🔔35」─2─フィンランドで右翼政権誕生。良質な医療・教育を脅かす驚きの政策。〜No.102 

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   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・   
 欧州は右傾化し、西欧で右翼政権が誕生している。
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 欧州諸国の人々は、多様性社会の理想論で異教徒非白人の外国人移民を受け入れる事で社会福祉が破壊され、働いて納めた税金が奪われる事に嫌悪して移民反対勢力を支持している。
 世界は、大量の外国人移民(主に中国人移民)を受け入れる日本とは逆方向へと進んでいる。
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 2024年7月3日7:05 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「「北欧型福祉国家」は崩壊に向かっているのか…フィンランドで起こっている、良質な医療・教育を脅かす驚きの政策
 低所得者層が生きにくい社会となる懸念
 昨年6月、1930年代以来、最右翼と言われる4党連立内閣がフィンランドで誕生した。この内閣を最右翼にしているのは、第2党のフィンランド人党である。前の連立内閣は、社民党のサンナ・マリンを首相とする中道左派だったので、大きな方向転換になる。
 【写真】フィンランドで起こっている、良質な医療・教育を脅かす驚きの政策
 1年経った現在、何が変わっただろうか。現在、進行していることの1つは緊縮財政政策である。政権発足当時は、60億ユーロ(1兆180億円)の歳出削減が目指されていたが、その後さらに30億ユーロ(5千90億円)が追加された。国の巨大な財政赤字を減らし均衡を得なければならない、という掛け声の下、社会保障や公的医療サービスの縮小、教育予算削減、消費税増税、政治ストライキ権制限などが起こりつつある。それは子ども、学生、働く人、子どもを持つ人、年金生活者など社会のほぼすべての人に影響を与えるものだ。
 一方、その政策は高所得者層の優遇と低所得者層の締め付けを行うもので、これまでのように格差を減らし、誰でもが生きやすい社会を国が保証するのではなく、自己責任を強調する新自由主義的社会への転換が指し示されている。こうした政策が実現された場合、もはや「北欧型福祉国家」ではなくなってしまうと懸念する人は多い。
 この政策を主導するのは、フィンランド人党の党首で財務大臣のリーッカ・プッラである。47歳の女性政治家だ。具体的にいくつかの例を見てみよう。
・失業手当受給に必要な労働日数を6か月から12か月に延長。
・失業手当開始までの5日間の自己負担期間を7日間に延長。
・失業手当の金額を受給2か月後から20%、8か月後からは25%減少。
・失業手当に追加される子ども手当の削除。これは、月額で150~285ユーロ(2万5千5百円~4万8千5百円)の減額になる。
・高齢失業者への保証減額。
低所得者への収入補助手当減額。
・2歳以下の子どもの育児休暇に対して「親手当」が320日間支払われるが、最初の16日間は払われない。
・病気などの理由でフルタイムでは働けないが、週に1~3日程度の労働や、非正規労働で得る収入を補う手当がある。従来は、月額で300ユーロ(5万1千円)までの収入は手当に影響しなかったが、今後は少しでも収入があった場合、手当が減らされることになった。全く働かない方が良いと考えるケースも出てきそうだ。
社会保障の歳入・歳出は計算通りとなるのか
 上記は、今年に入ってすでに施行されたものと9月から施行されるものがある。
 フィンランド国民年金庁が、毎年支払う様々な手当は約160億ユーロ(2兆7千億円)である。それは、フィンランド人やフィンランド在住者の約80%が、住居手当や収入補助手当、医療費手当などとして受給している。
 しかし、削減によって最も影響を受けるのは、現に失業手当や収入補助手当などを受けている層であり、すでに経済的に楽ではない人達の状況を悪化させてしまう。それは、社会保障の受給層を増加させ、かえって社会保障の歳出を増加させることになると批判されている。
 それに対し、社会保障大臣のサンニ・グラーン=ラーソネンは就業を奨励して雇用を増やし、歳出を減らして労働市場を改革すると主張している。その試算によると7万4千の雇用を新たに創出し、17億ユーロ(2880億円)の歳入を得られるという。
 さらに、公的医療サービスの縮小や教育予算削減も起きている。
・公立病院での初診料、及び処方薬の自己負担額の値上げ。処方薬の自己負担額は、現在の50ユーロ(8,500円)から70ユーロ(11,900円)に引き上げられる。これは、ガンなどの病気の場合でも一律で、自己負担額を超えるとかなりの公的援助がある。
・複数の公立病院で、夜10時から朝7時までの夜間緊急診療を廃止。病院1つがやめることによって500万ユーロ(8億5千万円)の経費節減できるという。しかし、これには地元の市民などから強い反対の声が上がり、撤回される可能性もあるようだ。
・高齢者の24時間ケアに必要なケアワーカーの数を減らす。現在は、20人の高齢者に対し13人が必要だが、12人に削減される。
・公的医療サービスを縮少しつつ、私立の医療を推奨。今年1月、私立医療機関で診療を受けた時の手当が、8ユーロ(1,360円)から30ユーロ(5,100円)に引き上げられた。公立の医療機関に比べて私立の料金はずっと高いが、手当を増やして誘導している。
医療も教育も、北欧ならではのすばらしいシステムが崩れていく…
・学生への住居手当を減らす。学生は住居手当、貸与型奨学金、国が保証する学習ローンの3つを受けられるが、住居手当を減らし、国による学習ローンの保証額を上げる。住居手当が削減されると、借金の額が増える、アルバイトなどで働く時間が増え、卒業までの年数が長引くなどが予想されている。
・18歳になった年の終わりに教材の無償提供が終わる。フィンランドでは、2021年に高校または職業学校までの中等教育が義務教育化された。小学校から大学まで教育費は無償、小学校から高校まで給食が無償だが、高校では教科書などの教材費は自費で購入する必要があった。高校の義務教育化に伴って、教材も無償になったが、今回は18歳なった年の終わりで教材の無償提供を止めるという。しかし、18歳で高校や職業学校を卒業するのが一般的なので、どれほどの節約になるのか疑問である。
・職業教育予算から1億ユーロ(170億円)削減。
・成人教育の予算の削減。フィンランド生涯学習が盛んで、成人のための様々な教育機関があるが、削減によって成人学習手当がなくなり、提供される科目も減る。
・養護施設で育った若者への支援を、現在の25歳までから23歳までに下げる。養護施設で育った子どもは、18歳頃になるとそこを出て自立するが、その後ソーシャルワーカーから精神的、その他の支援を受けることができる。2022年には1万365人の若者が、そうした支援を受けているが、年齢を23歳までに下げることによって2400万ユーロ(40億8千万円)を節減できるという。
・公共放送Yleへの予算削減。最終的な金額の決定はされていないが、4年間で2億ユーロ(340億円)の削減がありそうだ。
 増税に関わるものもある。
・ 食品にかかる消費税は現在の14%に据え置きだが、キャンディーとチョコレートは、一気に25.5%に上がる。しかし、これによって高い国産品ではなく安い輸入菓子の消費が増える可能性があり、フィンランドの製菓会社には不安材料となっている。
・一般消費税が、現在の24%から25.5%に増税される。消費税増税よって、来年は税収が4千万ユーロ(68億円)増えると試算されている。
・年額2万3千~5万7千ユーロ(390万円~970万円)の年金について、税率を上げる。年額3万ユーロ(510万円)の場合、減るのは100ユーロ(1万7千円)程度だという。ただし、上記より少額、または高額の年金について増税はない。
 労働者の権利を弱める政策も進んでいる。
 その1つは、政治ストライキ権の制限である。政治ストライキは、雇用条件の悪化、社会保障削減などの政府の政策への抗議を目的とするものを指す。フィンランドの組合は業種別だが、この春フィンランド労働組合中央連合(SAK)が2ヶ月以上ストライキを続け、輸出が停止してしまった。それは、国の経済に重大な影響を与えるものであり、5月から政治ストライキは24時間以内と制限された。また、 ストライキが非合法と判断された場合、参加した人に200ユーロ(3万4千円)の罰金が課されることになった。
 国民が示した現政権への「NO!」
 こうした一連のニュースは、驚きや懸念を持って受け止められているが、それに火をつけたのは、3月にフィンランド人党の28歳の国会議員がインスタグラムに投稿した写真である。そこでは、机の前に座った財務大臣のプッラが大きなハサミを手にして微笑み、その後ろを、やはり微笑を浮かべたフィンランド人党の国会議員8人が取り囲んでいた。生活を切り詰められる人達へのエンパシーが全くないこと、むしろ社会保障のカットを楽しんでいることを誇示するものとして、大きな批判が巻き起こった。ポピュリズムに典型的な表現スタイルと評した研究者もいる。
 こうしたことの後、6月9日の欧州議会選挙で議員が選出されたのだが、左翼同盟が歴史的な圧勝を収める一方、フィンランド人党は惨敗した。そこには、その緊縮政策にNo!という意見表明があっただろう。それは、今後の国内政治の進展にも影響を与える可能性がある。
 フィンランド銀行によると、フィンランドの負債額は他の北欧諸国に比べると非常に高いが、欧州連合の中では中程度だという。具体的に借金は2024年5月現在、1千6百2十万ユーロ(27兆3千億円)である。日本も借金が非常に多い国で、現在は1,297兆円。人口はフィンランドの約21倍だ。「世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移」によると、189ヶ国中フィンランドは51位。日本は2位である。
 こうした数字から、フィンランドの右翼政権は財政赤字を口実にして、実は「北欧型福祉国家」の解体を試みていると考えられなくもない。
 別の側面として、借金は真面目に返済しなければならないというプロテスタント的な倫理があるだろう。フィンランド第二次世界大戦後、戦勝国ソ連に戦争賠償借金を完済した唯一の国である。住宅や砕氷船など、現物による支払いもあった。
 また、アメリカは第一次世界大戦時、欧州諸国に融資をしたが、1931年に1年間の返済猶予を認めた。その後 、ほとんどの国が返済しなかったのに、フィンランドだけ完済し非常に感謝された。
 2004年に、フィンランド銀行は「フィンランドはいかにして良い返済者という評判を得たか 借金を返済した国」という展覧会を開催している。借金を返済することが、アイデンティティの一部になっているようなのだ。
 困窮や貧困を「生まない」仕組みが「北欧型福祉国家」の基本
 フィンランド社会保障は削減されても、日本の社会保障の現状に比較すれば、全体的にはずっと良いと言える。フィンランドでの報道を見ていると 、現政権を嫌い「北欧型福祉国家」を望ましく思う多くの人達の存在が感じられる。
 「北欧型福祉国家」の基本は、困窮する人を助けるというよりも、そもそも困窮や貧困を生まないような仕組みを国家が準備し、提供することにある。個人が苦労して生きていくのではなく、誰もが生きやすい社会を国家が保証するという考え方だ。
 「北欧型福祉国家」が出現したのは1960年代だが、歴史的にはその考え方はより古い。そこには、国家の役割は市民が良い人生を生きていける仕組みを構築することと考えた、フィンランドの哲学者J.V. スネルマン (1806 – 1881) の思想がある。
 フィンランドが、社会格差と自己責任の新自由主義国家に成り下がることなく、「北欧型福祉国家」の思想と実践を持ち続ける国であることを望んでやまない。
 参考文献
 Bank of Finland. https://www.suomenpankki.fi/en/.
 Helsingin sanomat. 2024/04/16. Hallitus kertoi jättisäästöistä – tässä ovat keskeiset veronkorotukset ja leikkaukset.
 https://www.hs.fi/politiikka/art-2000010362651.html
 SAK. Sosiaaliturvan heikennykset.
 https://www.sak.fi/ajankohtaista/painava-syy/sosiaaliturvan-heikennykset#heikennykset-etuuksiin
 「世界の政府債務残高対GDP比 国別ランキング・推移」(https://www.globalnote.jp/post-12146.html)
 岩竹 美加子(ヘルシンキ大学非常勤教授)
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 YAHOO!JAPANニュース 現代ビジネス「「フィンランド「右翼政権」誕生でも、日本よりは明るい未来が見える意外な理由
 人種差別的発言など問題ありの大臣たち
 岩竹 美加子ヘルシンキ大学非常勤教授
 欧州で右翼や極右政治が台頭しているといわれるが、フィンランドでも1930年代以来となる、最も右翼とされる連立内閣が成立した。フィンランドが基本的価値としてきた平等と公平、人権、民主主義を揺るがす考えを持ち、危機感を持って論じられている。年齢も男女比も日本とはまったく違う閣僚メンバーの構成や、実際どんなことが起こっているのか、フィンランド在住の岩竹美加子氏が解説する。
 内閣成立後すぐ相次いだ大臣の問題発言
 最近、欧州で右翼や極右政治が台頭しているといわれるが、フィンランドでも6月末に、最も右翼とされる連立内閣が成立した。4党の連立内閣を最も右翼にしているのは、フィンランド人党である。
 内閣成立後すぐ、フィンランド人党の4人の大臣の過去の人種差別的な言動が次々に報じられ、衝撃を与えた。内閣発足10日にして辞任に追い込まれた経済大臣、続いて後継者になった経済大臣、党首の財務大臣、また内務大臣の過去の発言が明かされて問題視され、連日議論が続いている。最も大きな問題になったのはレイシズムである。
 国旗と街並み photo by iStock国旗と街並み photo by iStock
 フィンランドで「右翼」が意味するものは歴史的に変化した。元は労働者階級に対する上流階級を指していたが、現内閣では反移民、緊縮財政、社会保障の縮小、ストライキ権の制限などを特徴とする。さらに、フィンランドが基本的価値としてきた平等と公平、人権、民主主義を揺るがす考えを持ち、危機感を持って論じられている。
 経済大臣は二人続けて過去の失態報道
 まず、現在までの流れを見てみよう。
 連立内閣発足直後に、経済大臣ヴィルヘルム・ユンニラ (41) が、過去に会合に出席する、国会を案内するなどネオナチ組織と関連していたことが報じられた。
 また、2019年の国政選挙によって国会議員に選出された時の立候補者ナンバーが88だったのだが、その意外な意味づけが明かされた。フィンランドの選挙では、立候補者の氏名ではなくナンバーを書いて投票するが、88はネオナチの間で「ハイル・ヒトラー」を意味するという。Hは、アルファベットで8番目の文字だからである。ユンニラは、会合で選挙番号88をラッキーナンバーと語り、ふざけていたことが報じられた。
 ユンニラは過去の発言を冗談として謝罪したが、内閣発足後8日目に国会で 信任投票がされた。辛くも信任されたものの、その2日後に辞任に追い込まれた。致命的だったのは、2019年の国会質問が明るみに出されたことである。今後の地球環境のために、サハラ以南のアフリカでは妊娠中絶を進めるべき、という優生思想を述べていたことが報じられた。
 これらの言動は大臣就任前のものだが、右派にアピールして支持を伸ばしてきたことが問題視された。極右グループと関連を持ち、ヒトラーホロコーストと戯れてきたことは冗談では済まない。経済大臣であり、特にドイツやイスラエルとの交渉を任せられるかどうかも懸念された。ドイツには極右政党「ドイツのための選択肢」があり、その党員は地方の首長にはいるが、入閣はしていない。
 ユンニラと交代したのは、ヴィッレ・リュードマン(37歳)である。2022年に、複数の10代女性へのセクハラ疑惑が報じられたことが記憶に新しい人物だ。就任2週間後に、2016年にソマリア人に対してレイシズム発言をしていたことが報じられた。ソマリア人は東アフリカ・ソマリアからの難民や移民で、その受け入れは1990年代に始まった。現在、フィンランドには2世も含めて約23000人が在住している。
 リュードマンの発言は、当時交際していた女性への携帯メールへのメッセージで、「ソマリア人のように広がって増える」「雑草のように広がる」「砂漠の猿に吐き気がする」などと書かれていた。
 この私信を公開したのは、全国紙ヘルシンギン・サノマットである。私的なメールの公開に踏み切ったのは、当時リュードマンは国会議員であり、国会の憲法審議会の委員を務め、移民に関する法制に影響できる立場にあったからと説明している。リュードマンの辞任を求める声もあったが、現在まで辞任はしていない。
 財務大臣は激しくヘイトスピーチ
 2人の経済大臣をめぐる騒動に加え、フィンランド人党党首で新内閣の財務大臣に就任したリーッカ・プッラも論争の対象になった。プッラは46歳の女性だが、15年前の2008年、あるブログに人種差別的な投稿をしていたことが問題化された。
 そのブログはフィンランド人党党首(2017〜2021年)、欧州議会議員(2014〜2019年)、国会議員(2011〜2014年)などを歴任し、現在は国会議長、また2024年の大統領選でフィンランド人党から出馬するユッシ・ハッラアホ(52)のブログである。そこにプッラは、ファーストネームだけで投稿していた。当時は、博士論文を執筆中の31歳の大学院生である。
 夕刊紙イルタレへティは、プッラが投稿した185の記事全てを公開した。そこに書かれているのはイスラム教徒、ジプシー、アフリカ人、同性愛者に対する嫌悪である。15年前の記事を公開した理由は、大臣の職にある人物が書いたテキストの全体像を市民が評価できるようにすること。明確なレイシズムホモフォビアの意思を持って書き、それによって政治的キャリアを築いていったことを示すためと説明された。
 その後、2014年から始めた自分自身のブログに書いた2019年の記事の一部が報じられた。そこには、「黒いゴミ袋が道を歩いている。それが人間だとわかるのは、後をついていく小さい人がいるから」と書かれている。全身を覆う黒い服を着たムスリム女性を蔑むヘイトスピーチである。
 批判を受けてプッラは、そのブログはイスラム社会での女性の地位の低さを問題としたものと弁明した。別のフィンランド人党の国会議員は、女性の地位が低く、男性に従属させられている社会は、フィンランドのような社会より劣っていると見て良いと発言してプッラを擁護。個人を差別するのはレイシズムだが、社会を批判するのはレイシズムでもヘイトスピーチでもないという。
 ここで興味深いのは、プッラは難民や移民の受け入れが少ない日本の移民政策を「日本モデル」と呼び、好ましいものとしてきたことだ。しかし、日本はジェンダーギャップ指数で、毎年世界ランキングの底辺にある事が示すように、女性の地位が低い社会である。劣っていると見られても仕方ない社会の移民政策をモデルと見ている、という矛盾がある事になる。
 危険な「人口交代」を口にした内務大臣
 さらに問題にされたのは、内務大臣マリ・ランタネン(47)の、今年3月の発言にあった「人口交代」という言葉だ。「人口交代」は、非白人系の移民が増えることによって、白人系住民とその文化が脅かされるとする主張である。それは、グローバルエリートやユダヤ人が、移民によって白人の人口を非白人に置き換えようとしているという陰謀論と繋がっている。
 「人口交代」は2010年代に出現した言葉で、英語圏の「大交換(Great Replacement)」のフィンランド語版である。統計学的な見地からは誤りの主張であり、学術的研究でも一般的にも使われていない。しかし、それはフランスの政治家マリーヌ・ル・ペン、イタリアのジョルジア・メローニ首相、アメリカのドナルド・トランプ元大統領などの右派に影響を与えている。
 「人口交代」の考えの危険性は、それが実際のテロ事件に繋がることだ。2019 年に51人が死亡したニュージーランドクライストチャーチのモスク襲撃はその1つである。
 フィンランド内務省は、「人口交代」を極右が暴力やテロ行為の根拠として使う陰謀論と位置づけている。しかし、新しい 内務大臣が「人口交代」という言葉を使っていた。ランタネン内務大臣は、批判を受けて「人口交代」も陰謀論も信じていないと主張している。
 忖度なく議論が進むメディアの力
 この一連の騒動について、フィンランドのP・オルポ首相(53)は、フィンランドは人権と平等を基本的原則とする法治国家であると明言した。また、極右も極左も容認されないこと、全ての人が安全で良い人生を生きられる社会でなければならないことも複数回述べた。同様の表明は、政府も出した。
 また、フィンランドのS・ニーニスト大統領は、レイシズムにもヘイトスピーチにもゼロトレランス、全く認められないと発言した。フィンランドでは、大統領の権限が大きく制限されており、内閣や国会に関することに口を挟むのは異例だ。
 さらに、ジャーナリズムの役割も再確認された。フィンランド最高裁及び、欧州人権裁判所によると、ジャーナリズムの役割は社会的地位の高い権力者、政党などに関する疑義を公表し、公に論議、判断することである。連日の議論や論評を見ていると、忖度することなく大臣や国会議員を追及するメディアの役割が機能していることが強く感じられる。
 しかし、財務大臣のプッラは、それをフィンランド人党に対するメディアの「魔女狩り」と批判し、フィンランド人党を被害者と位置づけて抗戦している。
 一連の騒動の中で、首相や大統領、主要メディア、また研究者等によって民主主義、法治主義、人権、平等、公平などの国家の原則が再確認されたことは高く評価できる。
 またこうした原則に加え、より現実的な理由もあった。極右の大臣がいては国のイメージが悪くなる、非民主主義の東欧のように思われる、企業の輸出がしにくくなる、国際的投資が回避される等の懸念である。こうした対外的な懸念は、日本の政策においてもされて良いのではないだろうか。
 日本とは大きく違う新内閣の構成
 ここでは、新内閣の構成と大臣の年齢、学歴を見てみたい。
 4党の党首による連立内閣で、首相は男性、他の3人の党首は女性である。19の大臣ポストの内、3つが2年で交代するので総計22人。女性13人、男性9人という構成だ。
 大臣の平均年齢は47歳で、最年少は32歳、最年長は62歳。22人の内 2人が博士、10人が修士である。
 財務大臣のプッラは、前述したように46歳の女性だ。2004年に政治学修士を取得。2016年にフィンランド人党のプランナー、2019年に国会議員、2021年に党首、今年は財務大臣とキャリアを進めた。2児の母でもある。才能ややる気があると、キャリアをスピーディに開いていけるのは分野を問わずフィンランドの特徴だが、それが女性にも可能な社会である。
 6月末に公表された「政府の計画」では、国の借金を減らすための政府支出の大幅な削減、住居手当や失業手当など社会保障の削減、会社の解雇権の強化、ストライキ権の制限などが挙げられている。高所得者層の優遇、低・中所得層の締め付け、自己責任の増大などを伴うもので、様々な労働組合や職業同盟がすでに反対や批判の声を上げている。この計画は、新自由主義サッチャリズムを持ち込み「北欧型福祉国家」を変容させていこうとするものでもある。
 7月の世論調査によると、回答者の半数以上がこの内閣は4年は持たないと考えている。フィンランドでは、6月から8月の3ヶ月近くが夏休みだ。9月からの国会の進展がどうなるか、追っていきたいと思う。
 【参考文献】
 Helsingin sanomat. 2023.7.14. Tällainen on Riikka Purran oma blogi.
 https://www.hs.fi/politiikka/art-2000009717257.html
 Iltalehti. 2023.7.21. ”Riikan” viesteissä kohteina ovat muslimit, homot, romanit ja afrikkalaiset.
 https://www.iltalehti.fi/politiikka/a/2b71f6f7-b6c9-444c-9bea-fdd19936d356
 Yle. 2023.6.30. Nyt sisäministerin aiemmat puheet ovat syynissä. https://yle.fi/a/74-20039274
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