🐖59」─3・B─新・千人計画。報酬5億円を餌に機密情報を持つ国外の学者・エンジニアに接触。~No.284 

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 2023年11月21日 YAHOO!JAPANニュース NEWSポストセブン「【習近平「新・千人計画」】中国が「報酬5億円」を餌に機密情報を持つ国外の学者・エンジニアに接触 日本国内での活動も確認
 習近平国家主席は新たな形で「千人計画」を復活か(写真=新華社/共同)
 ついに米中首脳会談、日中首脳会談に動いた習近平国家主席。緊張緩和が進むのか注目されるなか、かつて“スパイ養成計画”として批判を受けた「千人計画」が密かに復活しているという。国際ジャーナリストの山田敏弘氏がその実態に迫った。
 【画像】千人計画の後継「啓明」との関与が指摘されている人材仲介サイト。他、今では消滅した「千人計画」のウェブサイトも
 共同研究を名目に
 最近、日本の公安警察関係者が水面下で注目している事案がある。世界でも圧倒的な技術を誇る日本のある紡績関係の製造企業が、中国企業に技術を盗まれている懸念が浮上しているのだ。中国企業は、共同研究を名目としてこの日本企業に接触し、紡績機械部品を入手したという。
 公安警察関係者によれば、「問題はこの中国企業が、中国人民解放軍の武器装備品の研究開発を請け負う大学研究部門に、入手した紡績機械部品を納入していることだ」と言う。日本の先端技術が軍事転用される可能性があるということだ。
 さらにこの中国企業の代表は、中国の国家的な人材招致プロジェクト「千人計画」に関与していたことがわかっている。
 千人計画は、2008年に中国政府が海外で活動する研究者やエンジニア、起業家などから、技術や知的財産などを獲得する目的で立ち上げられた。
 2015年以降は、習氏の主導で、「軍民融合」と、2025年までに中国を技術大国にする「中国製造2025」が国家の重要戦略になり、中国はスパイ工作などに加えて、千人計画で世界の先端技術を人材ごと獲得する取り組みをさらに強化してきた。千人計画は、開始から10年ほどで世界中から7000人以上の優秀な人材をリクルートしたと言われている。日本の一流大学の研究者らの関与も明らかになった。
 だが、2018年にFBIがアメリカで千人計画などを介して中国に技術提供などを行なう研究者らを摘発。さらに、「技術流出などによる安全保障の脅威」として中国の技術窃取が世界的に大きな批判を浴びたことで、2018年から中国政府は千人計画の喧伝を停止し、同計画は休止状態に陥っていた。2020年4月には公式サイトも完全に消滅している。
 ところが、最近、密かに千人計画が新しい形で復活しているという。その一例が、冒頭で紹介した日本の紡績関係企業に接近した中国企業である。
 千人計画の後継と見られているのが「啓明(チミン)」と呼ばれるプログラムだ。啓明は、中国の工業情報省の監督で進められている。2018年以降も中国の千人計画に携わってきた中国共産党中央組織部の元職員はこう話す。
 「啓明は千人計画を引き継ぐものですが、千人計画の反省から、目立つような喧伝はしていない。ただ、国外での人材・技術確保の方針は同じように続いています。1990年代から人材招致を行なっていた科学技術省なども関与して進められている」
 啓明では、半導体など先端技術の獲得に力を入れている。アメリカが2022年10月から半導体の対中輸出に対する締め付けを強化したことで、中国が目指してきた「半導体自給率70%」という目標が危うくなっているからだ。
 そのような機密技術を持つ学者やエンジニアなどを千人計画以上の厚遇で獲得しようと躍起になっている。最大で5億円近い報酬を用意したり、家や車の提供を“餌”にするケースもあるという。
 200平米の住宅を用意
 千人計画は、中国の人材派遣会社を介して募集をかけるなどして、技術を持つ人材を獲得していた。啓明でもそれは変わらず、これまでに北京市ベンチャーキャピタル浙江省の人材派遣会社も関与が指摘されている。高収入を謳う人材仲介のウェブサイトや専用アプリなどでも、人材獲得に乗り出しているという。
 啓明に関連する人材仲介の情報サイトを見ると、「外国人科学者募集。200平米の住宅と300万ドル(約4.5億円)の報酬を用意」と書かれた、外国人向けと思われる募集や、「ロボティクス・知能システム研究、年収60万元(約1200万円)以上+契約手当200万元(約4200万円)+科学研究事業費120万元(約2500万円)」などの記載がある。この記述を見て、中国人の仲介業者が外国人科学者獲得に動くこともあるという。
 千人計画では、大学の研究者など、学術界での人材獲得が多く行なわれていたが、啓明では民間企業の研究者もターゲットになっている。元米国防総省の中国分析官であるジェフ・ストッフ氏はこう指摘する。
 「中国共産党は大学などの協力だけでなく、民間企業の人材発掘イベントや、ベンチャーキャピタルによる新興企業への投資を通じて人材や技術を獲得している」
 日本でも人材リクルートの活動は確認されている。啓明の指揮下では、ビジネス特化型SNSがよく使われているという。
 都内で防衛関連企業に勤めるA氏は、今年8月に上海市シンガポールの大学研究機関に勤めていると名乗る中国人男性から、ビジネス特化型SNSを通じてメッセージを受け取った。何度かのやり取りを経て、中国人男性は自身のクライアントの依頼だとして、A氏の勤務先が扱う「CNC(コンピュータ数値制御)」について研究論文を書いてほしいと依頼してきた。「秘密保持契約を結んでいる」との理由でクライアントについては詳述せず、「クライアントは論文などの費用を支払いたいと言っている」と伝えてきたという。
 それ以降のやり取りは、メッセージを暗号化したり、一定時間後にやり取りが消える機能などを持つアプリ「テレグラム」で行なうよう提案してきた。
 怪しいと思ったA氏は、知人に頼んでプロフィールに使われている顔写真を調べてみると、まったくの別人が見つかった。つまり別人の顔写真を使ってリクルート活動を行なっていたのである。
 「ビジネス特化型SNSやテレグラムを使って論文の執筆を求めたり、共同研究を持ちかけるパターンは、啓明などのリクルートの一環として行なわれている可能性が高い。また(情報工作を行なう)中国共産党中央統一戦線工作部が協力していると考えられます」(前出・中央組織部の元職員)
 「国防7校」の出身者
 千人計画のもとで、日本の学術界でリクルート活動を行なってきたとされる中国人関係者らも、啓明の活動に組み込まれている可能性がある。
 筆者が極秘に入手した日本政府の調査リポートには、新たな人材招致活動を意識した上で、日本の大学に勤める中国人職員や、日本政府の研究費を獲得した国立大学の中国人留学生の研究内容がまとめられている。これらのリポートは、千人計画が休止して以降の日本における中国の活動実態を改めて調べたものだ。
 日本の大学に在籍する中国人教授には、要職に就く人も少なくない。このリポート作成に関わった政府関係者はこう言う。
 「彼らの中には、学内の先端技術の研究開発だけでなく、大学などの教育・研究機関と企業が連携する産学連携の情報など、すべてにアクセスできる教授も複数いる」
 例えば、リポートのリストに名前があげられたある国立大学の中国人幹部B氏は、同資料によると、幹部に就任する前に中国で千人計画に選出されていたことが指摘されている。
 別の国立大学の幹部の中国人C氏はリポート上で、軍事関連技術研究を行なう機関であり、千人計画や人民解放軍と関係が深いとされている「国防7校(国防7大学)」出身と書かれている。
 「大学幹部の教授らは、中国と日本との共同研究を推進するなど学術交流を締結しており、中国人留学生の招致や、中国への留学の橋渡しを決定できる立場にある」(同前)
 そういった大学幹部が啓明などの人材招致活動の窓口になっている可能性があるということだ。
 B氏、C氏それぞれに話を聞くと、B氏は大学側が「過去も現在も(B氏は)千人計画と啓明には全く関与していない。本学においては役員等の要職者に関して、他の職員以上にリスク管理をしっかりと行なっている」と回答し、C氏は期限までに回答はなかった。
 リポートの中国人留学生に関する部分には、ある日本有数の名門国立大学の2022年度の研究実態についての記述がある。資料を見ると、研究プログラムで日本政府の奨学金を受けている学生のうち、半数近くは中国人留学生であることがわかる。
 「留学生が学位取得後、日本で得た技術や研究などを中国に持ち帰るなどして啓明に組み込まれるリスクが高いと見ており、注視している」(前出・政府関係者)
 果たして日本は、この新たな脅威に対応して自国の人材や技術の流出を防げるのだろうか。
 【プロフィール】
 山田敏弘(やまだ・としひろ)/1974年、滋賀県生まれ。国際ジャーナリスト。1999年米ネバダ大学ジャーナリズム学部卒業。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版編集記者などを経て、米マサチューセッツ工科大学で国際情勢やサイバーセキュリティ、インテリジェンスの研究・取材活動にあたった。帰国後はジャーナリストとして活躍。著書に『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社)など。
 ※週刊ポスト2023年12月1日号
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