🔯10」─2─人類の活動が脅かしている「地球の9つの限界」 成長が終わるとともにシステムは突如崩壊する。~No.33 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 2022年12月11日 YAHOO!JAPANニュース 東洋経済オンライン「人類の活動が脅かしている「地球の9つの限界」 成長が終わるとともにシステムは突如崩壊する
 人類の活動によって、「地球の9つの限界」のうち、4つはすでに超えられてしまいました(写真:buritora/PIXTA
 《プラネットアース》などの自然番組で知られるデイヴィッド・アッテンボロー氏。氏によれば、過去数十年のうちに人類は地球環境を劇的に変えてしまい、私たちが今すぐに「グリーン成長」や「再野生化」に取り組まねば、人類や地球に未来はないという。今回、日本語版が12月に刊行された『アッテンボロー 生命・地球・未来』より、一部抜粋、編集のうえ、お届けする。
■人類を待ち受ける破滅的な大惨事
 これからの90年の目撃証言をすることになる人たちのことがわたしは心配だ。
 人類が今の生活を続けたら、世界はどうなるだろうか。最新の科学的な知見では、生物界の崩壊が行き着く先であることが示唆されている。
 現に崩壊はすでに始まっており、その勢いは増すことこそあれど、衰えることはないと予想される。自然界の衰退の影響は、規模も範囲も、連鎖的にどんどん拡大するだろう。
 わたしたちが頼りにしているあらゆること――地球の環境がこれまでずっと無償で提供してくれていたあらゆるサービス――が滞ったり、完全に消えたりし始める恐れがある。
 そのときに起こる大惨事は、チェルノブイリの事故をはじめ、人類がこれまでに経験したどんな災害もかすんで見えるほど、破滅的なものになるだろう。
 家屋の浸水とか、竜巻の大型化とか、夏の山火事とかいうレベルではとうていすまない。その惨事に遭遇した世代はもちろん、続く世代においても、すべての人々の生活の質が不可逆的に低下するだろう。
 地球規模の生態系の混乱がやがて収束して、わたしたちが新しい均衡状態に達することができても、人類が地球上に存続する限り、豊かな地球は永久に戻らないかもしれない。
 主流の環境科学によって予想されている未曾有の大惨事の直接の原因は、ほかでもない地球に対する現在のわたしたちの振る舞いにある。
 第二次世界大戦後の1950年代から、人類は「大加速(グレート・アクセラレーション)」と呼ばれる時代に突入した。
 影響や変化の値を時系列のグラフにすると、多くの領域で、驚くほど似たようなパターンが示される。人間活動の傾向は国内総生産(GDP)のほか、エネルギー消費や水消費、ダムの建設、電気通信の普及、農地面積の推移などで表すことができる。
 環境にどういう変化が起こっているかは、さまざまな方法で分析できる。大気中の二酸化炭素や亜酸化窒素やメタンの濃度の計測からも、地表付近の気温や、海洋酸性化や、魚の個体数や、熱帯雨林の消失面積の計測からも分析は可能だ。
 しかし何を計測しても、グラフに描かれる線の形は似通ったものになるだろう。20世紀半ばから加速度的に上昇して、険しい山の斜面ないしはホッケーのスティックのような形になるだろう。
 作るグラフ作るグラフがすべて同じになる。そのように何もかもが急成長しているのが、現代社会の特徴にほかならない。それはわたしがこの目で見てきた時代の普遍的な型になっており、わたしが報告しているどの変化の背後にも大きく横たわっている。
一人称で「大加速」の歴史を語っているのが、わたしの証言なのだ。
微生物学者が教える成長の終わり
 それらのグラフをひととおり見て、そこに判で押したように右肩上がりの線が描かれているのを目の当たりにすれば、当然、次のような疑問が浮かぶだろう。こんなことがいつまでも続くのだろうか、と。もちろん続くわけがない。
 微生物学者もこれと同じ形で始まる成長のグラフを持っており、それがどのように終わるかを知っている。
 無菌のシャーレに数個の細菌と培地を入れて、密閉する。細菌にとって完璧な環境だ。競争相手がおらず、しかも栄養もたっぷりある。
 細菌がこの新しい環境に順応するまでにはいくらか時間がかかる。この準備期間を「遅滞期」という。遅滞期は1時間のことも、数日かかることもあるが、どこかの時点で突然終わる。
 すると、シャーレ内の条件をどう利用すればいいかという問題を解決した細菌が分裂によって、増殖し始める。分裂は20分に1回起こるので、20分に2倍のペースで個体数は増えていく。
 こうして指数関数的に増殖する「対数期」が始まる。培地の表面にどんどん細菌が広がっていく段階だ。
 この段階では、各個体が自分の場所を確保して、必要な栄養を得ようとする。これは生態学では共倒れ型競争と呼ばれる。細菌どうしが他者を押しのけて自分が先になろうとする争いだ。
■有限のシステムは一気に崩壊する
 密閉されたシャーレのような閉じられたシステムの中で、このような競争が起これば、ハッピーエンドは期待できない。やがて増殖が進み、培地が細菌で埋め尽くされると、そこからは増殖すればするほど、各個体どうしが互いに邪魔な存在になり始める。
 培地から得られる栄養が足りなくなり始める。排出されるガスや熱や液体が急速に溜まり、環境を悪化させ始める。
 個体が死に始め、ここで初めて増殖率が鈍化する。死ぬ個体の数も、環境の悪化のせいで加速度的に増えていき、ほどなく「死亡率」と「出生率」が並ぶ。そのときついに個体数はピークに達し、そのまましばらく減りも増えもしなくなる。
 しかし有限のシステム内で、そのような安定は永遠には続かない。持続可能ではないということだ。栄養があちこちで尽き始め、排泄物がシャーレ内に致命的に充満し、細菌のコロニーは形成されたときと同じように一気に崩壊する。
 最終的に、密閉されたシャーレの中は最初とはまったく違う場所と化す。栄養がなく、環境は高温化と、酸化と、有害な物質の汚染で破壊されている。
 「大加速」はわたしたちを、わたしたちの活動とそのさまざまな影響の程度を、対数期へと移行させる。
 何十万年という遅滞期を経て、わたしたち人類は20世紀の半ばに、地球上で生きるうえでの実際的な諸問題を解決したようだ。おそらくそれは工業化が始まったことの必然の結果だったのだろう。工業化により、わたしたちは個人の力を増大させる新しい動力源と機械を手に入れた。
 しかし決定的な引き金となったのは、第二次世界大戦終結だったようだ。戦争自体は医薬や、工学や、科学や、通信の飛躍的な発展をもたらした。
 戦争の終結により、国際連合世界銀行や、のちには欧州連合など、数々の国際的な機関の設立が促された。どれも世界を結束させ、グローバルな人類社会の協力を実現しようとする機関だった。
 それらの機関は前例のないほど一定の平和が長く続く時代――「大いなる平和(グレート・ピース)」――を築くのに貢献した。そのおかげで、わたしたちは自由を享受でき、あらゆる成長の機会を加速させることができた。
■人類の成長は永久には続かない
 「大加速」の曲線は、外見的には進歩に見える。その期間に、世界の多くの人々のあいだで、平均寿命から、識字率と教育や、医療の普及や、人権や、1人当たりの所得や、民主主義まで、人類の発展を示す指標の値が著しく上昇した。
 わたしが就いた職業も、「大加速」によって輸送と通信が発達したからこそ生まれたものだった。ありとあらゆる人間活動が過去70年のあいだに驚異的な拡大を遂げたおかげで、人類が夢見てきた多くのことが実現した。
 しかし忘れてはならないのは、それらの恩恵の数々には必ず代償が伴っているということだ。
 細菌と同じように、わたしたちもガスを排出し、環境を酸化させ、有害な廃棄物を出している。それらの代償も急速に溜まっていく。人類の加速度的な成長は永久には続かない。
 アポロ宇宙船から撮影された写真を見れば、地球が密閉された細菌のコロニーのシャーレとまったく同じように、閉じられたシステムであることは一目瞭然だ。地球があとどれぐらい持ちこたえられるのかを、わたしたちは早急に知る必要がある。
 最近の新しい重要な科学分野の中には、惑星規模で自然の状態を調べることで、それを明らかにしようとしている分野がある。「地球システム科学」だ。
 ヨハン・ロックストロームとウィル・ステファンに率いられたその第一人者たちのチームが研究しているのは、世界じゅうの生態系の回復力だ。
 彼らは各生態系の安定がどのような要素によって、完新世を通じて保たれてきたかに注目し、各生態系がどの時点で崩れ始めるかをモデル化の手法で実験した。
 彼らが解明しつつあるのは、わたしたちの命を支えているシステムの仕組みと、それに内在する弱点にほかならない。このすこぶる意欲的な研究は、地球の営みについてのわたしたちの理解を大きく変えた。
 彼らは地球の環境に備わっている9つの限界――「地球の限界」――を突き止めた。人間活動の影響がその閾値内に留まっている限り、わたしたちは安全に活動を続けられる。つまり持続可能ということだ。
 わたしたちがあまりに地球に多くを求めすぎて、それらの限界が1つでも超えられれば、命を支えているシステムが危険にさらされる。取り返しがつかないほど自然が衰えて、完新世の温和な環境を維持してきたその能力が失われる恐れがある。
■もはや時間の問題である地球の破滅
 地球の制御室でわたしたちはそれらの9つの限界のつまみを不用意に回し続けている。ちょうど1986年にチェルノブイリ(チョルノービリ)の制御室で不運な夜勤の運転員がしていたのと同じようにだ。
 チェルノブイリの原子炉にも、内在する弱点と限度があり、その中には運転員が把握しているものとしていないものとがあった。運転員たちはシステムの試験のため、意図的につまみを動かしたが、そうすることのリスクについては恐れもしていなければ、理解もしていなかった。
 限度以上につまみが動かされたとたん、核分裂の連鎖反応が始まり、原子炉はたちまち不安定化した。そうなってはもう惨事を食い止める手立てはなかった。複雑でもろい原子炉が暴走しており、もはや爆発は時間の問題だった。
 今の人間活動がこのまま続けば、地球の破壊もやはり時間の問題だ。9つの限界のうち、4つはすでに超えられてしまった。
 肥料の過剰投与によって、地球を汚染し、窒素とリン酸の循環を壊しているのが1つ。森林や草原や湿地など、陸上の生息環境を見境のないペースで農地へ変えているのが1つ。
 地球史上に例のない速さで大気中の二酸化炭素を増やし、地球を急速に温暖化させているのが1つ。大量絶滅時の化石の記録に匹敵し、平均の100倍以上にもなる生物種の絶滅率(言い換えるなら、生物多様性の喪失率)を招いているのが1つだ。
 当然ながら、気候変動のことはそこかしこで語られている。しかしすでにはっきりしているのは、人為的な気候変動は、数多くの差し迫った危機の1つにすぎないということだ。
■「大加速」から「大減退へ」
 地球科学者たちの研究によって、現在、4つの警告灯が点灯していることが明らかになっている。わたしたちの活動はすでに安全が保証される範囲を超えてしまっている。爆発に降下物が伴うように、「大加速」は今その副産物として、生物界に真逆の反応、「大衰退(グレート・ディクライン)」を引き起こしつつある。
 科学者の予測によれば、わたしが生きた時代を決定的に特徴づけていた地球環境の破壊がほんの序の口だったと思えるほど、次の100年にはさらにすさまじい破壊が起こるという。
 (翻訳:黒輪篤嗣)
 デイヴィッド・アッテンボロー :自然史ドキュメンタリー制作者
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