🦎21」─1─中国「一帯一路」失敗の象徴…親中だったパキスタン。~No.67No.68No.69 

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 2022年10月6日 MicrosoftNews ダイヤモンド・オンライン「中国「一帯一路」失敗の象徴…親中だったパキスタンが米国に急接近する理由
 白川 司
 © ダイヤモンド・オンライン 提供 中国とパキスタンの国境 Photo:PIXTA
 9月の大洪水をきっかけに
 親中国のパキスタンが米国に接近
 アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官が、9月26日に首都ワシントンでパキスタン外相のビラーワル・ブットー・ザルダリ氏と会談した。
 ブリンケン国務長官は洪水による被害を受けたパキスタンへの支援を約束すると同時に、中国に対してもパキスタンが負っている債務を軽減するように呼びかけている。パキスタンでは9月に大洪水が発生して国土の実に3分の1が水没し、死者は1600人にものぼり、700万人以上が避難する壊滅的な被害を受けている。
 ブリンケン国務長官は5600万ドル(約80億円)の人道支援のほか、航空機17機分の物資など、長期にわたるパキスタン支援を表明している。
 反米色の強かったカーン前首相が辞任したあとの7月6日に、両国外相は電話会談を行って、パートナーシップの強化を確認している。
 パキスタンはこれまで、中国からの援助を最も受けている大の親中国であったが、今回の水害をきっかけにアメリカに急激に接近し始めており、アメリカ側もパキスタンを親米側に引き入れるべく全力で支援するつもりのようだ。
 一帯一路離れを招いた
 中国の「自国第一主義
 パキスタンにとって中国は最大の経済パートナーである。中国にとっても、パキスタンはライバル関係にあるインドと隣接していることで、インド洋において最も信頼する戦略的パートナーである。中国は一大インフラ事業である「中国経済パキスタン回廊(CPEC)」を2015年から進めており、その予算規模は実に540億ドル(約7兆8000億円)に上る。
 CPECには海港の整備、新鉄道の敷設、地下鉄建設、水力発電、ファーウェイによる中パ間の光ファイバーの敷設などがある。いずれも国家的な大規模プロジェクトであり、中国はパキスタンにとって最大の投資者だったわけだ。
 だが、アメリカ政府はCPECに対して「持続可能な投資ではない」と警告を繰り返してきた。中国を全面的に頼るパキスタン政府はこの警告を無視してきたが、高金利と高インフレによる財政危機に見舞われ、親中のカーン首相が辞任に追い込まれてしまった。そして、今回の大水害がダメを押す形になって、ついにアメリカとの本格交渉が開始される運びとなった。
 パキスタンはインドの陰に隠れて目立っていないが、人口は世界第5位の2億2000万人を有している。ただ、腐敗が横行したまま政治改革が遅れ、経済規模も外貨準備高も年々縮小し、失業率が急上昇。自国通貨パキスタン・ルピーも2015年以降下落の一途をたどっている。そのため、対外債務は1310億ドル(約18兆9000億円)という、その経済規模に似つかわしくない莫大な額に積み上がってしまった。
 政府は負債の返済のために借り入れを増やす債務の雪だるま状態に陥っている。パキスタン政府は、紅茶の輸入量を減らすために国民に紅茶を飲む量を減らすことまで求めて、当然のことながら国民から強い反発を受けている。
 パキスタンの債務の4分の1が中国からで、これは一帯一路の受け入れで急速に借り入れを増やしたものだ。中国にとってCPECは一帯一路最大のプロジェクトであることから、中国がパキスタンをかなり重視していることがうかがえる。
 また、パキスタン政府もその見返りとして中国に対して最大限の配慮をして、たとえば世界中から批判を浴びているウイグル人虐待に対して、同じイスラム教徒の多い国ながらノータッチを貫いてきた。このあたりは経済連携を深めながらも、反中感情を隠さないインドとは根本的な違いがある。
 ただ、中国による投資には大きな問題がある。
 中国が大規模プロジェクトで投資する場合、それを請け負うのは中国企業であり、働き手も現地から採用するのは肉体労働者ばかりで、それ以外の多くを中国から派遣する。さらに、中国政府は相手政府に対してプロジェクト工事の優遇を求めるのが普通で、パキスタンの場合も免税を強要するために、パキスタンの財政にはほとんど寄与していないのである。
 これはパキスタン国民からすれば、見えない損失を負わされたようなものである。
 また、中国とパキスタン自由貿易協定(FTA)を2006年から実施しているが、中国からの輸入が一方的に増えるだけで、パキスタンからの輸出はいっこうに増えていない。これは、「自由貿易協定」と言いながら、実際は中国に有利な品目の関税ばかりを減らしたからだろう。そのためパキスタン側の不満が鬱積して、2020年に仕切り直しをして中国側が歩み寄らざるをえなくなった。だがそれでも、パキスタンの中国に対する債務は増すばかりだ。
 グワダル港から見える
 中国投資の問題点
 パキスタンが中国投資に関していま最も不満をもっているのが、グワダル港に対するものである。グワダルは南西部にある小さな港町だが、中国が巨大投資を行って商業用深水港を建設し、急成長している。
 このプロジェクトで特筆すべきは、無償援助が含まれていることだった。中国が無償援助を行うことはほとんどなく、それはパキスタンを重視していたことの証明だと考えられてきた。
 もちろん、相手のことを思いやって無償援助するわけではない。グワダルが中国西部と近いことで、もともとはパイプライン建設や軍港建設を通して「中国の飛び地」とすべく計画している。
 結局、グワダル港は中国政府に40年間リースされることになり、中国国有企業が港の利益の91%を受け取る「ほぼ利益総取り」の状態にある。
 グワダルはさらに大きな問題を抱えている。グワダルのあるバルチスタン州はパキスタンの中でも最貧地域であるが、反体制派で分離独立主義の「バルチスタン解放軍(BLA)」が存在しているのだ。
 BLAは中国の経済侵略に抗議していることから、今後プロジェクト自体に攻撃を仕掛ける可能性がある。実際、すでに工事関係者の中国人がBLAによって何人も殺害されている。本来はインド洋での勢力拡大に使うための駐留軍隊を、中国は在パキスタン中国人の安全確保のために使わざるをえなくなっている。
 グワダルはいまだに上水道が完備されておらず、電気も安定供給からはほど遠い。莫大な投資はしたはいいが、本当に計画どおりに発展させられるのかにも疑問符がつく。
 一帯一路の重荷を
 背負い続ける中国政府
 一帯一路は主に陸のシルクロード(一帯)と海のシルクロード(一路)を中国からヨーロッパまで経済的につなぐという構想だが、実際にはアジアやアフリカ、中南米などの新興国を中心に莫大なカネを投資してきた。
 だが、ウクライナ戦争をきっかけに、エネルギーや食糧価格の高騰、金利上昇などが新興国の経済を直撃している。先述のパキスタンや、最近政変が起こったスリランカ、その前に政変が起こったモルディブなど、中国依存が大きい国ほど、危機下で大きな打撃を被っており、一帯一路を受け入れた債務国からの返済が滞ってきている。
 一帯一路受け入れ国には独裁国家が多いが、あまり雇用を生まない中国からの投資は国民から反発されることが多く、反政府的な感情を高めやすくなる。
 また、一帯一路は欧米機関が「採算の見込みが認められない」としたプロジェクトが多く含まれており、実際、中国への借金が膨らむだけで、完成しても採算が見込めないことが多いことが、返済の行き詰まりに拍車を掛けている。
 今後のプロジェクトについて、中国側では融資の基準を厳格化する案も浮上しているが、いずれにせよ、これまで投じた資金の回収が困難になりつつある状況は変わらない。また、今後の投資案件は著しく絞り込まざるをえなくなっている。
 さらに、中国は借金返済を他国より優先することを義務づけて、財政危機の際に「債権国同士で話し合って、返済スキームを作る」といった会議に参加しないことが多い。債務軽減を認めない中国の態度は、一帯一路受け入れ国政府に反発を生む要因となっている。また、中国への債務返済のために増税して国民の反中感情を高めるといった事例も出てきている。
 とくに、スリランカ南部のハンバントタ港などのように、借金返済ができず、その「カタ」として港が中国に占領されると、「債務のわな」ではないかと中国は国際的な批判を浴びるようになっている。
 体面を重視する中国政府にとって、一帯一路の評判の悪さは頭痛の種になっており、中国国内の反習近平勢力を中心に「一帯一路は失敗」という論調が高まっているという見方をする専門家も出てきている。
 10月に習近平国家主席の3期目が決定すれば、中国の影響力拡大を続けるためにも一帯一路を撤回することはありそうもない。だが、だからといって、今後、債務国の財政が健全化して資金回収がスムーズになることもありえない。
 中国経済が強かった時代であればそれでも続ける体力があるだろうが、中国経済は低成長期に入っている。中国がこれまで一帯一路という莫大な大型投資の原資に困らなかったのは、政府が社会福祉への財政を絞り込み、将来が不安な人民が勤勉に貯蓄してきたことが大きいが、今後の経済状況次第ではそれもどうなるかわからない。
 だが、一帯一路をいったん緩めてしまうと、今まで広げてきた中国の影響範囲を再び欧米に覆させる可能性がある。進めるのもやめるのも困難な「不良債権」と化しつつある。
 一帯一路は中国の世界覇権を広げる重要な政策だが、同時に中国経済に混乱をもたらしかねない不安定要素として、今後も中国政府を苦しめる可能性がある。
 (評論家・翻訳家 白川 司)」
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