🦎29」─4─北極圏を侵食する中国とロシア、着実に進める軍事的拡大。~No.95 

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 中国共産党は、北極海航路の安全の為に北海道に良港を求めている。
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 2024年10月29日 YAHOO!JAPANニュース Wedge(ウェッジ)「<北極圏を侵食する中国とロシア>着実に進める軍事的拡大、新たな国の関与も
 2024年9月28日付のウォールストリート・ジャーナル紙は、北極圏のスヴァールバル諸島は、主権はノルウェーにあるが加盟国は自由に経済活動等ができるという特殊な地位にあり、今日それが中露両国の軍事的拡大に利用されているとする解説記事を掲載している。
 スヴァールバル諸島は今日、中露が北極圏の貿易ルートを支配し、この地域での軍事プレゼンスを拡大しようとする試みの最前線となっている。かつてはノルウェーの一部だった同諸島は1920年の条約で、主権はノルウェーにあるが、ソ連を含む加盟国が資源開発や研究を行うことは可能とされてきた。しかし近年、ウクライナ侵攻をめぐって西側諸国との緊張が高まる中、この仕組みは中露両国が北極圏での足場を強化する手段となっている。
 同諸島のピラミデンでは、中露両国が共同で研究センターを建設している。ウクライナ戦争後、ロシアは軍隊のようなパレードを開催し、正教会の十字架を違法に建て、スヴァールバル諸島でロシアに挑戦しないように、ノルウェーに厳しい警告を発するようになった。
 本年9月初めには、ロシアの議員が同諸島にテロリスト用の刑務所を建設することを提案した。中国も同諸島の土地取得に関心を強め、レーザー研究基地の設置も最近提案されている。スヴァールバル諸島は、中露両国の重要なスパイ活動の標的となっている。
 ロシアは北極圏のソ連軍時代の基地を数十カ所再開した。中国は北極圏から900マイルほど離れているにもかかわらず、2018年に「近北極圏」国家と宣言し、新たな砕氷船を建造している。
 スヴァールバル諸島は、ノルウェー本土と同諸島を結ぶ重要な海上交通路であるベア・ギャップの先端、またロシアの原子力潜水艦の大半が駐留するコラ半島の北に位置している。紛争が発生した場合、ロシアは西側からの米艦船の進入を阻止するためベア・ギャップを封鎖しようとする可能性がある。
 22年1月、スヴァールバル諸島ノルウェー本土を結ぶ重要な海底ケーブルが切断される事件があった。ノルウェーは公式には結論を出していないが、ロシアによる故意の仕業だったと考えている。
 中国は北部ニーオーレスン集落に黄河と呼ばれる研究施設を運営している。設置されている施設の一つは中国電波伝播研究所と称され、それ自体が「中国の軍事電子産業の主力」を自認する国営軍事電子企業CETC(中国電子科技集団)の一部である。CETCはウェブで、「国防のための技術支援とサービス保証を提供している」と紹介されている。
 ノルウェーは7月、中国による3億ドル以上の土地買収計画を阻止した。中国勢は他の土地の購入を試みており、自動運転車や軍事用途に使用できる3Dマップを作成するため、レーザーを使用するライダーの研究施設の設置を提案している。また、バレンツ海の向こう側では、中国の海運会社がロシア国境近くにあるノルウェーキルケネス港の拡張に関心を示している。
 歴史的に平和共存で知られるこの群島に対する地政学的な注目が最近高まっていることは、スヴァールバル諸島の住民の間に不安感を引き起こしている。スヴァールバル諸島の行政中心地ロングイェールビーンの市長は、「22年2月に突然すべてが劇的に変化した。信頼は壊れてしまった」と述べた。
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 中国の関与を受け入れざるを得なくなったロシア
 ウクライナや中東での戦争に世界の耳目が集まる一方、中露両国による北極圏の軍事化が着実に進行している。本件記事は、その様子を紹介して、警報を鳴らすものである。
 冷戦時代、ソ連は、ノーヴァヤゼムリャとスヴァールバル諸島およびノルウェーで囲まれたバレンツ海を、北大西洋条約機構NATO)の侵入を阻止してムルマンスクに司令部をおく北洋艦隊の活動を確保する「要塞」とし、さらに艦艇の活動範囲をバレンツ海からノルウェー海を経て大西洋へと拡大し、NATO兵站輸送ルートを妨害する戦略を有していた。この戦略において、スヴァールバル諸島は死活的に重要な役割を果たした。
 スヴァールバル諸島ノルウェーの間には「ベア・アイルランド」があり、本件記事にある「ベア・ギャップを封鎖する」というのは、ロシアがバレンツ海西方の入り口を閉じるという作戦を意味している。
 冷戦の終結によって、この地域の緊張は大きく低下したが、2000年代後半からロシアの軍事活動は徐々に活発化し、いまや冷戦の復活のような様相を呈している。
 北極圏に圧倒的プレゼンスを有すロシアは、この「既得権」の維持を重視し、北極圏に属する8カ国で構成する北極評議会のメンバー以外の国が北極圏の開発等に関与することには元来、強い拒否反応を示していた。07年に中国が北極評議会のオブザーバー資格を申請した時も、ロシアは強く反対したとされている。
 ところが、一つは10年代以降、北極圏におけるロシアの天然ガス・石油開発に中国が投資し関与を強めてきたこと、もう一つは14年のロシアによるクリミア併合以降、特に今回のウクライナ侵略による西側諸国との緊張の高まりによって、ロシアは北極圏への中国の関与を受け入れざるを得ない状況になった。23年3月の習近平主席の訪露では、中露首脳の共同声明に、「北極海航路発展のための共同作業体を設立する用意がある」と記述された。
 中国にとって北極圏への進出は、「氷上のシルクロード」と称し戦略構想の中に明確に位置づけられている。中国にとっての北極海は、天然資源開発への関与、さらには宇宙との関係で極軌道衛星とのシグナルの送受信のための地上局設置等において、極めて重要な役割を果たすものである。本件記事にある「黄河と呼ばれる研究施設」等はその一例である。
 食指を動かすインド
 このように北極における中露間の協力は首脳レベルの合意に基づいて着実に進められているが、最近の動きとして興味深いのは、インドが北極圏や北極海航路へのアクセスに強い関心を示してきていることである。ロシアはこれを国際的孤立からの脱却という観点のみならず、中国への牽制という観点でも歓迎しているとみられる。
 インドはチェンナイ港とウラジオストック港を結ぶ海上回廊の構築に力を入れており、19年のモディ首相訪露の際に印露間で意図表明文書が署名されている。当時の同文書は両港間の海上回廊に限定されていたが、本年7月のモディ首相訪露の際の共同声明には当該海上回廊の構築に続けて「北極海航路を通じた露印協力の発展において協力する」との一文が加えられ、さらに当該目的のため、中露間の合意と同じ「共同作業体」を設置する用意があることが表明されている。
 今後の北極圏の開発・利用については西側対中露という対立軸のみならず、露中印3カ国間のパワーバランスという観点を含め見ていくことが
 岡崎研究所
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 10月29日 YAHOO!JAPANニュース Wedge ONLINE「〈インドと中国が首脳会談した背景〉印中国境における合意の意味、衝突は安定化へと進むのか
 長尾 賢( 米ハドソン研究所 研究員)
 詳細は正式には発表されてないものの、インドと中国が、陸上国境における国境パトロールについて合意し、2020年の衝突以来続いてきた緊張を解くことになったようだ。モディ首相と習近平主席の首脳会談についても、正式に行われた。
 BRICS首脳会談に際して行われたモディ首相(左)と習近平国家主席の会談。〝雪解け〟はあるのか(ロイター/アフロ)
 22年の主要20カ国・地域(G20)時と、23年のロシア、中国、インドなど有力新興国でつくる「BRICS」首脳会談時に、立ち話のようなことはあったが、それらを除けば、正式な首脳会談は19年を最後に行われていない。20年の印中国境における衝突で、インド側だけで死者20人、負傷者76人(中国側の死者は、異常なほど少ない中国政府の発表はあるが、実態は不明)出して以降、モディ首相は、習氏との正式な首脳会談を避けてきたのである。
 だから、今回の国境問題における両国の合意が、一定の重要性を持ったものであることは、疑う余地がない。そこで、今回の合意が、どのような意味を持っているのか分析する。
 インドの要求に中国が応じた
 まず、今回の合意の経緯をみると、インドの要求に中国が応じたものであることがわかる。そもそも、20年に起きた侵入事件は、中国側がインド側に大規模に侵入を仕掛けたものであった。中国側は、5カ所に大規模に侵入し、前述の衝突を含め、複数の衝突を起こしながら、居座ってきた。中国側は、この侵入を支援するために、ハイテク兵器を有する大規模な部隊を展開し、緊張を高めてきた。
 これに対し、インド側も大規模に軍事力を展開するとともに、交渉を通じて中国軍の撤退を求めてきた。交渉は一定の成果を上げ、22年までに3カ所から、中国側は撤退した。しかし、その後、中国は、「平常に戻った」と主張し、インド側の撤退要求に応じなくなったのである。
 インド側は中国への圧力を高めるため、日米豪印4カ国の枠組み「QUAD(クアッド)」各国を呼び込む作戦に出た。22年に印中国境から100キロメートル(㎞)以内の地域で、米印共同演習を行った。
 23年には、中国全土を爆撃できるカライクンダ基地に米空軍のB1爆撃機や日本のオブザーバーを招いて共同演習を実施した(「印中国境の米印軍共同演習に日本が参加する意義」参照)。そして24年には、QUAD各国すべてが参加する「タラン・シャクティ」空軍演習を行った(「【航空自衛隊F-2戦闘機がインド共同演習参加へ】初の展開へインドの戦略的変化、日本としての意義とは」参照)。これまで、インドは、QUADの共同演習を海洋だけに限定し、印中国境に近づけなかったから、これらは大きな変化で、中国側に対する圧力強化として、とらえられるものだった。
 このような経緯を見ると、中国が侵入事件を起こし、インドが中国軍の撤退を求めて、交渉を行ってきたが、中国側がなかなか応じないできた経緯がわかる。今回、両国の合意が成立したということは、中国に何らかの変化があり、インドの要求に応じたことを意味している。
 なぜ今なのか
 では、これまで要求に応じてこなかった中国が、なぜ今、要求に応じたのだろうか。考えられる変化は2つだ。11月に行われる米大統領選挙の影響と、27年ともいわれる中国の台湾侵攻との関連性である。
 米大統領選挙は、中国にとって最重要の関心事項だ。バイデン政権とトランプ政権での対中戦略は、大まかな方向性では同じだ。両政権とも中国に厳しい姿勢で臨んでいる。
 それでも、中国は、トランプ政権を、より恐れているようだ。それは、トランプ政権がロシアのウクライナ侵略を終わらせて、対中戦略に集中するよう主張していること、トランプ政権を支える共和党陣営の方が安全保障の専門家が充実していること、そして、トランプ政権の方が予測しがたいことが理由と思われる。
 実際、第1次トランプ政権では、習氏は、友好の証として、トランプ大統領から夕食会に招かれた。そしてトランプ大統領は、習氏にチョコレートケーキを勧めながら、同時に、「シリアにミサイルを撃ち込んだ」と伝えたのである。
 これは、習氏からみれば、今はシリアがミサイルの標的だが、中国も標的になりえることを示した点で、中国に対する脅しとして捉えられるものだった。しかも、そういった脅しを、友好の証である夕食会の時にやるとは思わず、油断していたから、効果は倍増し、習氏は強いショックを受けただろう。つまり、トランプ政権は、力を効率的に使いながら脅しをかけてくる、怖い政権、という印象をあたえた。
 今回の米大統領選挙で、またトランプ氏が選挙に勝つようなことがあれば、それは、中国にとり、怖いはずである。だから、それに備えなければならない。
 中国としては、太平洋側での米国対策に集中したい。だとすると、太平洋側から見て背後にあたる印中国境などの地域では、情勢を安定化させておきたい。インドとの問題を解決しておきたい動機が、中国にはある。
 ただ、このような中国の姿勢は、トランプ政権に備えるという防御的なものではなく、より攻撃的なものとしてとらえることも可能である。それは、中国が、もし台湾に侵攻するつもりならば、背中側である印中国境での緊張を下げ、台湾侵攻に集中したくなるからだ。
 実際、中国は今年、台湾周辺で軍事演習を繰り返しているが、演習にはアルファベット順の名前がついており、aの次はb,c,d…と続いていくことを示唆している。徐々にエスカレートさせる計画を持っていることは明白だ。
 今後、中国軍の侵入は止まるのか
 今後、どうなるだろうか。印中国境における中国軍によるインド側への侵入事件数をみると、11年には213件だったものが、19年は663件に増え、確実に増加傾向にある。中国側は、印中国境で629もの村を建設しており、中国軍が展開するための軍事拠点になっているし、中国軍が展開するための道路や橋、トンネル、空港などの建設も急ピッチで進んでいる。だから、今回の合意で、もし仮に、一時的に中国軍が行動を自制したようにみえたとしても、長期的には、中国軍のインド側への侵入が止まるとは思えない情勢だ。
 だから、インド側の対応もまた、中国への対抗策を強めていくことが予想される。前述の、インド洋をめぐるQUAD各国の海軍協力は、空軍協力へ拡大した。先月行われたQUAD首脳会談の共同声明では、「我々はまた、インド太平洋地域全域における自然災害への文民による対応をより迅速かつ効率的に支援するため、我々の国々の間で空輸能力を共有し、我々の集合的な物流の強みを効果的に活用することを目指すべく、本日、インド太平洋ロジスティクス・ネットワークのパイロット・プロジェクトを立ち上げることを発表する」という文言がある。災害対応を全面にだしてはいるが、QUAD各国が軍の部隊を迅速に空輸する協力である。まさに、海洋協力から空の協力へと、QUADは拡大しつつあることを示すものだ。
 こうしてみると、中国に対するQUAD各国の防衛協力は、ゆっくりとではあるが、着実に進みつつある。まさにインドはゾウ、といってもいいだろう。ゾウを一生懸命に押しても、大きすぎて動かすことは難しい。しかし、長期的な視点に立てば、ゆっくりと、着実に、動いている。
 中国がインドを刺激し続ける限り、ゾウは動き続けるだろう。それは、日本にとって、インドとの協力が、大事になっていくことを示唆している。
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