🔔50」─1─アフリカの人々はなぜ旧宗主国のヨーロッパを目指すのか。〜No.134No.135 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 2024年2月5日 YAHOO!JAPANニュース NHK出版デジタルマガジン「アフリカの人々はなぜヨーロッパを目指すのか?命懸けで地中海をわたる切実な理由
 これから待ち受けるアフリカの人口激増にともない、豊かな国への移民、とりわけヨーロッパを目指す移民が急増すると予想されています。アフリカの人々を先進国へと駆り立てる誘因は何か。また、大規模な移民が先進国の社会に及ぼす影響を分析します。
 人口動態を通して今後の社会を読み解くユニークな教養書『人口は未来を語る「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』より。
 『人口は未来を語る「10の数字」で知る経済、少子化、環境問題』第2章より
 命懸けで地中海をわたる切実な理由
 「ときどきミラノの一部の地区で、非イタリア人の存在があまりにも目立ち、イタリアでもヨーロッパでもなくアフリカの都市にいるような気がするというのは、受け入れがたい。さまざまな肌の色の多民族社会を望む人も少しはいるようだが、わたしたちは賛成できない」。これは通りすがりの人でも北イタリアの極右支持者でもなく、イタリアの首相だったシルヴィオ・ベルルスコーニが2009年に述べた言葉である。
 大規模な移民が先進国に与えつつある影響についてはあとで述べるとして、まずは移民を送り出している側の、発展途上国の一部で起こっている人口急増について見ていこう。アジアと中南米では人口増加の勢いが弱まってきて、ほとんどの国で年齢中央値が上がりつつあり、大量の人口流出の可能性は低下している。アフリカに関しては、人口の激増が起こるのはまだこれからである。それに伴って移民も急増するはずで、その多くはアフリカ内の非都市部から都市部へ、貧しい国から少しでも豊かな国へと移動するだろうが、先進国のなかでもっともアクセスしやすいヨーロッパへ向かう人々も今以上に増えるだろう。
 アフリカの人々にとってヨーロッパ大陸は、植民地時代の歴史とその時代に習得した言語(とくに英語とフランス語)により、もっとも慣れ親しんでいる地域でもある。セネガルで大学を出たが仕事がなくて困っている若者にとっては、北京よりもパリのほうが身近だし、ナイジェリアのラゴスの同じ立場の若者にとっては、東京よりもロンドンのほうがずっと身近だ。
 なんとか地中海を渡ることができたアフリカ人の多くは、イタリアかヨーロッパのどこかの難民キャンプにたどり着く。だがそれはほんの一部であって、地中海を渡ることもできず、いや地中海に出ることさえできない人々のほうがはるかに多い。
 28歳の女性ファトマタは、故郷のシエラレオネの首都フリータウンを出て地中海を目指したが、サハラ砂漠を渡る途中で奴隷商人の手に落ち、虐待を受けた。どうにか逃げ出したものの、再びつかまってアルジェリアで投獄された。もう一度逃げることができたので、ヨーロッパへ行くのはあきらめて国に戻るしかないと思い、NGO(非政府組織)に助けを求めた。故郷を出てから2年後、ファトマタはようやく故郷に戻ることができ、心底ほっとした。
 ところが彼女は家族に迎え入れてもらえず、縁を切られてしまった。約束の地にたどり着けず、そこから送金することもできなかったからである。「こんなことなら戻るんじゃなかった」と彼女は嘆いた。兄からは、「よくも戻ってこられたものだ。家族のために何も持ってこられないなら、行った先で死ねばいい」と言われたという。
 ファトマタのように地中海を渡れなかったり、送り返されたりした人々の家族は、ほぼ例外なく、頼りにしていた送金を受け取ることができずに落胆する。多くの場合、家族の1人を豊かでチャンスに満ちた夢の国に送り出すために、一家は大金を投資しているからだ。夢の国からの送金がなければ、投資した金額を失うことになるばかりか、その金額を次の家族の投資に回すこともできない。わたしにはロンドンで長く暮らしているナイジェリア人の友人がいるが、家族と電話で話すたびに、イギリスで新生活を始めたいと思っている従兄弟だの遠い親戚だのを押しつけられそうになるそうだ。
 アフリカの人口増加がヨーロッパの民族地図を塗り替える
 アフリカから外に出ようとする大きな圧力には、このように経済と人口の両方が関係している。アフリカ大陸では人口が急増しているが、同時に少しずつ豊かになってきてもいるので、金をかき集めれば誰か1人をヨーロッパに送り出すことができるという家族が増えている。
 とくに都市部に住む人々は広い世界を知る機会が多く、ほかの大陸での暮らしを思い描きやすい。もっとも最近では、片田舎で暮らす人々でさえ新しい暮らしを夢見るようになりつつある。携帯電話でインターネットにアクセスし、フェイスブック(現在の名称はメタ)などのSNSや、ズームやスカイプといったコミュニケーション・ツールを使えば、自分の周囲とは桁違いの繁栄が見られるのだから当然だ。何百万人ものアフリカ人が、自分たちもそこに手が届くのではないかと思いはじめている。見たものから願望が生まれ、願望から行動が生まれる。
 人口圧力、経済的魅力、IT技術を介した憧れの喚起のほかにもうひとつ、人々にアフリカからの移住を促す要因があり、それは移住そのものである。誰かが移住に成功すると、その人は家族や親族から別の誰かの移住を助けるように、呼び寄せて受け入れるようにと説得や甘言によって誘導される。そして受け入れ国のなかで移民のコミュニティがある規模に達すると、後続の人々の移住のハードルが少し下がる。
 具体的には合法、非合法を問わず受け入れルートが確立され、連絡先、宿泊先、到着時の案内などが提供されるのだが、これらは後続の人々が新しい国でスムーズに生活を始めるために欠かせないものだ。叔母が旅費の一部を出してくれるかもしれない。従兄弟が最初の数日ソファに泊めてくれるかもしれない。旧友が仕事を紹介してくれるかもしれない。
 なじみの物を売る店、なじみの料理を出すレストラン、故郷と同じ新聞、その他の商品やサービスがあれば、移住後も母国をしのばせる社会的・文化的バブルのなかで安心して暮らすことができる。こうしたバブルの存在が移住を容易にし、さらに多くの人々に移住を決意させる。今日ヨーロッパにやってくるアフリカ人について言えるこれらのことは、20世紀初頭にニューヨークに到着したユダヤ人やシチリア人にも言えることだった。
 アフリカからヨーロッパへの移民がどの程度の規模になるかは、ヨーロッパ側の移民政策にも左右される。2016年8月〜17年7月の1年間だけで、18万3000人の移民がイタリアに到着した(これがピークでその後下がっている)。多くのアフリカ人はさらに別の国を目指してイタリアに入るが、それでも100万人以上がイタリアにとどまっているのが現状である。イタリアではその数十年前からポピュリスト政党が台頭していたが、移民の爆発的増加は、2018年に彼らが政権を奪取する絶好の契機となった。今もなお事実を認めたがらない人がいるものの、アフリカの人口増加がすでにヨーロッパの民族・政治地図を塗り替えつつあることは否めない。
 著者
 ポール・モーランド Paul Morland
 人口学者。ロンドン大学バークベック校アソシエイト・リサーチ・フェロー。オックスフォード大学で哲学・政治・経済の学士号、国際関係論の修士号を取得後、ロンドン大学で博士号を取得。イギリス、ドイツの市民権を持つ。作家・放送作家として、現代および歴史的な世界の人口動向について執筆・講演を行うほか、フィナンシャル・タイムズ紙、サンデー・タイムズ紙、テレグラフ紙など多くの新聞や雑誌に寄稿。著書に『人口で語る世界史』(文藝春秋)がある。ロンドン在住。
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