🎄57」─3─戦争に使われた毒ガスから抗がん剤が開発され現代で治療薬として処方されている。~No.196 

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 毒は使い方によって薬になる。
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 軍事研究が歴史を動かし人類に幸福をもたらすが、現代日本の理想的平和至上主義者は如何なる軍事研究も否定している。
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 YAHOO! 2023年12月6日 JAPANニュース ダイヤモンド・オンライン「第二次世界大戦で大惨事…もっとも多くの人命を奪った「毒ガス」から生まれた“衝撃の新薬”
 人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。
● すべての薬は…
 創薬の歴史を振り返ると、実は毒から生まれた薬の例は枚挙にいとまがない。
 むしろ、すべての薬は毒でもある。人間に都合が良い時は薬、都合が悪い時は毒と勝手に呼び分けているだけだ。
 中でも印象的なのは、人間が殺戮を目的につくった猛毒から薬が生まれた例だ。それが、抗がん剤である。
● 連合国軍の大失態
 第二次世界大戦中の一九四三年十二月、イタリアのバーリにある連合国軍の重要な港に、ドイツ軍が大規模な空襲を行った。
 この攻撃は「バーリ空襲」と呼ばれ、連合国軍にとっては恐るべき大失態となった。その理由が、マスタードガスの流出だ。
 被害を受けたアメリカの輸送船の一つ、ジョン・ハーヴェイ号は、二〇〇〇発ものマスタードガス爆弾を極秘裏に積んでいた。ドイツ軍が化学兵器を使用した際の報復が目的であったが、これが大惨事を招いた。
 ドイツ軍の爆撃によって、この七〇トンにも及ぶ猛毒が海水に流出。一部は蒸発して毒ガスとなり、港町に拡散したのである。
 マスタードガスは、これまでもっとも多くの人命を奪ってきた毒ガスの一つだ。マスタードやニンニクに似た独特の臭いが名前の由来である。
 事故当時、大勢の負傷者が医療機関に搬送されたが、マスタードガスの存在は秘匿されていたため、誰もが中毒に気づけなかった。結果としてマスタードガスの被害を受けた八〇人以上の兵士が死亡し、数ヵ月のうちに民間人も含め一〇〇〇人以上が亡くなった(1)。
 マスタードガスは「びらん剤」に分類され、皮膚のびらん(ただれ)を引き起こす化学兵器だ。
 だが、この大規模な被害によって明らかになったのは、皮膚症状にとどまらないマスタードガスの真の恐ろしさだった。
 マスタードガスの被害を受けた患者の血液には、奇妙な変化が起きていた。白血球の数が激減していたのだ。
 恐ろしいことに、この猛毒は骨髄を狙い撃ちし、人体の造血機能を破壊する作用があった。
 白血球や赤血球、血小板などの血球は骨髄でつくられる。この機能が失われれば、血液中に新たな血球を供給できない。
 特に白血球の寿命は、種類によって異なるもののおおむね数時間から数日と短い(赤血球の寿命は約百二十日、血小板は約十日)。
 血球の工場が攻撃されれば、あっという間に血液中の白血球は消失し、免疫機能は壊滅、重篤感染症で死の危機に瀕することになる。
● イェール大学の研究者の発見
 だが、イェール大学の薬理学者アルフレッド・ギルマンとルイス・サンフォード・グッドマンは、この特徴に関心を持った。応用すれば、がん治療に使えるのではないかと考えたからだ。
 白血病やリンパ腫などの血液のがんは、血球ががん化して無秩序に増殖する病気だ。血球のみを選択的に攻撃することができるなら、がん化した血球を破壊できるかもしれない。
 マスタードガスからつくられた化合物、ナイトロジェンマスタードは、一九四〇年代以後、リンパ腫の治療に用いられ、予想通り劇的な効果を発揮した。
 「抗がん剤」そのものが存在すらしなかった当時、これはまさに奇跡というほかなかった。
 のちに、ナイトロジェンマスタードを改良したエンドキサン(シクロフォスファミド)やアルケラン(メルファラン)などさまざまな薬が抗がん剤として開発され、現在に至っている。
 皮肉にも、戦時中に使用された毒ガスが抗がん剤の歴史の第一歩だったのだ。
 【参考文献】
(1)『がん 4000年の歴史(上・下)』(シッダールタ・ムカジー著、ハヤカワ文庫、二〇一六)
 (本原稿は、山本健人著『すばらしい医学』を抜粋、編集したものです)
 山本健人(やまもと・たけひと) 2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に18万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。
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 ウィキペディア
 ナイトロジェンマスタード(Nitrogen mustard、窒素マスタードとも呼ぶ) は化学兵器のびらん剤の一つ。化合物としてはアミン類であり、第一次世界大戦で使われたマスタードガスの硫黄原子を窒素に置き換えた分子構造である。
 また、細胞毒性に着目して使用された最初の抗がん剤であり、白血病悪性リンパ腫の治療薬として使われていた。クロロエチル基がDNAをアルキル化することによって核酸の合成を妨げ抗腫瘍効果を現す。
 歴史
 マスタードガスは、
 硫黄由来の臭気を持つ。
 水に溶けにくく、油に溶けやすい
 毒性が強い
 以上の3点から、化学兵器としては取り扱いにくい物であった。そのため、第一次世界大戦後、各国でマスタードガスの改良が試みられ、アメリカとドイツでほぼ同時に完成。これがHN-2である(後記)。合成法に関しては1935年、チェコスロバキアの科学者ウラジミール・プレローグとヘンドリック・ステフェンにより報告された。
 HN-2は常温で液体で、水に溶けないが、塩酸と反応して水溶性の塩(沸点109~111℃)となる。マスタードガスほどではないが毒性は強く、ラットへの静脈注射によるLD50は1.1mg/kg。暴露経路は、皮膚や呼吸器、眼球などからの吸入であるが、遅効性であり、暴露後数時間を経てから皮膚のただれや水疱の発生等の症状が生じる。第二次世界大戦中には実戦使用されていないが、ドイツ軍はHN-3を2,000トン製造していたとされる。
 1943年12月2日、イタリアの連合国側の重要補給基地であるバーリ港にドイツ軍は爆撃を仕掛け、輸送船・タンカーを始めとする艦船16隻が沈没した。その中のアメリカ海軍リバティー型輸送船「ジョン・E・ハーヴェイ号」には大量のマスタードガスが積まれており、漏れたマスタードガスがタンカーから出た油に混じったため、救助された連合軍兵士たちは大量に被曝。
 翌朝、兵士たちは目や皮膚を侵され、重篤な患者は血圧の低下、末梢血管の血流の急激な減少などを経て白血球値が大幅に減少。結果、被害を受けた617人中83名が死亡したが、一日あたりの死者の数を見ると、被害後2日目、3日目に最初のピークを迎え(イペリットによる直接の死者)、8日、9日後に再度ピーク(白血球の大幅な減少による感染症)を迎えた。
 アメリカ陸軍はこの事件および化学兵器研究チームの報告から、マスタードガスおよびナイトロジェンマスタードX線同様に突然変異を引き起こす可能性が高いと考え、当時はX線照射療法しかなかった悪性リンパ腫の治療が試みられた。マウスで成果が確かめられた後、1946年の8月には末期癌患者に対して新たに開発されたHN-3の塩酸塩が使用された。10日間の注射で、腫瘍は二日目から縮小し始めて二週間で消滅。副作用で障害を受けた骨髄も数週間後には回復したが、結局再発死亡した。
 1949年、東京帝国大学医学部薬学科教授・石館守三と東北帝国大学医学部病理学教授・吉田富三は、ナイトロジェンマスタードの毒性を弱めるためにナイトロジェンマスタードの塩酸塩を炭酸水素ナトリウム水溶液に溶かし、過酸化水素で酸化することによりナイトロジェンマスタードN-オキシド(商品名:ナイトロミン)を合成したが、その毒性はナイトロジェンマスタードの半分以下であった。ナイトロミンの塩酸塩は、日本では吉富製薬(当時。現在の田辺三菱製薬)により抗悪性腫瘍剤として販売された。(2014年現在ナイトロミンは日本では販売されていない。)
 その後、ドイツで同じくナイトロジェンマスタード誘導体のシクロホスファミドが開発され、ナイトロミンは市場を奪われることになった。さらに、ナイトロジェンマスタード誘導体としてクロラムブシル、メルファラン、ウラシルマスタードなどが開発されて現在に至る。
このように、ナイトロジェンマスタードはアルキル化剤の第一号として抗がん剤の歴史の一ページを開いたのである。
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