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2024年3月7日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「「少子高齢化に苦しむ島国」日本と台湾…両者の「決定的な違い」がもたらす現実
台湾で注目の委員
今年の台湾総統選挙と並行して行われた台湾立法委員選挙。民進党が過半数を取れず、捻じれ国会を生んだダークホースといわれる「民衆党」に、いま注目の委員がいる。
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台湾政界初のベトナム出身の立法委員・麦玉珍(ユイ・ツエン 50歳)氏だ。比例代表の当選者8人中5番目として初当選を果たした。彼女は、「台湾新住民協会」というNPO団体でも代表を務め、東南アジア系の移民たちの就職や役所関係の手続き相談など様々な支援活動を積極的に行っている。
ベトナム・ドンナイ省出身で、20年前に移住、結婚、家庭内暴力での離婚、金銭的トラブルなどを経験し、様々な職業を経て警察や役所の通訳として独立した苦労人だ。
台湾では近年、「新住民」と呼ばれる東南アジアを中心とした移民が増加している。台北駅周辺や桃園駅周辺にはベトナム人街、タイ人街、インドネシア人街、フィリピン人街などと呼ばれるエリアがあり、それぞれの国の言葉が飛び交っている。現地語の看板のレストランや雑貨店も多い。台北の外れにはミャンマー街と呼ばれる地域もある。
彼らは、様々なレベルの労働者や技術者を含め60万人近くが台湾に定住している。台湾人との国際結婚も増え、いまでは全出産数の約10%強が、東南アジア出身の母を持つ子供たちだ。
90年代に労働力不足から始まった移民政策は、2000年代に急速に進んだ少子化に伴って大幅に「入出国移民法」が改正され10年以上合法的に居留すれば自由に国籍がとれるようになった。さらに2017年には「外国人採用および雇用法」を施行し高度な人材や専門職、文化人など広く積極的な移民促進策も強化され、さらに新住民への差別行為に対する罰則強化などの法整備も着実に進んでいる。
しかし、まだまだ市民の新住民への抵抗感も少なくない。今回の選挙でも麦玉珍委員は選挙中、同じ民衆党・台中支部の江和樹委員と激しい口論になった。youtube上で江委員が「訳の分からない素人の新住民を比例代表候補にするなんてよほど、わが党は人材不足なんだろう。民衆党は乞食集団か」と発言し、麦委員が激怒したのだ。しかし、堂々と応戦する麦委員に対し支援者が党内外からも急増したという。
民衆党の代表・柯文哲氏もかつて台北市長時代に「いま、台湾では30万人のアジアからの花嫁を“輸入”している」と発言し当時の市民やメディアから猛烈に批判されている。
「移民の国」台湾
しかし、昨年麦玉珍委員と柯文哲代表は、対談を通じて「あの発言は悪い言葉だった。私はあなたを応援しています」と謝罪、和解した。
実は台湾は移民の国だ。台湾原住民と呼ばれる先住民は約2%しかいない。その他は清朝以前にやってきた福建系と客家系の「本省人」と呼ばれる移民が約84%、第二次大戦後の国共内戦以降に中国大陸からやってきた「外省人」と呼ばれる移民が約12%、そして「新住民」とよばれる東南アジア系移民が約2%強という人口構成だ。
すでに先住民を超す勢いで新住民が増えているのが分かるだろう。ちなみに政府は率先して彼らを「移民」とは呼ばず「新住民」と呼ぶように啓蒙している。
この12%の外省人の国民党独裁政権が長く続いた関係で、戦後長らく中国大陸からの移民などに対して政策は複雑で排他的だった。その後、試行錯誤を繰り返し2000年の緩和と同時に偽装結婚や外国人犯罪などの取り締まりも強化し発展していった。
蔡英文政権になってさらにこの移民政策を促進させている。それが「新南向政策」だ。これは東南アジア、オセアニアとの関係強化策として(1),経済貿易協力(2),人材交流(3),資源交流(4),地域連結の4つの柱からなっている。
この一環として、対象国からの留学生受け入れ支援とセットで、台湾の新住民二世たちを母国に一定期間滞在させ、伝統文化や言語を学ぶことも奨励、支援している。
これは「新住民」に台湾への完全同化だけを推進させるよりも、出身国の文化・伝統・言語を尊重しながら台湾で生活することで、よりアジア各国との強い連携や人的交流の強化を狙っていく政策だ。頼新政権もこの政策を継承していくだろう。実はこの「新南向政策」には中国に対抗する強かで高度な戦略も含まれている。
外交関係のない対象国との強い人的交流を築き、台湾の国際化を進める。それは一帯一路政策でのアジア進出を図る中国への布石になると同時に、中国に偏った移民の歴史からの脱却により東南アジア諸国との間の人の流れを増やし、中国との経済的・人的交流の比重を薄める狙いもあるのだ。特殊な台湾の国際的位置を十分考慮した外交戦略でもある。
単純な労働力不足から始まった台湾の移民政策。それは、なかなか少子化に歯止めがかからない数々の子育て支援策や出産環境整備、補助金政策を補完して人口減を食い止め、同時に総合的に国力の衰退を防げる外交戦略に進化しているのだ。
日本にはない移民制度
ここでも同じ少子高齢化で苦しむ、台湾と日本の大きな政策の違いがはっきりと見えてくるだろう。日本は昨年、「特定技能2号」を修正し職種や期限を拡大し、「技能育成就労」という新制度も予定しているが、基本的にこれらは移民制度ではない。いまだ限られた職種での労働力不足を外国人材で補おう、という単純な位置づけ以外のなにものでもない。政府の公式見解でも「移民制度とは異なる」と明言している。その「特定技能2号」もいまだ数十人程度だ。日本には移民制度そのものが存在しないのだ。
保守系議員や移民への極端な警戒感を持つ一部有権者に忖度した、国際的視野とは逆行する近視眼的な政策意図なのは明白だろう。しかし、現実は総務省の統計で昨年1年間で83.4万人の人口減少が進み、出生数も1889年以来最小を更新する見込みだ。10年後には大阪府と同じ人口が消滅し、数十年後には全国で本州くらいの人口に減少するとも言われている。
この現状に将来を見据えた「移民制度とは異なる」有効な政策を果たして日本政府は立案できるのだろうか。喫緊の課題として対策に追われる地方自治体に頼るだけでは、将来の展望は開けないだろう。
台湾国家開発評議会は移民政策としてさらに40万人の移民純増を目標としている。各省庁間でも「人材採用計画の改善や優秀な国際人材を惹きつけ採用するためのフレンドリーな労働環境と生活環境の創出」を構築するよう検討が進められている。
新住民二世たちが自らの文化を尊びながらも台湾に同化し高学歴を取得し優秀な人材として育てば、単純な労働力以上の消費経済を含んだ経済発展に貢献するに違いない。
そこには、またひとつ、「台湾ナショナリズム」にも「中華ナショナリズム」にも偏向しないまったく異なる「台湾新住民アイデンティティ」も芽生えてくる。アメリカの消費市場を支える移民パワーのようなものが垣間見えてくるのだ。
数十年後、台湾は複雑な移民の歴史を超えて、アジアの中でも先端を行く新たな移民国家に変貌するかもしれない。その時の日本の将来図は、残念ながらいまだ、私には見えてこないのだ。
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鈴木 譲仁(ジャーナリスト)
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