徒のターバンなどの着用が許可されている。病院職員でさえ、イスラム教の服装は可能だ。
 ≪文明の優劣という観念≫
 ……
 ユンケル欧州委員会委員長は『困っている人々を助けるのは、欧州の根幹に関わる精神だ』と述べている。
 だが、政治家たちが、西洋人道主義を強調し、宗教や人種対立を引き起こさないように気を配っても、一般市民の本音は違う。最初は最もシリア難民受入れに熱心だったドイツでさえ、これ以上の難民受入れに国民の同意が得られない状況だ。
 ……
 しかし、パリの同時多発テロで難民に紛れ込んだテロリストが実行犯だったことから、人道主義よりも治安を心配する声の方が強まっている。
 同時に、過去からヨーロッパ人が引きずってきた『ムスリムは非文明人』『アラブ人は野蛮人』というイメージが復活し、特に旧共産圏のポーランドハンガリーでは国を挙げてムスリム流入阻止に露骨に動いている。西欧諸国は『EU精神を理解していない』と苛立つが、フランスやドイツ、英国内にもムスリムを嫌悪する空気が強まっている。
 ……
 ≪テロのグローバル化
 ……
 総人口1割に相当する600万人のアラブ系移民を抱えるフランスは、テロの手先となる実行犯をリクルートする格好の国となってきた。大革命で王政を排したフランスだが、実は現在に至るまで、社会には階層制が存在している。白人フランス人やユダヤ系住民の多くは富裕層を形成しているが、アラブ系は最下層に追いやられてきた。今現在、フランスの失業率は10%前後だが、アラブ系の若者の失業率は30%を超えているとされる。
 2005年に大暴動を起こした移民2世、3世の若者たちは、大都市郊外の低家賃住宅(HLM)が集中する通称バンリューに住む。パリで北西部郊外のセーヌ・サンドニ県がそれに相当し、75%の住民がアラブ系など外国出身者だ。犯罪発生率はフランスで最も高い。
 今回テロの標的となった国立競技場もそのセーヌ・サンドニ県にある。かって同県の中心都市ボビニーに住んでいたレバノン系フランス人の友人は『あまりにも小学校の治安が悪く、子供に護身用のナイフを持たせてこともあった』と証言している。学校をドロップアウトした若者たちはギャンググループを形成し、グループ間抗争は後を絶たない。
 郵便配達人が身の危険から配達を拒み、校外行きの路線バスの運転手の暴行も日常化し、運転手の抗議によるストライキが絶えない。著者が20年前にいたパリ日本人学校があるパリ西部郊外サンカンタン・イブリンヌにつながる高速通勤電車(RER)C線は、危険すぎて日本人学校に通う生徒は誰も利用していない。
 いわゆるフランスのバンリュー問題に対して、オランド政権は、全国に治安対策優先地区(ZSP)を指定すると共に、同じ地区での校内暴力に対処するため、校長と警察との連携を強化している。しかし、実際にはバンリューの荒廃は悪化の一途で、フランスの同化政策は、裏目に出ていると言わざるを得ない。
 この荒廃したバンリューが、テロリストのリクルーターの活動拠点だ。この数年の国内外で起きたテロの実行犯から、彼らがバンリューのイスラム礼拝堂のモスクや、軽犯罪で収監中の刑務所で聖戦主義に傾倒した例が多いことが判明している。
 ≪怒りに忍び寄る過激思想≫
 2012年3月、仏南西部トゥールーズで仏軍兵士3名と子供を含むユダヤ人4名を銃殺したモハメド・メラ容疑者は、過激思想に染まる若者たちの間ではヒーロー的存在だ。彼は14歳から無免許運転、傷害、強盗などを重ね、少年裁判、軽罪裁判で計21ヶ月の禁固刑で服役し、収監中に同室者から聖戦過激思想の影響を受けたことが確認されている。
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 実はテロリストに変貌していった若者の多くは、イスラム教とは無関係な日常を過ごし、犯罪で日銭を稼ぐ問題意識を持たない若者が圧倒的に多い。今回、パリの同時テロの首謀者と思われるモロッコ系ベルギー人のアブデルハミド・アバド容疑者も、周囲の友人たちは、イスラム教とも無縁の生活をしていたと証言している。
 さらにフランス人では白人の若者がイスラムに改宗する例も増えている。仏内務省によると、フランスでは毎年、約3,600から4,000人の白人の若者が、イスラム教に改宗し、改宗者数は3万人から7万人に達しているとしている。その多くがバンリュー育ちで、カトリックの知識もほとんどない場合が多い。
 将来に希望が持てず、社会からは人間扱いされず、生きる価値を見出せない若者のやり場のない怒りに聖戦主義は忍び寄る。過激派が運営する勧誘のウェブサイトは、実に軽いノリで若者に語りかける。テレビやスマートフォンのゲームでしか体験できない戦争ゲームが現実になり、自分たちを虐げてきた西洋社会の白人や西洋化したアラブ人を実際の武器を手にゲーム感覚で殺害する機会が与えられる。しかも死後、天国が保障までされれば、死の恐怖は超えられ、何でも可能になる。
 この数年、1人から数人でテロを計画・準備し、実行するローンウルフ型テロが増えている。組織であれば、連絡網の監視などから動きを察知できるが、単独で自宅で密かに誰ともコミュニケーションを取らず、テロを準備し、いきなり実行する例が多く、当局はテロの把握に苦慮している。
 ≪日本は傍観者ではいられない≫
 イスラム原理主義の過激派組織から見れば、フランスは米国同様、敵対国であることは、歴史的にも、現在のフランス社会を見ても間違いない。歴史的怨念は大義名分を彼らに与え、宗教や人種差別、貧富の格差という社会のひずみへの怒りは、若者たちを過激思想に駆り立てるエネルギーとなっている。
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 欧州のイスラム教指導者イマムたちは、モスクで『堕落した西洋文明』という言葉をよく使う。旧約聖書を共有するユダヤ教キリスト教イスラム教だが、イスラム教から見れば、西洋文明は俗が聖を超えた世界としか映らない。なぜなら旧約聖書に書かれた戒律に違反しているからだ。離婚や同性愛、親を敬わない西洋社会は堕落でしかない。
 堕落している西洋人に野蛮人呼ばわりされるのは不合理と感じるのも理解できる。だが、異教徒を強姦し、殺し続ける過激派のやっていることもまた、野蛮でしかない。
 日本とドイツもまた、共に悪の枢軸とされ、戦後、国連での発言権も与えられず、その正義の倫理を中国や韓国に利用され、日本は貶められ続けている。
 ……
 しかし、残念ながら日本は自虐的近代史から抜け出せていない。過去の戦争を再検証することもなく、新生日本を世界に示せず沈黙が続いている。
 ……
 戦後、世界の紛争への関わりを避けてきた日本が、今すぐにテロを食い止め、世界の平和と安定に貢献できるとは思わない。
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 もかかわず、世界の紛争に傍観者であり続け、血を流すことには一切関わろうとしない姿勢は、世界がカオス化する中では許されないことだ。……」」
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 2017年10月27日号 週刊ポスト「話題の新刊 この人に訊け!
 『グローバル・ジハードのパラダイム パリを襲ったテロの起源』 ジル・ケペル アンロワーヌ・ジャルダン著
 フランス人のイスラム専門家による『聖戦(ジハード)』の実態」
 山内昌之
 2015年はパリの『シャルリー・エブド』誌編集部が襲われ、サン・ドニサッカー場で自爆事件が起きるなど、フランスにジハーディズムが根を下ろした年でもある。著者たちは、現代イスラムと投票行動の専門家として、大都市郊外の低所得者団地で移民系住民が増え続けるシティと呼ばれる地区に注目する。IS(イスラム国)は、このシティを中東のジハード(聖戦)と結びつけて、欧州でのテロを誘発させたとうのだ。
 ISは、フランスの住民を出自に関わらず無差別に標的とする『祝福された襲撃』を繰り返した。ISは、移民系の住民を犠牲にしようともお構いなしであり、欧州の『柔らかい脇腹』の西欧で『万人の万人に対する戦争』を引き起こして、内戦を誘発して『カリフ制国家』を樹立しようとしている。
 ただし、この若いテロリストらは教育を受けておらず、知的水準はあまりにも低い。彼らは、欧米のイスラム嫌いから生まれた犠牲者のムスリムをジハーディストとして獲得できるという幻想に浸っている。
 こうした若者が生まれたのは、ポストコロニアル(植民地の負の遺産)時代の移民子弟としてフランスで生まれた世代が、社会や制度との暴力的な衝突を辞さなじゃったからだ。その挙句に、移民子弟の若者といえば暴力の常習者と見なされる悪循環が始まった。彼らが選挙権をもった当初は、2012年のオランド大統領当選のように、サルコジへの反発が強かった。いまでは、同性愛禁止やスカーフ着用などを目指すムスリムは、世俗主義のオランドたちにも寛容でなくなった。
 このムスリムの若者は、社会的帰属意識からすれば左派に近いが、民族・宗教上の主張に従えば右派に接近するという屈折した構図をもち、フランス政府ではジレンマの状態である。そのギャップを暴力的に埋めようという動機こそフランスにグローバル・ジハードを生み出したともいうよう。現代のジハーディズムにおける宗教とイデオロギーと暴力それに戦争との接点をさぐる好著である」
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イスラムの怒り (集英社新書)

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