💥11」─6─フランス移民差別問題の暗部。国は移民を守ってくれない。~No.40 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2022年12月2日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「国は移民を守ってくれない?「クルド人関係施設の銃撃事件」で露呈したフランス移民差別問題の暗部
 クルド人関係施設で発砲があった翌日に追悼集会が行われ、集まった人たちと警官隊の間で激しい衝突が起こった(写真:AP/アフロ)
 パリ10区アンギャン通りのクルド文化センターで12月23日、3人の在仏クルド人が殺害される銃乱射事件が発生した。フランスのクルド民主評議会(CDKF)によると、3人はクルド人コミュニティーのメンバーという。
 日本でも銃乱射死亡事件として報じられたが、フランス内務省の扱いがテロ事件と断定していないことから日本での報道も微妙な事件と報じられている。2015年以降、イスラム過激派による大規模なテロが頻発しているフランスでも、メディアは今回の事件をテロ扱いすることに慎重だ。
 銃を乱射し身柄を拘束された69歳の白人男性は、取り調べで人種差別主義者だと認めているという。最初は武器弾薬を所持し、移民住民が7割に達するパリ北郊外のサンドニに向かったが、効果的な攻撃ができないと考え、パリ10区に移動して犯行に及んだと伝えられている。2016年に移民系窃盗犯に自宅に押し入られ、移民を憎んでいたとも供述している。
 男性は元鉄道運転手で、昨年は移民キャンプを刃物で襲い逮捕された前歴もある。精神的異常も認められ、いったんは警察本部の精神科病棟に入院し、週明けに再度、警察に出頭させたとパリ検察庁は発表した。同時に検察は事件の背景捜査を継続しており、テロの可能性も排除しないで捜査を続けている。
■追悼集会の参加者が暴徒化
 さらに、事件後の騒乱もフランス国内に衝撃を与えている。事件翌日、パリ市内で行われたクルド人犠牲者の追悼集会に集まった在仏クルド人や支援者の一部が暴徒化。日刊紙パリジャンは「現場は戦場と化した」と報じた。折しもフランス国鉄(SNCF)がストライキを行っており、クリスマス休暇で移動する人々の混乱が起きている最中の出来事だった。
 暴徒化した追悼集会の参加者は、現場となったパリのレピュブリック広場や第2の都市マルセイユで警察当局と厳しく対峙し、動員された機動隊に火炎瓶を投げつけ、駐車していた車に火をつけ、路上で車をひっくり返し、騒乱状態に陥った。
 今回の銃撃事件について、フランスのジェラルド・ダルマナン内相は「人種差別事件とテロ事件は分けて考えており、人種差別の個人的感情が引き起こした可能性が高い」としている。また「極右活動家としてどこにもリストされていなかった」と述べ、「おそらく外国移民を標的にした(したがってクルド人を特定の標的にしたものではない)単独行動」との認識を示した。
 これに対して、在仏クルド人の9割を占めるトルコ系移民コミュニティーのCDKFは「トルコの政治情勢とクルド人に関する政治的扱いから、これらが政治的暗殺であると私たちは確信しています」との声明を出した。結果として、トルコでクルド人を弾圧するトルコ政府の裏組織の関与を主張しており、フランス当局が真剣に捜査していないと不満を爆発させている。
 24日にはクルド人コミュニティーのリーダーがパリの警察署長に会い、危機感を訴え、クルド人の保護を求めた。エリザベット・ボルヌ首相は騒乱に加担したグループに対して「凶悪な行為」と強く非難したが、フランス政府が在仏クルド人側に立っていないとの不満は依然消えていない。
 実際、追悼集会の参加者による騒乱で、機動隊に投石する若者たちは「われわれクルド人が攻撃を受けていても警察は無関心だ」「われわれは国から守られていない」と口々に叫んでいる。
■警察が真剣に捜査していない? 
 今回の銃乱射事件は、2013年1月にパリでクルド人の女性活動家3人が殺害されてから、ほぼ10年後に発生した。この事件の犯人はいまだに見つかっていない。それについても、在仏クルド人たちは警察が真剣に捜査していないとみている。
 CDKFの弁護士は、コミュニティーは、このクルド人女性活動家3人殺害事件によってトラウマを負い、今回再び「恐怖に陥れられた」と述べた。さらにフランスでクルド人が保護されていない現状は深刻だと訴えた。治安当局は、殺人、意図的な殺人、加重暴力の容疑で捜査を開始したが、国家対テロ検察庁(PNAT)は捜査に慎重な姿勢を崩していない。これに対してCDKFの報道官は強い不満をあらわにしている。
 フランスのクルド人コミュニティーは、ほぼ90%がトルコ出身のクルド人で構成され、約6500人のイラン系クルド人と4800人のイラククルド人、残りはシリア、レバノン、およびコーカサス旧ソ連共和国出身のクルド人で構成されている。フランスは国勢調査で人種や出身国別の調査を禁じている(移民もフランス人として平等に扱うため)ので、正確な数字はわかっていないが、一般的に約15万人の在仏クルド人が存在しているといわれている。
 彼らの中にはシリア内戦の際、平和なフランスでの生活を捨て、クルド軍に加わる人も少なくなかった。トルコ政府は継続的にクルド人勢力に圧力を加えているため、フランス在住のクルド人は、トルコの弾圧を恐れている。捜査当局は容疑者が個人的な人種差別感情だけで銃撃におよんだのか、背後に反クルド人組織がいるのかも含め、捜査を続けているが、個人の犯行という線に傾いている。
■社会システムになじめず、孤立するクルド人
 フランスでのクルド移民の歴史は浅く、最初に確認されたのは1965年とされる。フランスとクルドの2国間協定で労働者としてフランスが受け入れたのが始まりで、その後は政治的混乱で難民としてヨーロッパに移動するクルド人が増え、今に至っている。
 移民2世、3世は、フランス人としての自覚が強まる一方、クルド人コミュニティーは彼らのアイデンティティー強化のためのクルド語とクルド文化の浸透に力を入れており、今回襲撃されたクルド文化センターもそのために活動していた。
 また、政治難民経済難民としてフランスに到着したクルド人は、自国で十分な教育を受けていない農村部出身者が多く、フランスでも単純労働に従事している例は少なくない。そのため、フランスの近代的社会システムになじんでいない者も多く、フランス人側は違和感を持ち、差別の感情も消えていないため、クルド人は孤立している。
 フランスは日本と異なり、ヨーロッパ最大規模の60万人のユダヤ人系住民と約600万人のアラブ系住民が存在する。中国系移民も急増中だ。
ユダヤ系は富裕層が多く、ユダヤ人学校も全国に整備されている。一方、アラブ系はアラブ人学校もなく貧困層が多い。社会の隅に追いやられる若者はイスラム過激派のテロリストになる例も多く、彼らは実際、国内テロを引き起こしている。
 ユダヤ系、イスラム系はイスラエルパレスチナ自治区での対立の影響も受けており、不満を持つ在仏イスラム教徒は、ユダヤ礼拝堂シナゴーグユダヤ文化センターへの放火など襲撃を繰り返し、ユダヤ人墓地荒らしも断続的に起きている。最近増えつつある中国系移民富裕層が、アラブ系の若者に襲われる事件も頻発し、今年はフランス国内のロシア関連施設に落書きなどが確認されている。
■移民同士のもめ事には一歩引いた姿勢の仏政府
 20年以上治安分析官を経験してきた筆者から見ると、フランスの治安当局である内務省では、フランスの一般国民に直接被害を及ぼす2015年のパリ同時テロや2016年のニースの大型トラックによる歩道への突入テロなど、イスラム過激派の無差別テロなどへの警戒感が高い一方、移民同士のもめごとに対して一歩引いた姿勢が感じられる。
 例えば、マルセイユではアラブ系の不良グループ同士の暴力事件で死者が出る場合も少なくないが、市民が巻き込まれる例は少なく、捜査も熱心ではないという印象がある。急増する中国人が住み、アラブ人も多いパリのベルヴィルで中国移民が営んでいる宝石店や両替店がアラブ系不良グループに襲われても、簡単に犯人の身柄が釈放されていると批判され、何度も中国系住民が抗議デモを行っている。
 一方、昨年10月にパリ郊外の中学校で発生した、教師がイスラム預言者ムハンマドの風刺画を教室で見せてチェチェン系の若者に殺害された事件では、教師が表現の自由を守ったとして、エマニュエル・マクロン大統領も出席して葬儀が行われた。
 教師は歴史を教える白人で、今では教科書にも登場している。2015年1月に発生した風刺週刊紙シャルリ・エブドー編集部襲撃テロで死亡した白人編集者たちも英雄視され、事件への対応も大規模だった。
 建前上、多文化主義で多民族を受け入れているフランス。本来は平等に扱われるべき問題が、現実的にはそう受け止められていない印象を移民社会に与えている。
 安部 雅延 :国際ジャーナリスト(フランス在住)
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