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 2024年3月8日 MicrosoftStartニュース Tom Fairless 「移民労働者「依存症」の先進国、長期的にリスクも
 世界各地で移民流入数が過去最高水準に達するなか、経済専門家の間では、一部の産業が外国人労働者に過度に依存し始めている可能性をめぐって議論が高まっている。
 多くの企業経営者によると、地域住民の高齢化が進み、労働人口が縮小するにつれ、低技能の外国人労働者によってそれを補うことが不可欠になってきたという。米中西部ウィスコンシン州の田舎で広さ4平方キロメートルの酪農場を運営するジョン・ローズナウ氏は、地元では働き手を見つけられないと話す。彼が頼りにするのは13人のメキシコ移民だ。その数は10年前の8~10人より増えている。そのおかげで他の同業者の一部が導入した搾乳ロボットに高額な投資をせずに済んでいるという。
 「本当に良い人材が来る」とローズナウ氏は言う。移民労働者であれば、「雇用を2倍に増やしたいとき、ほぼ確実に1週間以内に実現できる」
 だが経済専門家の一部は、移民労働者への依存が不健全な水準に近づいている地域があり、それが生産性の伸びを抑制し、労働力不足への持続可能な解決策を見つけようとする企業の努力を遅らせている、とみている。
 そうした解決策には、自動化に対する投資拡大や事業閉鎖のような抜本的な再編が含まれるだろう。それらは痛みを伴うが、長期的には必要になるかもしれない、と経済専門家らは指摘する。
 移民労働者「依存症」の先進国、長期的にリスクも
 © The Wall Street Journal 提供
 「産業がひとたび特定の方法で組織化され、その構造が雇用主に移民の採用を促すならば、極めて後戻りしにくい状況が生まれる」。イタリア・フィレンツェにある欧州大学院(EUI)移民政策センターのマーティン・ルース教授(移民学)はこう指摘する。「政策立案者は一部のケースでは、それが理にかなうのかを問うべきだ」。ルース氏は英政府に移民政策について助言する英国移民諮問委員会の元メンバーでもある。
 西側諸国は人口動態上の危機にひんしており、この議論は過熱しそうだ。先進国全体で生産年齢人口が第2次世界大戦後初めて縮小に向かっている。ドイツ保険大手アリアンツの最近の報告書によると、欧州連合EU)の生産年齢人口は2050年までに約20%減少するという。
 この傾向を食い止める手だてはある。例えば、労働者の退職年齢を先延ばしすることだ。だが、中南米やアフリカなど豊富な労働供給源があるため、外国人労働者を呼び込むのが最も容易な選択肢となることが多い。
 また移民流入は、米国や欧州のように保守派の反発に見舞われるとはいえ、人口増に寄与し、消費を拡大するため、経済成長にプラスの効果がある。
 現在、移民の数はカナダやドイツ、英国など主要な受け入れ国で新型コロナウイルス流行前の2~3倍の水準で推移している。米国の純移民流入数は昨年330万人に達した。2010年代は平均で約90万人だった。
 米国では農業労働者の4分の3、建設・鉱山労働者の3割を移民が占めている。主に富裕国で構成する経済協力開発機構OECD)によると、米労働者全体では2021年に移民が18%を占めた。その10年前は16%だった。
 英国は数十年前から移民抑制を約束しているものの、2020年にEUを離脱して以降、企業は人材確保に苦しみ、移民は急増している。公共医療を提供する国民保健サービス(NHS)の看護師のうち外国出身者は現在27%を超え、2013年の約14%から拡大した。ドイツでは、労働組合の推計によると、食肉処理場の労働者の約80%を移民が占めている。
 過度の依存が招く弊害
 低技能の外国人労働者への依存度が増すと、経済成長のスピードを決定づける生産性の伸びの阻害要因になりかねない。複数の経済調査がそれを示唆している。
 デンマークで行われた2022年の調査によると、移民労働者の受け入れが容易な企業はロボットへの投資が少なかった。オーストラリアとカナダで行われた調査では、移民労働者によって不振企業が生き延び、全体的な生産性を押し下げる可能性が示された。
 労働生産性の伸びはここ数年、先進国全体で頭打ちとなっている。米国と英国の農業分野では生産性が10年以上横ばいのままだ。より抑制的な移民政策をとる日本と韓国では、労働生産性が年1.5%程度伸びていることがOECDのデータから分かる。
 高齢化が進む国々の活力回復に役立つ移民受け入れと、過度の依存を避けることの間で、適切なバランスを見つけるのは難しい。外国人労働者に代わる明確な選択肢がない産業も多い。
 依存を完全にやめれば、人件費の安い移民によって作られている製品の価格は上昇する。また貧しい国々の労働者が生活水準の向上を求めるための選択肢が減ることになる。
 シドニー大学の移民専門家アンナ・バウチャー氏は、ある程度の低技能移民が、技能不足のため恐らく短期的には必要になるとの見方を示す。移民がいなければ、オーストラリアの保育サービスの一部は停止し、畑の野菜は枯れてしまうからだ。
 経済調査によると、科学者やエンジニアのような高技能移民が流入することで、むしろ企業の生産性は向上し、地元労働者の賃金や雇用機会は増えるという。
 一方、低技能移民に関しては経済専門家の見方はより割れている。そのような労働者は同様に簡単に取って代わられる。そこには自動化の対象とは思われにくい産業も含まれる。
 チェコ共和国では、一部の農家が人工知能(AI)を搭載したロボットを使い、いちごの監視と収穫を行っている。イスラエルの新興企業テベル・エアロボティクス・テクノロジーズが開発したのは、果物を摘み取るドローン(無人機)だ。英企業フィールドワーク・ロボティクスはラズベリーを摘み取るロボットの販売を最近開始した。高さ1.8メートルの本体にプラスチック製アームが4本ついている。
 だが各国政府にとって生産性を向上させ、不振企業を破綻に追い込むような改革を進めることは、移民を増やすことよりもはるかに困難だ。OECDの生産性専門家ダン・アンドリュース氏はそう話す。
 「一部の国は安易な解決策を選んだのかもしれない」と同氏は言う。
 模索は続く
 英政府は農業分野の自動化を加速させるべく、農業関連の技術に資金を投じている。また、雇用主が移民労働者に支払う賃金を同一職種の現行水準より20%低く抑えることを認めるルールの撤廃も検討している。これに対し、農家ロビー団体は抗議の声を上げる。彼らの主張によると、利用可能な技術があれば、農家はすぐにも導入するが、ロボットは果物や野菜の収穫には適していないという。
 移民労働者「依存症」の先進国、長期的にリスクも
 © The Wall Street Journal 提供
 カナダでは、経済専門家によると、政府は高技能労働者を優先的に受け入れる慎重に管理された移民制度を取りやめ、留学生などの低技能の臨時労働者の受け入れを大幅に増やしているという。デービッド・ドッジ元カナダ中央銀行総裁が共同執筆した12月の報告書では、同国政府は安い労働力を大量に流入させることで、競争力のない企業を下支えし、最終的に生産性を低下させている可能性があると指摘された。
 記録的な移民受け入れが数年続いた後、カナダの1人当たり実質国内総生産GDP)は2018年よりも減少した、とウォータールー大学(オンタリオ州)の経済学者ミカル・スクトルード氏は指摘する。カナダは多くの低技能労働者を受け入れており、同国の生産性低下につながっていると同氏は言う。
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