🔔41」─1─宿敵だった隣国、独仏青年交流が伝えるもの。〜No.116No.117 

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 人類史、世界史において、西欧のイギリス・フランス・ドイツと東アジアの日本・中国・朝鮮は違う。
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 2023年10月28日 YAHOO!JAPANニュース 毎日新聞「宿敵だった隣国 独仏青年交流が伝えるものと東アジアの可能性
 第一次世界大戦で死亡した兵士たちが眠るフランス北東部ベルダン郊外の墓地=2014年6月24日、宮川裕章撮影
 欧州の二つの主要国、ドイツとフランスは、かつて何度も戦火を交えた「宿敵」だった。第一次世界大戦では双方で300万人以上が死亡。第二次大戦ではナチス・ドイツがフランスを占領し、フランス各地で対独抵抗運動レジスタンスが起きた。レジスタンスを恐れるドイツ軍が無実のフランス国民を虐殺した地域もあり、禍根は長く残った。だが、戦後70年以上を経て両国は友好関係を深め、欧州のけん引役となっている。
 【写真】旧ソ連製兵器が並ぶウクライナの隣国モルドバ戦争博物館
 ドイツとフランスが関係を改善し続けてきた戦後の歩みの中で、両国民が、特に重要な役割を果たしたと語るのが、独仏青年事務所だ。フランスのドゴール大統領、西ドイツのアデナウアー首相が調印した1963年の独仏友好条約(エリゼ条約)によって生まれたこの組織は、両国政府が資金を出し、若者によるさまざまな草の根の交流を支援している。60周年を迎えた今年までに、両国合わせて約1000万人の若者が、交流事業に参加した。
 青年事務所のドイツ側の事務局長、トビアス・ビュートーさんは「これまでの交流によって偏見や誤解が取り除かれ、信頼のネットワークが広がった。相手の視点を理解し、歩み寄る意識も根付いた」と語る。
 ◇二度の大戦の反省 幅広い参加
 交流プログラムは、お互いの一般家庭へのホームステイから、教員の交流、同じ職業の若者の合宿など、多岐にわたる。へき地に住む国民や、移民系の国民の参加にも力を入れている。知識人や政府関係者などの交流のみでは、2度の大戦を防げなかった過去への反省がある。「パン職人や、博物館に勤務する人同士、翻訳業の人同士の交流プログラムもあります」。フランス側の事務局長、アンヌ・タリノーさんは言う。
 アルジェリア系フランス人や、トルコ系ドイツ人など、移民系の若者が、国を代表する形で相手国民と交流することで、自国への理解を深める効果もあるという。「今後はさらに、社会的に恵まれない人たちに、交流の機会をつくりたい」とタリノーさんは意気込む。
 ◇米ソ冷戦も後押し
 独仏関係に詳しい仏国立科学研究センター(CNRS)のコリーヌ・ドゥフランス研究部長は、独仏青年事務所の成功の要因として、設立当時の国際情勢を挙げる。「欧州統合に向けた動きがすでに始まっており、けん引役としてフランスと西ドイツの結束を促した。また米ソ冷戦が西側陣営としての両国の関係を強化し、かつて戦争を繰り返した反省から、両国の政治指導者の間にも、変革の機運があった」と指摘する。
 青年事務所は現在、紛争が続くアゼルバイジャンアルメニアなど、独仏以外の第三国の若者を交えた交流活動にも取り組んでいる。同事務所による支援で、戦後補償の問題を抱えるドイツ、ポーランド間にも、同様の事務所が設立された。ドゥフランス氏は「今後の欧州連合EU)の加盟国拡大に備え、青年事務所が活動領域をさらに広げることを期待したい」と語る。
 ◇東アジアで実現できるか
 独仏青年事務所が実現したような若者による大規模な交流を、日韓や日中など東アジアで実現できないものだろうか。青年事務所を取材するたびに考えさせられてきた。だが、明らかに、そこには大きな壁がある。
 例えば東アジアには、戦後の欧州のような地域統合に向けた機運はなく、歴史認識をめぐる意見の対立も残る。日中、日韓の間では、かつて支配した側の優越感と、支配された側の被害者意識が、和解を妨げていると歴史家は指摘する。
 東京大大学院総合文化研究科の阿古智子教授(現代中国研究)は日中について、「学生が交流しても、中国の学生に、完全に自由に意見を言える環境があるかといえば、そうではない。歴史問題もあり、お互いに相手の痛いことを言える関係には至っていない」と課題を語る。
 それでも、阿古教授は「今は後退した部分もあるが、1990年代から2000年代初めにかけ、市民団体の交流が増え、近年は日中の観光旅行客の増加やソーシャルメディアの普及が、偏見の解消に貢献している」と取り巻く環境の変化について指摘する。
 ◇意識の変化が好機に
 そうした中、「関係強化に向けた好機が生まれている」と指摘するのは慶応大の添谷芳秀名誉教授(国際政治)だ。中国はすでに国内総生産GDP)で日本を抜き去り、韓国も1人当たりGDPで日本に追いつきつつある。「中国、韓国の若い世代では日本への特殊な感情が弱まり、日韓の若者は、お互いの国を対等とみる意識が強まった。この環境が、未来志向の関係強化を促す可能性がある」と語る。
 日韓の交流に携わってきた添谷教授は特に日韓関係について「核保有大国である米、中、ロシアに囲まれた状況が、かつて米ソのはざまで結束を強め、独自の欧州外交の土台を作った独仏にも重なる。日韓の若者が交流を深め、そこに中国や他のアジア諸国の若者を巻き込む形で関係を進化させていくのが理想ではないか」と話す。
 独仏青年事務所が教えるのは、両国政府の政治決断が若者同士の民間の交流を促し、草の根の交流が政府間の関係を強化した好循環だ。その出発点としての政治の役割は大きい。独仏青年事務所の21年の年間予算は3180万ユーロ(約50億円)。活動費を拠出する両国政府の強い意思がなければ、60年間で1000万人という大規模な交流は実現していない。
 まずは、日中韓、3国の政府が資金面でも協力し、独仏の10分の1以下の予算にとどまる現在の交流制度を大幅に拡大してみてはどうだろうか。長い目で見てアジアの政治環境が安定し、人々の暮らしが精神面でも文化面でも豊かになるのなら、決して高い投資ではないはずだ。【欧州総局長・宮川裕章】
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