今や世界5位 「移民受け入れ大国」日本の末路: 「移民政策のトリレンマ」が自由と安全を破壊する
- 作者:貴明, 三橋
- 発売日: 2017/05/26
- メディア: 単行本
関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
・ ・ {東山道・美濃国・百姓の次男・栗山正博}・
2016年1月8日 産経ニュース「大みそかにスイスでも集団性犯罪 、被害女性は5、6人
スイス・チューリヒで昨年12月31日、女性数人が複数の男に取り囲まれて性的暴行を受けたり金品を盗まれたりしたと訴え、地元警察が捜査に乗り出したことが8日分かった。同日付スイス紙ルタンなどが報じた。
ドイツ西部ケルンの中央駅でも12月31日、中東や北アフリカ出身とみられる男らが、通行人の女性を取り囲んで性犯罪に及んだり、財布などを強奪したりする事件が相次ぎ、地元警察が捜査に乗り出した。
ルタンによると、被害女性は5、6人。被害届は今後さらに増えるとみられている。(共同)」
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1月9日 産経ニュース「【移民ショック】ドイツ女性集団わいせつ、容疑者18人が難民申請者…メルケル首相の寛容策に逆風「駅前の秩序も保てず」
ドイツのメルケル首相(AP)
【ベルリン=宮下日出男】ドイツ西部ケルンで昨年の大みそかに多くの女性が移民系とされる男の集団に襲われる事件が起き、容疑者に難民申請者が含まれていることが8日、判明した。メルケル首相の寛容な難民・移民の受け入れを支持してきた世論を悪化させかねず、政策見直しの圧力が高まる可能性がある。
事件は昨年12月31日夜、ケルン中央駅前に酔って集まった男ら約1千人が騒いだ後、一部が複数のグループをつくり、通りかかった女性を次々と包囲。金品を奪ったり、性的いやがらせを行ったりした。被害届は8日までに約170件に上り、このうち約4分の3が性犯罪だった。
被害者らは、男らの多くが「アラブや北アフリカ系」と証言。連邦警察は8日、窃盗や傷害罪で容疑者31人を特定し、2人が独国籍を持つほかは大半が北アフリカや中東の出身で、このうち18人が難民申請者だったと発表した。
事件への衝撃は大きく、メルケル氏は出自に関係なく厳正な対処を指示した上で、「法秩序を守る気がない者にはシグナルを送る必要がある」と強調した。与党内では難民を含め犯罪を行った外国人の国外退去の強化や保護申請資格の剥奪を検討。ケルンの警察トップも事件への対応が不適切だったとして解任された。
ドイツでは昨年流入した難民・移民が予想の80万人を超える約110万人に上った。移民・難民に批判的な新興政党「ドイツのための選択肢」は、事件が「制御できない流入の結果」と批判。極右などが反移民感情をあおるために事件を利用する恐れもある。
国内では以前の難民歓迎ムードがしぼんできており、世論調査では与党の一部が求める流入制限を回答者の約6割が支持。南ドイツ新聞は「人々は首相が駅前の秩序も保てないことに疑問を抱き始めている」とし、事件でメルケル氏の寛容姿勢への支持が一段と低下することを懸念した。」
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2016年4月28日号 週刊文春「池上彰のそこからですか!?
池上彰×エマニュエル・トッド
日仏の知性がスカイプ対談 国家の『老化』といかに向き合うべきか
ベルギー連続テロ、トランプ旋風の背景にある〝大変動〟を見逃すな!
『シャルリ・エブド』襲撃事件を論じた書が話題のエマニュエル・トッド氏。その後発生したパリ、ベルギーの連続テロ、混迷する移民問題、激動の米大統領選を氏はどう見るか?少子化に直面する『老化』日本の行く末は?
……
トッド 私の見解は、基本的には変わってはいませんが、まず国内の治安上の責任問題として、フランスもベルギーも内相を更迭する必要があるでしょうね。ただもっと大きな視点で見たとき、欧州の経済成長が停滞しているなかで、若者にとって将来が見えない状況がいちばんの問題です。 また繰り返して起きているテロを仔細に追いますと、興味深いことに気づきます。パリ、ベルギーともに実行犯に兄弟がいることです。北アフリカ・アラブ系移民の家族の連帯の基本単位は兄弟にありますが、その連帯がテロなどの犯罪行為に向いてしまっていることに、悲劇があるように思います。
池上 ヨーロッパの移民たちに、何が起きているのでしょうか。
トッド フランスへの北アフリカ・アラブ民族の移入については、2つの段階がありました。
まずひとつは第二次世界大戦後の経済成長の著しい時代です。フランスの社会には移民を受け入れる余力が十分にありました。人種間の混合結婚も盛んで、同化政策によって移民が持っていたものとの民族性もポジティブに変容し、社会になじんでいった時代でした。
分離社会ベルギーの失敗
しかし80年代に入り、低成長時代が訪れると、社会的な流動性が失われ、それぞれの社会階級が各自のコミュニティに閉じこもるようになります。社会が分断された状況のなかで、移民出身の兄弟が連帯して犯罪に手を染めている現実は、もっとも弱い立場にある移民の家族に、社会のしわ寄せが来ている表われといえるでしょう。
またフランスとベルギーは、ともにフランス語を公用語とする国ですが、一連のテロ事件においては、両国の違いに目を向けることも重要です。移民が多いのは共通しますが、移民への対応ではだいぶ違うのです。
フランスでは移民たちにもフランス人になるよう、フランス語や文化を教え、同化主義政策をとってきましたが、フランス語話者、オランダ語話者の入り混じるベルギーはもともと多文化主義であり、それぞれがバラバラにコミュニティを形成しています。
……
池上 パリの同時多発テロの取材で、私はブリュッセルの移民たちが多く住むモランベーク地区に行きました。アラビア語の看板も目立つ街なかで、北アフリカから来たという移民に、なぜフランスでなくてベルギーなのかと尋ねましたら、フランスでがフランス語を学ばざるを得ないけれども、
ベルギーなら自分たちのままで暮らせるからと彼は答えていました。まさにトッドさんの話のとおりですね。
トッド あなたもベルギーのそういった面をご存知でしたか。ブリュッセルは素晴らしいく感じの良い町です。しかしその反面、エスニシティのとても硬化した町でもあり、たとえばオランダ語地域でフランス語を話そうとすると、とてもプレッシャーがかかるのです。思わず『私はフランス人ですので』と弁解しかくなるのほどに。
かつてオランダ語地域にあるカフェに入ったところ、ボーイから完全に流暢なフランス語で『あなたがフランス人だから、フランス語で接客しますが、ベルギー人でしたらそのようなサービスをするわけにはいきません』と言い放たれました。
ことほどさように分離したそれぞれのコミュニティが、自分の文化や言語の同一性を守ろうと強迫観念を持っている。そのなかに移民が入ってきて、彼らのコミュニティを形成したとき、彼らがどんな影響を受けるか、考えてみるべきでしょう。
それぞれのコミュニティに分かれて自分たちの文化や言語を維持しようと躍起になっているベルギーの人々は、見方を変えれば最悪な分離社会の住人であり、その問題は、フランスにおける同化政策による移民統合の失敗よりはるかに大きいといえるのです。
ドイツの危うい少子化対策
そして同様の問題は、ベルギーだけでなく多文化主義をとる北欧諸国全体にいえることです。
……
池上 ブリュッセルでは連続テロの追悼集会に極右が乱入し、ヒトラー礼賛や移民排斥を叫びましたね。警察隊が排除する騒ぎになっています。
トッド いま、ヨーロッパのエリート、指導者層は何をすべきなのか、完全に途方にくれています。
まず3月18日、パリのテロ実行犯の唯一の生存者と目されるサラ・アブデスラムがようやくベルギーで捕まり、一段落とほっとしていた直後に、今回のベルギーでのテロが起きてしまいました。
また数年来の難民問題も深刻です。少子化の問題を抱えるドイツのメルケル首相が難民の積極的な受入れを表明し、昨年だけでも100万人以上を受け入れてきました。しかしいま大量に押し寄せているシリア人は、これまでのトルコ移民と比べても、いっそうドイツ人と社会文化を異にする人々です。
この政策を続ければ、今後シリアだけでなく、イラク、アフガニスタン、そしてまもなくサウジアラビア人をもドイツは受け入れることになりましょう。しかしサウジアラビア人はいとこ同士で結婚する内婚率が35%に達する、極めて内向型の文化を持つ人々です。このような多様な民族の統合をドイツが本当にできると考えているのか。たいへん危険な挑戦であるといわざるをえない。
力の衰退を受け入れる日本
ヨーロッパ諸国はオープンなヨーロッパであるためにと、国境審査を撤廃し自由に各国間を行き来できるシェンゲン協定をこれまで停止しないできました。そのため、テロリストにも悪用され続けました。
しかもこの問題が、デフレで経済がうまくまわっていない状況下、失業率が下がらず、若者の社会統合がうまくいかないなかで起きているのです。
ヨーロッパは基本的には高齢化し成熟した社会です。年老いた社会が不安定で冒険的になるのは稀なことですが、いまヨーロッパは極度の知的空白が生じ、おかしくなっている。若年層の台頭で既存秩序が転覆して社会が変化してきたのがこれまでの人類の歴史でした ……
結局のところ、そのような合意は機能しないでしょう。流入する難民への対応はヨーロッパ各国でバラバラです。要するにヨーロッパは分裂状態といってよい。
一方、トルコはトルコで、自国のクルド人問題を抱え、これまた解体途上にるというます。解体しつつある両者間で交わされた約束は、まるで20年前の言葉で交わされたような話で、意味があるものではありません。実際には実行されないことは目に見えています。
最近のフランス人は、『EUレベルで扱うことになった』というのを、『なにも決まらないことになった』と了解するようになった。『ヨーロッパ』はもはや単なる言葉にすぎません。実体を失っています。
ヨーロッパにおける難民問題について考えるさい、私はまずドイツはどうするもか、ということを見ます。先ほども言いましたが、そもそも中東からの難民は、ドイツが呼び寄せているからです。フランスにも若干は来ていますけれども、失業率が高く、『シャルリ・エブド』でイスラム恐怖症を表明したフランスに難民が来たがるはずもありません。ドイツは少子化という日本と共通の悩みを抱えています。高齢化と人口減によって、老化へと向かっている両国ですが、日本は社会性の同質性、一体化を重視して、力の衰退を受け入れつつあるようにみえます。一方で、ドイツはまだ力の獲得を諦めていない。だから、移民を大量に受け入れ、若い人口を維持しようとしているのです。もちろん、ドイツもどこかでリーズナブル(理性的)な政策に方向転換する可能性もありますが。
……」
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9月4日 産経ニュース「【移民ショック】人気に陰り…メルケル独首相、大量受け入れ決断から1年 「合理主義者」の「情緒的」対応に批判も
【ベルリン=宮下日出男】欧州の難民・移民流入問題で、ドイツのメルケル首相がハンガリーの難民らの緊急受け入れを決定してから4日で1年を迎えた。大量流入は沈静化したが、国内では「寛容策」に反発する大衆迎合政党が台頭し、首相の人気は低下。連立政権のほころびも目立ち、安定を誇った基盤に陰りも見え始めた。
「われわれは成し遂げる」
メルケル氏は8月末、難民への対応で1年間繰り返してきた言葉に関し、「深い確信から述べた」と独紙に語った上で、その信念に変わりはないと強調した。
メルケル氏は昨年9月4日、ハンガリーの首都ブダペストに足止めされた難民らを「人道危機」として例外的に受け入れると決断。ドイツへの流入は急増し、昨年1年間で約110万人に上った。一方、国内では寛容策の是非をめぐり激しい論議がわき起こった。
独メディアは「合理主義者」であるメルケル氏の「情緒的」な対応で、必ずしも十分に先を見通していなかったとも分析。これに対し、ある閣僚は「死者でも出る事態となれば、国民も“国境開放”を求めたはずだ」と擁護する。
今年7月までにドイツに入った難民らは約24万人。欧州連合(EU)やトルコとの抑制策などで流入は減ったが、余波は収まらない。
北東部メクレンブルク・フォアポンメルン州では4日、州議会選挙が実施された。難民受け入れ反対を主張する大衆迎合的な右派政党、ドイツのための選択肢(AfD)は事前の世論調査で支持率22%に上り、メルケル氏の保守系、キリスト教民主同盟と並んだ。
来秋に総選挙が迫る中、メルケル氏は4期目を目指すかは「適切な時期」に示すと述べるにとどめる。難民の“玄関口”となり、寛容策に批判的なバイエルン州の姉妹政党が続投支持を留保し、メルケル氏の表明が遅れているとも伝えられる。連立相手の中道左派、社会民主党も流入の影響を「過小評価した」(ガブリエル副首相)と同盟側を批判し、距離を置き始めた。
7月には難民が絡むテロなども起き、国民のメルケル氏に対する信頼は大きく揺さぶられた。最新の世論調査では支持率が45%で5年ぶりの低水準に下落。続投への反対は51%に上り、賛成(46%)を上回った。
独紙フランクフルター・アルゲマイネはメルケル氏が「歴史書に名を残すのは確実」とする一方、ドイツを「道徳的な超大国にした政治家」としてか、「社会・文化的な対立に陥れた首相」としてかは予断できないと指摘している。」
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12月20日 産経ニュース「【独トラック突入】クリスマス前の惨劇、路面に散らばるツリーや装飾 「本当に起こるとは…」
19日、ドイツの首都ベルリンで、クリスマス市にトラックが突っ込んだ現場(ロイター=共同)
【ベルリン=宮下日出男】ベルリンで19日、クリスマス市にトラックが突進し、少なくとも9人が死亡した事件は、捜査当局がテロの可能性もあるとみて、状況や背景を慎重に捜査している。今年の欧州ではテロが相次ぐなか、クリスマス・ムードに包まれていたドイツ国内は、大きな衝撃に包まれた。
歩道に乗り上げ、破壊された屋台の脇に停車した黒い大型トラック。フロントガラスは割れ、装飾用の樹木や屋台の木材、カップなどが散乱していた。周辺は広い範囲で立ち入り禁止となり、救急車のけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「今は何も話したくない。そっとしておいてくれないか」。現場に居合わせた中年男性はショックのあまり言葉少なだった。周りでは駆けつけた市民が知人を見つけて抱き合ったりする姿もみられた。
現場を目撃した男子生徒(15)によると、トラックは突然突進してきて訪問客を何人もはねた上、停車した。「客はみんな悲鳴を上げて逃げ出した」。男子生徒は不安げな表情で振り返った。
現場は旧西ベルリン時代の中心的な繁華街。戦時中の空爆で尖塔が破壊されたカイザー・ウィルヘルム教会などの名所もある観光地の1つで、市には観光客も多くいたもようだ。
欧州でテロが相次ぐ中、現場にいた別の男性は「ドイツも狙われているとはいわれていたが、本当に起こるとも考えていなかった」と驚きの表情を見せた。」
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12月23日19:18 産経ニュース「【独トラック突入】テロの容疑者をイタリア・ミラノ郊外で射殺 警官に発砲、イタリア政府発表
銃撃戦の後、射殺されたアニス・アムリ容疑者の遺体の周囲を封鎖するイタリアの治安当局者ら=23日、ミラノ(AP)
【ベルリン=宮下日出男】ドイツの首都ベルリンで発生したトラック突入テロで、イタリア政府は23日、独捜査当局が行方を追っていたチュニジア国籍のアニス・アムリ容疑者(24)をイタリア北部ミラノで射殺したと発表した。
ロイター通信によると、23日に記者会見したイタリア内務相は、射殺した男がアムリ容疑者であることに「まったく疑いの余地はない」と述べた。伊警察当局者は、指紋を照合してアムリ容疑者であることを確認したとしている。
内務相は会見で、23日早朝にミラノ郊外で通常のパトロールをしていた警官が、不審な男を発見し制止しようとしたところ、男が拳銃を取り出して発砲した。この結果、警官1人が負傷し、手当を受けた。
テロは19日夜、ベルリン中心部のクリスマス市で発生。12人が死亡、48人が負傷した。」
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12月23日20:11 産経ニュース「【独トラック突入】射殺された容疑者、「神は偉大なり」と叫んで発砲
銃撃戦の後、射殺されたアニス・アムリ容疑者の遺体の周囲を封鎖するイタリアの治安当局者ら=23日、ミラノ(AP)
【ベルリン=宮下日出男】ドイツの首都ベルリンで発生したトラック突入テロは23日、捜査当局が行方を追っていたチュニジア国籍のアニス・アムリ容疑者(24)がイタリア北部ミラノで射殺されるという突然の展開となり、重大局面を迎えた。
アムリ容疑者の射殺により、懸念された新たな犯行は回避された。一方、当局は今後、背後関係などテロの全容解明を進めるが、容疑者の死亡によって困難を伴う可能性もある。
イタリアからの報道によると、アムリ容疑者は射殺される際、「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫び、当局者に発砲したという。所持していたリュックサックから仏語で記載された電車乗車券が見つかったとの情報もあり、フランスを経由してイタリアに入国した可能性がある。
独捜査当局はイタリア
ドイツ捜査当局は21日から公開捜査し、22日には犯行に使われたトラックの運転席側のドアと車体のフレームから容疑者の指紋が検出されたと発表。アムル容疑者を実行犯と断定し、逮捕状もとって行方の追跡に全力を挙げていた。
メルケル独首相も22日、「間もなく容疑者が逮捕されることを期待する」と記者団に述べていた。
独メディアはアムル容疑者がテロ数時間後、ベルリン市中心部のモスク(イスラム教礼拝所)に立ち寄っていたと報道。このため容疑者はベルリン周辺にまだ潜伏しているとの見方も出ていたが、イタリアまで逃走していたことで、警備態勢のあり方も改めて課題となる可能性もある。
ドイツ政府報道官はアムル容疑者の射殺後、政府としてまだ確認していないが、伊当局と捜査で協力していく考えを示した。」
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2017年8月29日 産経ニュース「【ベルリン物語】移民たちにはびこる〝欧州ブランド〟が新たな渡航を生みだす
7月末、イタリア南部シチリア島の港でアフリカから命がけで地中海を渡ってきた難民や移民が到着する様子を取材した。救助された移民らは全員無事。関係者からは安堵(あんど)の声が出た。ただ、上陸を手伝ったボランティア青年は「正直、複雑な気持ち」と漏らした。
意外な言葉だった。青年は20代後半で自身もアフリカ出身だ。約10年前、同じようにゴムボートを使ってイタリアに渡ってきた。渡航の危なさを知っているので、希望を抱く同胞が新天地に無事たどり着いたことを喜ぶと思っていた。
理由をたずねると「そんなにいい仕事があるわけじゃない」。移民らの苦労も身をもって知っているということだ。ボランティアをしているのは4カ国語を話せるので支援団体に頼まれたから。自身が描いた“将来”とは異なるようだ。
それなのになぜ欧州への流れは収まらないのか。青年はこうも語る。「移民らが帰省の際、プライドから欧州でうまくいっていると嘘をつくことも多い」。それが次の渡航を促すと、やりきれない表情だ。
無論、見捨てることもできない。女性ボランティアは「救助をやめれば、アフリカの紛争や貧困などに目をつむることになる。そうなりたくない」。移民問題を取材すると、いつも複雑な気持ちになる。(宮下日出男)」
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2017年3月1日号 ニューズウィーク日本語版「ヨーロッパ移民問題の焦点はイスラム教徒からアフリカ人へ アフシン・ラモビ
選挙では反イスラムの右派が支持をあつめているが
真の問題はアフリカから流入する経済難民だ。
現在のヨーロッパが直面している共通の政治課題は、移民問題だ。昨年も30万人の難民や移民が中東とアフリカから押し寄せた。ドイツでは、大量の難民流入を巡ってアンゲラ・メルカル首相への批判が高まり、州議会選挙で反移民の右翼政党が躍進した。右派が大きな支持を集めたのは、第二次大戦後初めてのことだ。
著者が滞在中のオランダでも、移民問題が今週の総選挙の大きな争点となり、伝統的にリベラルなオランダの有権者がヘールト・ウィルダース党首が率いる極右・自由党や中道右派政党の支持に回る例が増えている。フランス大統領選でも、ドナルド・トランプ米大統領の『アメリカ・ファースト』に倣って『フランス・ファースト』を唱える極右・国民戦線の党首マリーヌ・ルペン候補が世論調査で首位を争っている。
右派の台頭を後押ししているのは、イスラム教徒の移民に対する強い不信感だ。筆者はアムステルダムで、普段はリベラルなコスモポリタンの女性からこう言われた。『移民は歓迎する。でも、私たちの価値観に反対する移民は歓迎できない』
この発言が、女性は顔をベールで隠し、若い男性はあごひげを伸ばす急進派のイスラム系移民を指していることは言うまでもない。
ヨーロッパが今後も移民問題に悩まされ続けることは間違いない。ただし、次の難民の波はイスラム教徒ではなく、多種多様な信仰を持つサハラ砂漠以南のアフリカ人が多く占るだろう。イタリアのランペドゥーサ島と、地中海沿岸のギリシャの港町の違いを見れば明らかだ。
地中海を命懸けで横切り、ランペドゥーサ島に上陸する移民の多くは、経済的豊かさを求めるサハラ以南のアフリカ出身者だ。一方、ギリシャの港に上陸するのはシリア内戦を逃れた難民が多数を占める。戦火が下火になれば、難民の流入は減る。最終的には多くのシリア人は帰国の途に就くかもしれない。
都市化とネットの産物
だが、アフリカ系移民は違う。彼らをヨーロッパに向かわせるのは、長期的な経済の動向と人口動態、都市化だ。アフリカからの移民の波が衰える気配はない。
アフリカの中央値は20歳、ヨーロッパは42歳だ。過去10年間、サハラ以南のアフリカでは経済的に明るい兆候が見られるが、大半の国々は若者たちに十分な雇用を提供する余力がない。
例えばナイジェリアは次の主要な新興国候補として注目されるが、若者たちの大量流出は止まらない。彼らは貪欲な密航業者の手引きで危険なサハラ砂漠を縦断してリビアに入り、さらに危険な密航船でランペドゥーサ島に向かう。
アフリカの都市化とインターネットを見逃せない要因だ。国連の予測によれば、アフリカの都市人口は現在4億7,000万だが、50年には10億人を超える。
都市は農村部に比べ、金融サービスや情報ネットワーク、医療施設、NGO(非政府組織)へのアクセス環境が整っている。それ自体はいいことだが、同時に都市住民は密航業者のネットワークと密航者の成功話に触れる機会も多い。
ネット環境の整った都市に住んでいるが、雇用機会がほとんどない若者の存在は社会の不安定要因だ。だから政府には、彼らの流出を止めようとする動機がほとんどない。その結果、アフリカの都市化が進めば進むほど、祖国に幻滅して外国での生活を夢見る若者立ちも増えると予想されている。
ある意味でアムステルダムは、現代につながる偉大な革命の発祥地と言えるかもしれない。この革命の原動力は、豊かさへの渇望と個人主義だった。この都市の一角で誕生したオランダ東インド会社は、世界最初の多国籍企業であり、現在では空気のような存在になったグローバル経済の種をまいた。
それを考えれば、大量のアフリカ系移民がヨーロッパに殺到する現状は、歴史の皮肉と言えんsくもない」
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2017年12月号 WiLL「反撃の経済学
移民制限に舵を切ったドイツ 三橋貴明
9月24日に投開票されたドイツ連邦議会(下院)選挙において、右派の『ドイツのための選択肢(以下、AfD)』が第三党に躍進。史上始めて94議席を獲得した。メルケル首相率いる与党のキリスト教民主・社会同盟は、大きく議席を減らすことになった。
AfDについて、未だに『極右』呼ばわりするマスコミが少なくないが、同党の移民政策は別に『過激』でも何でもない。AfDは、確かに反イスラム色は強いものの、移民問題については、
『ドイツの民主主義的発展に必要な、専門的な能力を持つ外国人は、移民として受け入れる』
『外国人の犯罪者を強制送還する条件の緩和』
『重犯罪を犯した帰化外国人から国籍剥奪』
『難民の受け入れ数に上限を設ける』
『ドイツに家族を呼び寄せることを禁止する』
『難民要件が消滅した難民は、母国に送還』
など、当たり前の政策を掲げている。別に、AfDは『移民排斥』をうったえているわけではないのだ。単に『節度ある移民受け入れ』を主張しているに過ぎない。
さて、AfDの躍進を受け、ドイツのメルケル政権は難民の年間受け入れ人数を20万人以下に抑制する方針を固めた。2015年に、メルケル首相が、
『政治難民の受け入れに、上限はない!』
などと大見えを切り、難民はもちろん、経済移民まで受け入れたドイツだが、大きな曲がり角を迎えたことになる。
17年の6月、ドイツ当局は難民(偽装難民の移民含む)の75%が長期失業と生活保護になることを認めた。
ドイツ連邦政府のアイダン・オズワズ移民難民統合長官は、今後の5年間を見ても、難民・移民の4分の1から3分の1しか労働市場に参入しないと指摘。すなわち、7割から8割の難民・移民は、ドイツ国民の税金にぶら下がって生きていくことになる。
連邦労働社会省の統計によれば、難民の就職率はわずか17%に過ぎない。
ドイツ連邦雇用庁の最新統計によると、ドイツ国内にいる200万人(!)の外国人が、失業保険を受け取っているとのことである。
人手不足に悩むドイツは、難民・移民を『労働力』として当初は歓迎した。とはいえ、現実には難民・移民は労働力にならず、失業手当や生活保護にただ乗りするフリーライダーとかしてしまった。しかも『数百万人』という規模である。
もちろん、そもそも外国人に『人手不足解消』を委ねようとした時点で間違っていたのだ。万が一、移民たちがドイツ語を話す忠実で『安く働く』労働者だった場合、ドイツ国民の実質賃金は引き下げられることになる(産業界は喜ぶだろうが)。
Newsweek誌が、移民問題について『移民は「勤勉な労働者」か、それとも「怠惰な居候」か』という、移民反対論を皮肉る記事を書いていた。著者に言わせれば、移民は『勤勉な労働者』であっても入れてはならないのだ。理由は、国民の実質賃金を引き下げ、生産性向上の機会を奪うためである。
国民の実質賃金が中期的に引き上げられる生産性向上こそが、経済成長の源だ。それこそが、資本主義なのである。人手不足を『外国人労働者』などと考える時点で、その人は『反・資本主義』だ。
もっとも、ドイツの事例により『勤勉な労働者』として入れた難民・移民にしても、結局は『怠惰な居候』が大半であったことが証明された。『怠惰な居候』で済めば、話はまだマシで、犯罪、暴動、テロという、社会を恐怖に陥れる行動に出る難民・移民は、現実に存在する。
16年のドイツでは、外国人による犯罪件数が29万件を越えた。外国人犯罪の激増を受け、ドイツ全体の犯罪件数が10.7%になってしまった(外国人犯罪を除くと微減)。
ドイツの問題が悲惨なのは、解決策がないことだ。今更、数百万人の難民・移民を祖国に送還することは不可能である。
ドイツ国民はこのまま未来永劫、外国人の社会保障へのフリーライドや、外国人犯罪、テロ等に苦しめられることになる。ドイツの事例を見てなお、日本国民は『外国人労働者(=移民)受け入れ』を叫ぶ政治家を支持するのか」
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- 作者:近藤 潤三
- 発売日: 2013/08/01
- メディア: 単行本
- 作者:野中 恵子
- 発売日: 2020/10/19
- メディア: 単行本
「再国民化」に揺らぐヨーロッパ: 新たなナショナリズムの隆盛と移民排斥のゆくえ (龍谷大学社会科学研究所叢書)
- 発売日: 2016/03/15
- メディア: 単行本