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2022年11月11日 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「世界には、どうして豊かな国・地域と貧しい国・地域があるのか?その「3つ」の原因
世界には、どうして豊かな国・地域と貧しい国・地域があるのか。
オデッド・ガロー『格差の起源 なぜ人類は繁栄し、不平等が生まれたのか』は、1人当たりの所得の2010~18年の国家間格差のうち、原因がわからない部分の約4分の1は「社会の多様性」に帰せられ、「地理と気候の特性」でおよそ5分の2が、「病気の蔓延しやすさ」で約7分の1が、「民族や文化の要因」で5分の1、「政治制度」で約10分の1が説明できる可能性があると言う。
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何が経済的繁栄の大幅な開きを生んだのか。貧しい国が豊かな国に追いつくのを阻んできたのは何なのか。同書の議論を紹介しよう。
国家間格差の背景1:地理や気候の特性、病気の蔓延しやすさ
PHOTO by iStock
ヨーロッパの方が先に産業革命が起こって富を蓄積し、軍事力が強大になったことで、ほかの地域を圧倒するようになった――ということは誰にでも思いつく。ではどうして工業化社会への移行の時期の早い・遅いが生まれ、また、そのあと「追いつく」のに遅れる地域がいまだあるのか。
20世紀後半には、技術進歩と物的資本・人的資本の蓄積が経済成長を促すと考えられ、途上国支援政策が進められてきた。しかし効果は限定的だった。つまり、こういったことだけでは繁栄の理由は説明がつかない。
ガローによれば、産業革命に出遅れた地域は、狩猟採集生活から農耕・定住社会への移行を早くに果たしていたことが少なくない。たとえばトルコやヨーロッパ南東部はイギリスや北欧諸国より何千年も早く農耕社会を実現したが、今ではそれらの国より貧しい。そのほかの地域においても、農業化をいち早く経験した豊饒な土地は、ヨーロッパ諸国に植民地にされてしまったところが少なくない。
どうしてなのか。農業へ特化したせいで都市化が妨げられたからだ、とガローは言う。つまり一種のイノベーションのジレンマである。
農業で豊かな土地は、それに最適化した地理、制度、文化であるがゆえに、工業化社会に必要な、都市への人口集積、工場労働者になる人材に対する教育を施す社会制度などの整備が大きく遅れた。
農業への早期移行を助けた力――生物の多様さ、家畜化や栽培化可能な動植物の豊富さ、大陸の横方向への広がり――は、産業革命以降はそれほど意味をなさなくなる。
ようするに、地理的条件の違いによって、である。
地理的条件によって、農耕に適しているかどうかだけでなく、採掘可能な化石燃料や鉱物などの自然資源の量も決まる。自然資源は莫大な利益を生むが、やはり長期的には「資源の呪い」をもたらす。資源が豊富だと、それに依存した産業・社会構造になってしまうからだ。
また、これも広い意味では地理的条件と関わるが、病気の蔓延しやすさも医療が発達していなかった時代には大きな影響があった。
サハラ以南の地域では病気が蔓延しやすかったために農業や労働の生産性が上がらず、農業技術導入や人口密度低下、政治の中央集権化が遅れた。
スペインが16世紀にアメリカ大陸のアステカ帝国とインカ帝国を攻撃した際、天然痘やインフルエンザ、チフス、麻疹など、アメリカ大陸にはまだ到達していなかった病気を伴って上陸し、無数のアステカ人を感染死させたことも病気の影響と言える。
さらにヨーロッパの植民地になった地域の中でも北アメリカなど長期的な経済成長が生まれた場所とそうでない場所を分けたのは、やはり病気の蔓延しやすさが関係していた。ヨーロッパ人はマラリアや黄熱などの病気による死亡率が高い植民地には大人数で移住せず、少人数の支配階級のエリート(役人や軍人)を送り込んで地元民を搾取、奴隷化する制度運用をした。対して致死的な病気にかかる率が比較的低い北アメリカなどの地域には大量入植が行われ、そこではヨーロッパに準ずる制度成立が起こったのである。
国家間格差の背景2:民族と文化の要因、政治制度
民族や文化、政治制度も国家間格差を説明する一因だと『格差の起源』は言う。
食糧生産量が増えてもそれに合わせて人口を増やしてしまうので結果として社会の成員は一定以上に豊かになれないという「マルサスの罠」を、人類はいかにして抜け出したのか。
この理由を、ガローは「人口転換」に見いだす。人口転換とは、工業化社会が始まると親が子に対する教育投資を増やすようになり、それが結果として人口増加を抑制、しかし教育を受けた人間がテクノロジーと資本の力を使ってひとりあたりの生産性・所得を増加させるから、人口増加率は低減するにもかかわらず社会全体で見るとより豊かになる、というサイクルのことだ。
先んじて工業化し、国際貿易の拡大に乗り出したヨーロッパ諸国は、人口転換が順調に進んだ。一方で植民地化された非工業国は産業革命に遅れ、教育の整備(投資)も進まず、ゆえに人口転換が長きにわたって訪れなかった――人々が一定以上豊かになれない状態が続き、欧米との格差が開いていった、とガローは言う。
16世紀に大西洋奴隷貿易が始まると、西アフリカでは地元首長がヨーロッパ人からの莫大な需要に応えるために拉致や民族間の紛争を激化させたが、これが長く続いたために、アフリカの人々はヨーロッパ人やよそ者に対してだけではなく、近隣の人や親族に対しても不信の念を抱くようになった。
これが民主主義への信頼や人的資本投資の前提となる、人と人との協調活動やネットワーク=「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」をズタズタにした。大西洋奴隷貿易が終わったあとも民族や文化、政治制度に深い影響が及び、人口転換を阻害し、ヨーロッパに追いつくことを困難にした。
奴隷貿易と関係のない地域であっても、専制的な支配体制の国、あるいは植民地化された国では国民に対して社会的に教育制度を用意し、教育に投資すべきだという気運は高まらず、人口転換は進まなかった。こうした制度の違い、そしてそれの前提となる文化などの違いが国家間格差をもたらした。
国家間格差の背景3:社会の多様性
社会の多様性の度合いも格差に影響する、とガローは言う。今日ではあまりにも「多様性が重要」と言われているから、「またか」とうんざりする人もいるだろうが、経済発展には多様性が関係することは、いくつもの研究が示している。異なるものが出会うことでアイデアが交雑し、イノベーションが生まれるからだ。
ただし多様性がもたらすのは、良いことばかりではない。価値観が異なる人たちが出会い、近接した場所で暮らすことは、社会の結束を弱め、内戦を増やし、個人間の信頼を低下させ、時には景気を悪化させてきたことも示されている。たしかにアメリカ社会を見ても、多様ではあるが衝突も多いことは容易に想像が付く。
社会の「安定」だけを取りたいのであれば、多様でなくてもいい。しかし新しい技術やアイデア、「経済」を取りたいのであれば、あった方がいい。
その影響はいかほどのものか? 世界でも国民の多様性が際立って低いボリビアで文化の多様性を上げれば、ひとりあたりの所得は現在の5倍になる可能性があるという。
結局、国家間格差はどうにかできるのか
国家間格差をもたらした理由を「地理・気候」「民族や文化」「政治制度」「社会の多様性」といったものにある程度特定できたとして、それらは変えられるものなのか。格差は埋まるのか。
この点に関してガローは楽観的だ。制度や文化、地理、多様性の根は深く、地域差が完全に消えることはないだろうが、緩和は可能だ、と。
たしかに病気の蔓延しやすさは医療の発達によってクリアされているし、文化の多様性もこのグローバル化したネット社会では自然とそうなるだろう。
ただ今でも資源国はそれに寄りかかった産業構造になっているし、そうでなくとも気候・天候の経済への影響は意外と大きいように個人的には思う。ソーシャルキャピタルとそれが関係する政治体制に関しても、世界にはいまだ独裁の国も少なくなく、そう簡単には変わらないだろう。
もうひとつ、われわれが気にするのは、日本の没落を止めるにはどうしたらいいか、ということだ。ガローの理屈から考えると、社会の中に多様性を増やすことと、文化・政治制度に影響を与える社会関係資本の充実くらいしかないのではないか。
つまり、ジェンダーギャップ指数が世界146カ国中116位と先進国でぶっちぎりの最下位である状況を是正し、マイノリティの起用・活躍の場を増やし、移民を増やす。
あるいは、OECD調査や内閣府調査で日本人の若者や高齢者は他者との交流に乏しく、悩みや心配事を相談する相手、頼れる人が確保できておらず、寂しいと感じる人の割合が断トツに多いことがわかっている。ここに手を付け、相互交流の機会を設け、人々の間の信頼を高める。
……こう整理すると、ガローは楽観的ではあるものの、日本ひとつとっても変革はなかなか難しいように個人的には感じる。果たしてみなさんは、『格差の起源』からどのように考えるだろうか?
飯田 一史(ライター)」
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