🔯71」─1─後発の西洋キリスト教文明は如何にして世界史の領導者になったか。「地中海世界の歴史」。~No.260 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 2024年4月19日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「後発のヨーロッパ文明は、どのようにして世界史の領導者になったか
 フィレンツェ大聖堂
 森と石、都市と農村が展いた後発のヨーロッパ文明は、世界史の領導者になった。西洋史の泰斗が、戦争・飢餓・疫病、ルネサンス宗教改革・大航海を経てきた長大な文明をどのように読み解くかを語る(樺山紘一『ヨーロッパの出現』から引用する)。
 [写真]フィレンツェ大聖堂
 南は青い地中海、西は広大な波うつ大西洋、北は北極星かがやく冷たい大地、東は限りなくつづく草原。これらにかこまれて、ヨーロッパの国ぐにがある。ゆたかな麦畑と牧場、頑丈なかまえをみせる都市と建物、産業と生活のきらめくような栄華。いま、ヨーロッパは世界でもっとも密度のたかい文明をいとなんでいる。だが、当然のことながら、ヨーロッパとても、はじめからそのような形姿をあらわしていたわけではない。何百年、いや何千年の時間の歩みのなかで、自然をつくりかえ、社会と生活をうみだしてきた。本書では、その気の遠くなるような歩みをたどる。
 後発の文明
 ユーラシア大陸のなかでは、ヨーロッパ文明はかなりな後発者であった。オリエントや中国やインドの古代文明にはるかに遅れて、歴史のなかに登場する。どのようにして、この後進文明は、先進文明にまなび、追いつき、そしてのちにはこれらを追いぬいて、世界史の領導者になっていったのだろうか。そのいきさつを、順序だててつぶさに語るのは、とても一冊の書物の、よくなしうるところではない。ここでは、通常おこなわれているような、通史のかたちを避け、むしろ、歴史を読み解くための立場をはっきりさせ、それに沿ってヨーロッパ史をたどってみたいと考えている。ささやかなりとも、ヨーロッパ理解の更新に資するところがあれば、さいわいである。
 その立場について、あらかじめごく概略だけを、掲げておくことにしよう。
 文明を読み解くには
 第一に、このヨーロッパ史は、その大陸の新石器時代から語りはじめられる。それをになう民族がいずれであれ、ヨーロッパの土地に暮らしその生活体験をたくわえ、継承したものは、みなヨーロッパ人だというべきであろうから。しばしば、ことに当のヨーロッパ人の歴史家たちがおこなうような、オリエント文明ギリシア文明から説きおこすヨーロッパ史は、ここでは斥けられる。それらの偉大な古代文明は、ヨーロッパ人にとっていとおしいモデルではあろうけれども、ヨーロッパとは異なる文明である。
 第二に、歴史の内実をなす人間の営みは、社会組織ばかりではない。国家や生産のありかたは、重要な枠組みではあるけれども、しかし、それらは、より広範な枠組みである「文明」の一環をなしていると、考えられる。文明とは、気候・植生・自然素材など、一言でいえば環境のなかで、つくりだされる。そこで援用される技術や、さらにその技術を組み立てる精神、さらにまた、その結果として造営される社会組織や日常生活、つまり一口でいえば文化。文明とは、環境と文化とがうみだす織物である。ここであつかおうとするものは、かくして「ヨーロッパ文明史」である。文明を有機体とみなし、その生体の誕生と成長と死とを、あたかも人生のごとく説明しようとする、これまでの文明史と、どこが異なるかは、本文がたくみに、語りえているだろうか。
 第三に、ヨーロッパとは個々の地域、個々の要素の集合ではあるが、同時に一つの構造、システムとして観察することができる。そのシステムがどのような構成原理を内包しているか。そのことが、ヨーロッパを全体としてとらえるための、不可欠のテーマとなるはずである。各国別の国民史、地域史をこえた全体史が、必要とされよう。
 第四に、本書では歴史家がながい間なじんできた歴史時代区分を、採用していない。つまり、古代、中世、近代という三区分法を断念している。その区分法には、それなりの理由があるけれども、不都合もまた、いま目立ってきたようにみえるからである。むろん、これにかえていくつかの時代区分標識を、導入している。さらに、歴史の展開において、明瞭にあらわれる大きなリズムを、ことのほか強調している。建設と改新、破壊と停滞の交替がヨーロッパ史をリードしていることを、確認したいとねがってのことである。
 第五に、ヨーロッパの歴史を、結果のわかった必然的なサクセス・ストーリーとしてではなく、予断の許されぬ事件の連続として描こうとしている。その事件とは、政治的事件ばかりではなく、文明の構造を動かすさまざまな事件のことをさしている。いうならば、ヨーロッパの出現そのものがひとつの事件であるといってもよい。
 以上のような、歴史への立場から、ヨーロッパ史を通観したいとかんがえている。その立場は、さしあたりは、私的な主張にすぎないが、現代の歴史学がかかえる問題状況に、きわどいかかわりを求めたつもりではある。
 これらのこころみの成否について、読者の冷徹な判断をまちたいとおもう。[後略]
 学術文庫&選書メチエ編集部
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 4月11日 YAHOO!JAPANニュース「いよいよ刊行開始! 注目の新シリーズ「地中海世界の歴史」全8巻で、古代文明史の見方が変わる。
 学術文庫&選書メチエ編集部
 歴史ファン注目の新シリーズの刊行が、いよいよ始まった。メソポタミア・エジプトから、ペルシア、ギリシアを経てローマ帝国まで、4000年の文明史を、一人の歴史家の視点で描きつくす「地中海世界の歴史〈全8巻〉」である。講談社選書メチエの創刊30周年を記念する特別企画で、著者は東京大学名誉教授の本村凌二氏。まずは第1巻と第2巻が同時発売された。なぜ今、「地中海世界」なのか。
 これは「ヨーロッパ史」ではない
 シリーズタイトルにある地中海――。その風光明媚な景観と、豊かな文化遺産は、世界中の旅行者たちの憧れの対象だ。シリーズ第1巻の冒頭はこのように説き起こされる。
 〈地中海は愛される海である。ぶどう色にたとえられる紺碧の海は陽光にきらめき、しばしば穏やかにたゆたっている。目に映るかぎりの果てまで、爽やかな微風がただよっているかのようである。そこにいると気だるい眠りにおちいりそうになる。ともあれ、陸に囲まれた広大な内海であり、その自然のたたずまいがなんとも言い難い風情をなしている。〉(『地中海世界の歴史1 神々のささやく世界』p.12)
 この地中海の周辺地域に興り、滅んださまざまな文明の世界、すなわち地中海世界の歴史を描いていくのが、このシリーズだ。しかし、ここでいう「地中海世界」とは、単に「地中海に面した沿岸地域」という意味ではない。メソポタミアに始まり、エジプト文明、ペルシア帝国、ギリシア文明を経て、ローマ帝国の成立と崩壊にいたる4000年の歴史世界なのである。
 メソポタミアに文明を開いたシュメール人。Photo/gettyimages
 メソポタミア地中海世界? 奇妙に感じるかもしれない。たしかに、地中海世界といえば、「古代ギリシア・ローマ」というのが、従来のとらえ方だった。しかし――、
 〈オリエントと地中海世界の関係について、とりわけオリエント文明ギリシア・ローマ文明におよぼした影響をめぐって、20世紀末以降、しばしば論じられるようになった。広義では、「地中海世界」にオリエントをふくむ議論もありえるのであり、文明史という観点からすれば、むしろ納得できる論点も少なくないのだ。〉(同書p.21)
 メソポタミアからローマ帝国にいたる地中海世界
 つまり「地中海世界」は、ギリシア・ローマを文化的な祖先と考えるヨーロッパだけでなく、中東・北アフリカの文明の源流でもあるのだ。
 〈そこではオリエント文明ギリシア・ヘレニズム文明、ローマ文明が錯綜して立ち現れ、対立と融合の渦巻く世界を形成していた。すでに古代にあって地中海世界は多種多様な人々が人類史上最初の創作と試行をくりかえした舞台であった。〉(同書p.30)
オリエント世界のギリシア・ローマへの影響は、これらの地域が共通する神々を信仰していたことにも見てとれる。
 〈たとえば、美と愛の女神は、メソポタミアではイナンナあるいはイシュタルであり、フェニキアのアナト、ギリシアアフロディテであり、ローマのウェヌス(ヴィーナス)にもなる。すべてが流れ込む「ローマの平和」では、これがエジプト起源のイシス女神と結びつき、やがてキリスト教のマリア信仰にも連なるという。〉(『神々のささやく世界』p.30)
 エーゲ海のミロス島で発見されたヴィーナス像はヘレニズム美術の傑作。
 文字も一神教も、ここで生まれた。
 「古代文明」といえば、まずは、「メソポタミア、エジプト、インダス、黄河」の〈四大文明〉を思い浮かべるところだ。しかし、それも近年では認識が変わってきている。
 〈この「四大文明」という用語は、戦後日本の歴史教育に特有の見方で、現在はあまり重視されていない。昨今では、これらの文明地域にかぎらず、たとえば新大陸でも、紀元前後にメキシコ渓谷やペルーでも独自な文明が生まれているし、オーストラリアのタスマニアなどにも古代の文化遺跡が少なからず見出されている。〉(同書p.14)
 そうした各地の多彩な文明をふまえたうえで、本書では新たな見解を示す。
 〈人類文明史の基底となる古文明はいくつもあっただろうが、大きく見渡せば、地中海世界と中国を中心とする東アジア世界が二大源流だと唱えられることがある。なかでも、地中海文明は、近代世界を牽引してきた欧米世界が祖先とも土台とも見なしているのだから、その文明史を学ぶことは現代を知るためにはきわめて重要だ。〉(同書p.26-27)
 現代世界にいたる大きな影響を及ぼしているのは、地中海世界と東アジア世界の古代文明だという。特に、この二つの文明世界で生まれ、発展した「文字文化」は重要だった。中国では漢字が生まれ、地中海世界では〈30文字足らずで何事をも表記できるアルファベットが開発されたことは、人類史のなかでことさら注目すべき出来事だった。〉(同書p.27)
 また、現代世界を深く理解するにも、この視点は欠かせない。
 〈ふりかえれば、20世紀末には、資本主義と社会主義イデオロギーの対立にひとまず終止符が打たれ、文明の衝突を予告する声があった。それが今のところ現実には大事にはいたっていないにしても、現代世界に緊張を強いる要因の背景に、ユダヤ教キリスト教イスラム教の相克があることは周知のところであろう。これらはいずれも一神教である点で共通する。〉(同書p.18)
 そして、これら一神教を生み出した母胎が、地中海世界でもある。「多神教から一神教への転回がいかに起こったか」という疑問も、このシリーズの重要なテーマになるという。
 著者、本村凌二氏は、古代ローマ史研究の第一人者として知られ、これまでにも多くの話題作を発表してきた。
 サントリー学芸賞を受賞した『薄闇のローマ史』や『地中海世界ローマ帝国』『愛欲のローマ史』等、古代ローマ史関係だけでなく、『教養としての「世界史」の読み方』『名作映画で読み解く世界史』など一般向けの著作も多いが、これほど広い範囲の4000年に及ぶ文明史に挑むのは初めてとなる。
 〈地中海世界の歴史は、メソポタミア史、シリア史、エジプト史、ギリシア史、ヘレニズム史、ローマ史、ビザンツ史、あるいはキリスト教文明、イスラム文明などとして切り離して語られがちである。もちろん学問の細分化・高度化あるいは分析の精緻化を考慮すれば、それぞれの専門家が詳細かつ正確な歴史を描くべきことは否定しようもない。しかし、ときには世界史の大きな流れのなかで、人類の経験としての歴史をとらえなおすことも必要ではないだろうか。しかも、それぞれの専門に分断されるのではなく、できるかぎり単独の歴史家によって語られることも歴史理解の一助をなすにちがいない。〉(同書p.32)
 完結に18ヵ月を要する全8巻の大著。人類の歴史と現在を考える、必読のシリーズとなるだろう。
 ※第1巻・第2巻の新視点は関連記事〈「神の声」が途切れた時、人類の「その後」を大きく変えた「三つの大発明」とは?〉を、全8巻のラインナップと読みどころは、著者インタビュー〈前編〉〈後編〉を、ぜひお読みください。
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