- 作者:佐々木良昭
- 発売日: 2015/03/31
- メディア: 単行本
関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。
・ ・ {東山道・美濃国・百姓の次男・栗山正博}・
610年頃(〜23)年 イスラム教の誕生。
預言者マホメット(ムハンマド)は、年に数回しか気候の変化がない、緑と水が乏しく生き物が少ない荒涼とした砂漠の中で、絶対神と人間、絶対神と自然の関わりを、神の啓示を預かって『コーラン』に書き記した。
第二章「牝牛」159節「まことに天と地の創造の裡(うち)に、夜と昼との交替の裡に、人々に益なす荷を積んで海原を逝(ゆ)く船の裡に、そしてまたアッラーが空から水を降らせて枯死した大地を蘇生させ、そこにある種類の獣を播(ま)き散らす、その雨の裡に、風の吹き変わりの裡に、天と地の間にあって賦役する雲の裡に、頭の働く人ならば徴(しるし)を読み取る事が出来るはず」
一神教のイスラム教は、ユダヤ教の『旧約聖書』やキリスト教『新約聖書』と同様に、神のお告げを集めた一冊の『コーラン』の解釈をめぐって幾つもの宗派学派に分裂し、解釈をめぐって対立し殺戮を繰り返していた。
中東での、スンニー派とシーア派の対立。
その宗教的情熱が昂じて狂信化すると、過激派は他宗教を消滅させようという聖戦へと暴走した。
世界での、イスラム教信者とキリスト教徒の対立。
ミャンマーなどでの、イスラム教信者と仏教信徒と対立。
信仰心の篤い人間は、自分が信じる宗教が最も優れ、自分が信仰する絶対神こそが唯一の神という視野狭窄の宗教的感性から、他人が信仰している宗教・神を敬わず低レベルの神と下位に置き消滅させようとした。
ロレンス「それでも私は心からアラビア人の皮膚をつける事はできなかった。あるのは、ただ見せ掛けだけであった。人間が無信仰の徒にされるのは実に簡単である。しかし他の信仰に改宗されられる事はまことに難い。私は一つの形式を振り落としてしまったが、しかし別の形式を取り上げたのではない」(『知恵の七柱1』)
622年 ムハンマドの聖遷。
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アラブ人は、部族ごとに異なる神を崇め、まとまりを持たずに行動し、部族間での抗争が絶えなかった。
アラブは全体としては多神教であったが、部族に於いては一神教であった。
マホメットは、部族だけの神を信仰してまとまりのないアラブを1つにまとめ上げるべく、アラーを唯一の絶対神とするイスラム教を広めた。
イスラム教が広がる事によって、多神教として分裂し抗争を繰り返していたアラブが統一された。
だが、アラーの下で統一されたアラブは、スンニー派やシーア派など数多くの会派に分裂し内部対立で、昔の部族間抗争を再燃させた。
アラブは、今も昔も、国家、王国、帝国ではなく部族として生きている。
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マホメットは、最後にして最大の預言者として、絶対神への信仰から偶像崇拝を禁止し、キリスト教やユダヤ教を手厳しく批判しても同じ聖書を信じる者として合流を呼び掛けていた。
異教徒に対して人頭税などイスラム教徒よりも高い税金を払えば、イスラム圏内に住み、信仰の自由を認めた。
イスラム諸国が、異教徒に対して改宗を強要しなかったのは高額の税収を維持する為であった。
キリスト教に於いて。神の子キリストは、人の原罪を引き受けて処刑され、神の国では父なる絶対神に「取り成し」をしてくれる仲介者であった。
キリストのみが、人の為に絶対神に祈りを捧げる正統なる資格を持っていた。
地上で、キリストの権限を代行しているのがキリスト教会が認証した聖職者達であった。
キリスト教会は、キリストから祈る資格を与えられたのであって、絶対神との直接的なつながりはない。
イスラム教に於いて。マホメットのみが、絶対神に選ばれたただ独りの正統な預言者であり聖職者であり、他には預言者も聖職者も存在しない。
イスラム教では、キリストのような仲介者はいない。
マホメットは、絶対神に呼び出された預言者であって、地上を支配する権限を与えられた王ではない。
王ではないが、教団をまとめる指導者であり、信者達の福利厚生を考え社会に秩序をもたらす政治家であり、異教徒の侵略から教団と信者を守る軍司令官でもあった。
イスラムのモスクは、キリスト教会の様にキリストを通じて絶対神に間接的に祈る場ではなく、個人として直接的に絶対神に祈る場である。
イスラム教に於いて、キリスト教の様なキリストから権利を委託されて絶対神に取り成す聖職者はいない。
マホメット死後の教団は、政教分離を行い、宗教における後継者をイスラム法学者・ウラマーに、政治における後継者を政治家・カリフとした。
マホメットの血統が絶え、イスラム世界が分列し各王国が乱立するや、それをまとめる為にスルタンという称号が作られた。
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637年 イスラム軍は、聖都エルサレムを占領。
650年 イスラム教の聖典、コーランが編纂される。
711年 イスラム教軍は、イベリア半島を侵略し占領した。
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イスラム圏では、スンニ派は多数派で、シーア派は少数派であった。
両派は、違う宗派に属する相手を人間とは見なさないほどに反目し合った。
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イスラム教における主権者は絶対神(アラー)であり、世の統治者も絶対神(アラー)であり、立法者も絶対神(アラー)であった。
絶対神(アラー)は、守る律法を預言者マホメット(ムハンマド)を通じて信者に伝えた。それが、『コーラン』であった。
マホメットが生きている間。信者達は、絶対神(アラー)と話せる唯一選ばれた人・マホメットの言葉を絶対神(アラ)の御意思と信じて従っていた。
マホメットの死後。絶対神(アラー)の声によると導きを失った信者達は、信仰や日々の生活の判断基準を記憶残るマホメットの言動に求めた。
それが、『ハディース』(伝承)である。
時代が下ると、『コーラン』や『ハディース』では対処できない事が多くなった為に、主立ったイスラム教徒が共同体の合意(イジュマー)が形成された。
共同体の合意で解決できない事柄は、イスラム法学者(ウマラー)達が、『コーラン』や『ハディース』の規定から類推(キャース)して判断した。
イスラム法学者による法体系は、9世紀から11世紀の間で確立され、今日まで至っている。
法体系は、主張するイスラム法学者の解釈によって穏健から過激なものまで数多く存在し、統一されてはいなかった。
イスラム過激派テロリストは、アル=マーワディーなど異教徒殲滅を説く過激なイスラム法学者の思想を取り入れている。
「ムスリムは、捕らえた多神教徒の兵士を、戦闘中の者であれ、戦闘中のでない者であれ、殺して良い」
「もし戦闘中で敵が、女や子供を盾に隠れたりしたら、敵を殺すときに女子供は殺さない様にしなければならない。しかし、もし、女子供を殺さなければ、敵を殺す為に敵の所まで到達することができない場合は、女子供を殺して良い」
「彼らの女子供は奴隷にされ、彼らの財産は戦利品として没収され、彼らの中で捕虜とならなかった者は殺される。
捕虜となった者は、次の四つのうち最も有益だと考えられる扱い方によって扱われる。
1,首を刎(は)ねて殺す。
2,奴隷にして売ったり解放したりする。
3,金あるいは味方の捕虜と引き換えに釈放する。
4,寛大に扱い釈放する」
イスラム教は一神教でありながら、広大な地域を支配する為に異教に寛大で、異教徒が人頭税を払えば、共存を認め、イスラム教への改宗を強要せず信仰の自由を認めていた。
ごく一部の狂信的な原理主義者が、過激なイスラム法学者の律法を信じて非人道的なテロ活動を行っている。
問題は、大多数の穏健で敬虔なイスラム教徒ではなく、中世の特定のイスラム法学者の律法を信じている少数派である。
全てのムスリムに共通する事は、偶像崇拝と預言者・マホメットを描く事の禁止である。
1989年 イラクの最高指導者・ホメイニ師は、マホメットを描いた小説『悪魔の詩』の作者サルマン・ラシュディと関係者に対して一方的な死刑宣告を行った。
1991年 『悪魔の詩』を翻訳した筑波大学助教授・五十嵐一が、大学構内で惨殺された。
2012年 マホメットを描いたアメリカの映画『イノセンス・オブ・ムスリム』への抗議
デモが、世界20ヶ国以上で起きた。
イスラム系武装集団が、エジプトやイエメンなどのアメリカ大使館を襲撃し、大使を含む数十人が殺害された。
2015年1月7日 マホメットの風刺画を掲載したフランスの週刊誌シャルリー・エブドが、アルジェリア系フランス人兄弟に襲撃され、編集長を含む12名が殺害された。
砂漠で生きる遊牧民は、民族ではなく部族で生活していた。
各部族を支配するのは王族か独裁者で、国家ではなかった。
砂漠では、民主主義は向かない。
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砂漠の民における隣人とは、親しい友人や顔見知りの知人ではないく、厳格に規定された条件がある。
第一の条件は、宗教・宗派を同じくする事。
第二の条件は、血縁で、同じ祖先を持つ部族である事。
第三の条件は、地縁で、同じオアシスを共有する事である。
同じ地域に住んでいようとも、同じ血筋であっても、信仰する宗教・宗派が異なれば「隣人」ではなく「敵」であった。
三条件に合致しない者は、利益を共有する友人か知人に過ぎない。
反宗教無神論者は悪魔として戒律に従って殺害したが、異教徒は人頭税を払えば恩恵を与え共に暮らす事を認めた。
イスラム教とキリスト教及びユダヤ教は、必ずしも敵対してはいなかった。
砂漠の団結を守る為に、俗世の権力が定めた法律に違反する犯罪を行っても、その行為が絶対神が定めた戒律に叶っていれば隣人を助け、戒律に背かない限り見捨てはしない。
隣人ではない友人や知人が、友好の証として自己犠牲的に人道的活動をしようとも決して信用せず、余裕があれば助けるが、さもなければ見捨てる。
砂漠の民は、隣人以外は信用せず、信用する条件は三条件であった。
異教徒にして、血のつながらない人間で、長年同じオアシスの水を飲まない部外者が、いきなり現れて献身的に奉仕活動をして感動を与えても、決して人徳者とは認めなかった。
砂漠とは、世界共通の道徳観は通用せず、生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、敵か味方かの二項対立のみが支配する世界である。
日本人の曖昧な志向は砂漠には通用しないし、キリスト教にもイスラム教にも利害関係がないから仲介者になれるという浅はかな考えも有害なだけでる。
脳天気で、表も裏も想像できない、深い考えもできない日本人では、砂漠は理解できない。
八方美人的な日本が紛争の仲介者になる事は、絶対にあり得ない。
「この部族の不幸は他部族の利益」
ある部族、ある地域、ある国に対する中立的人道支援は、それ以外の部族、地域、国にとって敵対行為で、破壊すべき憎しみの対象に過ぎない。
三条件による隣人同士は、共有する利益を守る為に部外者を殺してでも排除する。
「同胞は国により、敵は宗教によって決まる」
日本人は、イスラム教徒にとって異邦人である。
砂漠で、反宗教を叫び神を否定すれば命はなく、即殺される。
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砂漠の民は、部族が持つオアシスを命の泉として集まり、何時枯れて干上がるか分からないオアシスを他の部族から守ながら生活していた。
オアシスの水は、部族以外では、隣人とされる友好関係の部族や利益をもたらす者や同じ宗教・宗派を信仰する者には分け与え、それ以外の隣人でない者には一滴も与えず砂漠に追放した。
生きるか死ぬかは、絶対神・アラーの思し召しとして見捨てた。
砂漠の自由とは、そういうものである。
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如何なる宗教でも、解釈次第で如何様にも読み解く事がで、その結果として人に感謝されるボランティアもあれば人から憎まれるテロリズムもある。
イスラム教は、キリスト教の様に不毛な神学論争で硬直化していない分、個々の宗教指導者が自分に都合の良い解釈を正当化できる柔軟性があった。
個人の自由な解釈を許す柔軟性が偏執的イスラム教原理主義を生みだし、自爆テロなどの狂信的イスラムテロリストを作り出していた。
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平成27年4月号 Voice「笈川博一・曽野綾子対談
ISILと政府なき世界
笈川博一部族というものは突き詰めれば『地縁、血縁』のことで、われわれ日本人はこの角度から中東問題を見る目が欠けています。
……
部族というものが冒頭の国家の話と関連するのは、『アラブでなぜ近代国家ができにくいか』という点においてです。理由の一つは、アラブ社会では国家という単位の『下』に部族という確固たる集団単位があること。彼らは国よりも部族を重視します。したがって国家による統制が利きにくい。
もう一つの理由は、『上』のほうの問題です。国家よりも上位概念にあるアラブであり、さらに上にイスラムがある。つまり、国家というものの『天井』と『床』が抜けてしまっている。だから国が機能しないのです。普通の民族であれば、国家ができればそれで終点だけれども、アラブはそうではない。かつ周知のように、中東の国境線は西欧諸国によって引かれたものです。ヨーロッパのように長い抗争と和解を経て自らつくり上げた国家ではなく、他者に植え付けられたものにすぎない。したがって外来の国境を溶かすISILが崩壊しようと、独裁政権が倒されようと、それは自動的な『国民』の出現を意味しません。これは大きなジレンマです。
……
笈川 アラブ民族を見ていて面白いと思うのは、たとえばアラブ社会のなかで嫌われているのはパレスチナ人です。さらに、そのパレスチナ人のなかで嫌われているのは難民です。
……
ではなぜ、難民であることが否定されるのか。難民とは『地縁、血縁の切れた人たち』だからです。中東では地縁、血縁イコール部族ですから、部族から外れて生きることがいかに難しいか、という話です。
……
地縁、血縁が薄れた原因はおそらく都市化でしょう。
……
曾野綾子 強盗は、こちらが平和主義者であっても向こうから襲ってくるものです。
……
安倍首相は今回の中東訪問で、アラブ諸国に多額の経済援助を約束しました。人道援助が大切であることは、いうまでもありません。それと同時に、日本からの援助が相手から感謝されると思わないことです。
……
アラブの世界では、自分たちの部族を利さないことに対してはお礼をいわないし、援助するのは相手に『やましい』ところがあるから、と考えるのが普通です。パレスチナの難民キャンプに行ったとき、日本人の私に向かってアメリカの悪口をいうおばさんがいました。そのキャンプに最も多額の援助金を出していたのは当時、もちろんアメリカです。
私が『そんなに悪いと思っている国から、あなた方はお金をもらうんですか?』と尋ねたら、そのおばさんは『アメリカは、自分たちが悪いことをしたと思っているから金を出した。もっと取ってやればいい』と答えました。このcompensation(補償、埋め合わせ)の発想がアラブにおいては正しい、と考えるべきなのでしょう。
……
しかしそれにしても思うのは、日本というのはつくづく『生ぬるくていい国』だということ。これ、けっして皮肉ではありません。
……
ただし、もう少し人間の悪意や闇の側面も見詰めたらどうか、と思うことはあります」
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2015年4月4日 産経ニュース「2070年 イスラム教徒の人口、キリスト教徒に並ぶ? 米調査機関予測
世界の宗教別人口は現在キリスト教徒が最大勢力だが、2070年にはイスラム教徒とキリスト教徒がほぼ同数になり、2100年になるとイスラム教徒が最大勢力になるとの予測を米調査機関ピュー・リサーチ・センターが3日までにまとめた。両者の勢力が伯仲するのは人類史上初めてだとしている。
同センターは世界人口をキリスト教、イスラム教、ヒンズー教、仏教、ユダヤ教、伝統宗教、その他宗教、無信仰の八つに分類。地域別などに人口動態を調査し、10年から50年まで40年間の変動予測を作成した。
10年のキリスト教徒は約21億7千万人、イスラム教徒は約16億人で、それぞれ世界人口の31・4%と23・2%を占めた。イスラム教徒が住む地域の出生率が高いことなどから、50年になるとイスラム教徒は27億6千万人(29・7%)となり、キリスト教徒の29億2千万人(31・4%)に人数と比率で急接近する。(共同)」
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如何なる宗教も、穏健か救済的な面と過激な破壊的な面の両方をもっている。
特に、一神教はその傾向が強い。
多神教もまた、戦闘的で戦争を好む傾向がある。
エジプト神話・ギリシャ神話・日本神道も仏教も、その信仰の歴史から戦争を切り離す事はできない。
如何なる宗教も、戦争と共に人類の歴史を作ってきた。
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イスラム教は、世界帝国として領土を拡大するや、寛容な宗教として異教徒を領民として受け入れ、人頭税を払えば信仰の自由を保障した。
イスラム教徒には厳格で、
唯一の絶対神・アラーを信仰し、
アラーが選んだ唯一の預言者・マホメットを崇拝し、(預言者とは、アラーの絶対真理の言葉を預かって人々に伝える人間の事であって、占い師の事ではない。)
コーランを基にした唯一のイスラム法・シャリーアを守って生活し、
マホメットが作った信仰共同体・ウンマに参加し、
マホメットの後継者として合議制で選ばれた最高権威者・カリフに従った。
マホメットの娘婿であるアリーは、信仰的地縁ではなく、血縁を基にして後継者とする事を主張した。
宗教的最高権威者であるカリフの後継問題でイスラム教世界は分裂した為に、ローマ教皇の様なキリスト教世界の統合の象徴的存在が生まれなかった。
ある意味。コーラン絶対のイスラム教は、偶像否定と聖書重視のプロテスタントと似ている所があるが、マホメットを神聖視したのに対してルターやカルヴァンを神聖化しなかった点で異なる。
キリスト教は、中世から近代に移る際、信者の富と幸福、進歩と発展の為に、信仰を共にする民族や部族という枠組みを超えた国家国民を受け入れ、政教分離として国家の命令に従う従属する道を受け入れた。
イスラム教は、発展と進歩という利益追求の国家は信仰を毒する元凶として否定し、原点への回帰として、信仰を中心とした民族・部族を重視した。
その為に、イスラム教は外に対する反動形成的としての凶暴な原理主義を内在している。
エジプトとシリアは、1958年に、西洋に対向する為にアラブナショナリズムを掲げてアラブを統一して「アラブ連合」を作ろうとしたが、政治的統合を嫌うイスラム教によって失敗した。
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イスラム教に於いて、富める者が困っている者を助ける事は善い行いであり、富める者は助けた事で天国に行けると信じられていた。
貧しい者は、富める者が自分を助ける事で天国に行けるのだから、富める者はむしろ私に感謝すべきだと考えていた。
ゆえに、イスラム教徒は助けられた事に対して感謝はしない。
助けられた事に対して、感謝する者と感謝しない者との文化摩擦は避けられない。
助ける者は、相手がイスラム教徒であれば感謝される事を期待してはならない。
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2003年 古田博司「宗教ファシズムは、このような状況で立ち現れてくる。
私欲が道徳化され、私欲実現社会が完成されたとき、そのたたき出された倫理学にかわり、宗教そのものが生存の意義を教えようと総動員される。それは様々な宗教を組み合わせたガラクタの寄せ集めである。なぜならば既存の宗教では、私欲実現社会に勝てないからである。新たな宗教は、旧宗教たちのように現世維持的であってはならない。『世界』を『永生』する自己の奉仕するものとして逆に担保させるのでなければ、私欲の波濤に抗しきれないからである。こうして、私欲実現社会に疎外された者たちは、私欲にまみれた『世界』に背を向け、宗教を寄せ集めて、おのれを再武装するのである」(『東アジア・イデオロギーを超えて』)
如何なる宗教も、敬虔ある信仰の中には排他的な暴力に入る狂気が含まれている。
自分は絶対に正しいと思い込む正義面した者は、不寛容さを際立たせ、自分と異なるモノ全てを「悪」と断罪し、根絶する為の暴力を正当化する。
自己満足的暴力を正当化する為に、宗教とイデオロギーが悪用される。
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中東のアラブ人達は、イギリスの支援を受け数百年に及ぶ異民族オスマン・トルコ帝国の支配を打倒して独立した。
雑多な諸部族を統合し国家を建設するにあたって、宗教・イスラム教ではなく、共通言語・アラビア語を重視したアラブ民族主義を選んだ。
定住しない遊牧民・アラブ人では近代国家を建設できない為に、町に住み西洋知識を持ったキリスト教徒アラブ人に丸投げした。
新生アラブ諸国は、国家を統合する象徴として血統を重んずる国王制度を採用した。
アラブ諸王国の国内は例外なく、遊牧民部族のアラブ民族主義、都市知識人の西欧型民主主義者、信仰者のイスラム主義で分裂し、自己統治能力は低かった。
王侯や官僚達は、政治と経済を支配し、欧米列強の資本と癒着して富を独占して、国民の貧困をに目を向けず救済を怠り裕福な暮らしに耽った。
土地や資産もなく社会の恩恵から取り残された貧困階級は、富の再分配を求めた。
世界革命を目指す社会主義者は、社会に対する疑問や不満や敵意を持つアラブ人軍人に、社会構造を変革する為にはクーデターで専制君主制を打倒し独裁体制を採用すべきだと焚き付けた。
暴力革命を正当化するアラブ社会主義がアラブ人の間に広がる事によって、何となく寄り集まって共同体を形成するアラブ社会が不安定となった。
時間を掛けた部族長的話し合いの解決に飽き足らないアラブ人達が、イデオロギーで過激主義へと暴走して殺し合いを始めた。
アラブ世界において、西洋型議会制民主主義ではなくアラブ系部族長寄り合いが適しており、多部族・多民族の国家を樹立するや一つの権威・権力から王制、独裁制、宗教指導制の何れかに落ち着く。
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- 作者:大塚 和夫
- メディア: 単行本
- 作者:大塚 和夫
- 発売日: 2000/09/01
- メディア: 単行本
アッラーのヨーロッパ―移民とイスラム復興 (中東イスラム世界)
- 作者:内藤 正典
- メディア: 単行本