💠16」─1─トランプ現象。エリートやインテリが掲げる「多様性」は大衆にはもう届かない。〜No.65 

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 関連ブログを6つ立ち上げる。プロフィールに情報。  
   ・   ・   {東山道美濃国・百姓の次男・栗山正博}・  
 トランプ大統領安倍晋三は違うタイプの政治家だったが、反トランプ勢力とアベガー勢力は何処か似たタイプのエリートやインテリの集団である。
 日本のメディア業界や教育界は、反トランプ勢力の情報をそのまま分析もせず日本でも流している。
 安倍晋三総理が目指した国柄とは、正統性男系父系天皇を中心とした保守であってポピュリズム大衆迎合主義)による右傾化ではなかった。
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 天皇宮中祭祀、日本神道・日本仏教が目指してきた多様性や多文化多宗教共生社会と、グローバリズムマルクス主義)のエリートやインテリが掲げる政教分離の多様性や多文化共生世界は、全然違う。
 日本の認識と世界の認識は、全然違う。
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 2025年8月25日 YAHOO!JAPANニュース ダイヤモンド・オンライン「エリートやインテリが掲げる「多様性」は大衆にはもう届かない。じゃあ、どうする?
 次々と新たなビジネスを仕掛ける稀代の起業家、佐藤航陽氏。数々の成功者に接し、自らの体験も体系化し、「これからどう生きるか?」を徹底的に考察した超・期待作『ゆるストイック』を上梓した。
 コロナ後の生き方として重要なキーワードは、「ストイック」と「ゆるさ」。令和のヒーローたち(大谷翔平井上尚弥藤井聡太…)は、なぜストイックに自分に向き合い続けるのか。
 『ゆるストイック』では、新しい時代に突入しつつある今、「どのように日常を過ごしていくべきか」を言語化し、「私自身が深掘りし、自分なりにスッキリ整理できたプロセスを、読者のみなさんに共有したいと思っています」と語っている。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)
● エリートへの不信感
 人は、信じたいものを信じます。
 実際に、エセ科学やスピリチュアルを信じる人たちは、増え続けています。
 こうした状況は現在の社会でも進行中です。
 二極化によって生じた経済格差が固定化され、富裕層と貧困層の隔たりがさらに広がっています。
 裕福で社会的に余裕のある人々にとっては、こうした現象は「理解し難い行動」にしか映りません。
 しかし、実際には、困窮している人々の数は増加し、彼らの中では論理やエビデンスではなく、感情に訴える言葉に頼る傾向が強まります。
 しかし、裕福な人々はその状況に気づくことが難しい。
 なぜなら、彼らは同じような富裕層・エリート・インテリとしか交流がなく、困窮している人々の現実や日常を知る機会が少ないからです。
● エリートの声は届かない
 また、富裕層・エリート・インテリが掲げる「多様性」「機会の平等」「包摂」といった理念も、経済的に苦しい状況にある人々には共感されにくくなっています。
 むしろ、これらの理念は彼らからすれば、「金持ちの戯言」「現実感のない理想論」として映り、理解されるどころか、反感を買う原因にもなりかねません。
 生活に余裕がなく、目の前の生存が脅かされている人々にとっては、こうした理念よりも具体的な「救済」や「支援」を優先してほしいからです。
 このように、価値観のズレや隔たりが生まれ、富裕層・エリート・インテリの掲げる理想が困窮する人々には届かず、むしろ対立を深める結果につながっています。
 アメリカの大統領選でも、こうした分断が顕著で、互いの支持層がまったく噛み合わない論争を続けているのは、まさにこの構造が背景にあるのです。
● 「エビデンス」では人は動かない
 二極化の世界が誕生し、追い詰められている人々が増加している。
 そうなっている以上、これからの時代には、エビデンスや合理性だけで人々を説得することがますます困難になると考えられます。
 私たちは、これからは「正論」や「エビデンス」を振りかざすだけでは通用しない世界に入っていることを深く理解しておかなければなりません。
 分断が進む中で、さまざまな立場の人々がそれぞれに異なる「正しさ」を持ち、それを信じて行動する時代になっています。
 人々が信じる「正しさ」がバラバラに分断され、複数の真実が存在するということを前提に、他者を理解して共存する方法を模索しなければならない時代なのです。
 佐藤航陽(さとう・かつあき)
 株式会社スペースデータ 代表取締役社長
 1986年、福島県生まれ。早稲田大学在学中の2007年にIT企業を設立し、代表取締役に就任。ビッグデータ解析やオンライン決済の事業を立ち上げ、世界8ヵ国に展開する。2015年に20代で東証マザーズに上場。その後、2017年に宇宙開発を目的に株式会社スペースデータを創業。コロナ禍前にSNSから姿を消し、仮想現実と宇宙開発の専門家になる。今は、宇宙ステーションやロボット開発に携わり、JAXAや国連と協働している。米経済誌「Forbes」の30歳未満のアジアを代表する30人(Forbes 30 Under 30 Asia)に選出される。最新刊『ゆるストイック』(ダイヤモンド社)を上梓した。
また、新しくYouTubeチャンネル「佐藤航陽の宇宙会議」https://youtube.com/@ka2aki86 をスタートさせた。
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 2016年11月15日 東洋経済ONLINE「トランプ現象」は、いずれ日本でも起きる
 2021年まで安倍首相なら日本社会も深刻化?
 米国で起きたことは、いずれ日本でも起こる。もし安倍首相が2021年まで首相だとしたら、日本でも「トランプ旋風」のようなものが吹き荒れるのだろうか(撮影:尾形文繁)
世界の金融市場が予想以上に堅調だ。日本株も、11月14日の日経平均株価が1万7672円となり、2月2日以来、約9カ月ぶりの高値をつけた。世界経済を奈落の底につき落とすかのように報じられていた「トランプリスク」は、短期的には、なかったに等しかった。
 「ブッシュ+クリントン=24年」は許せなかった米国民
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 しかし、筆者には、今回のトランプ候補勝利は、日本の政治にとっては「都合のよくない風」が吹き始めていることを感じさせるものだった。
 どういうことか。今回トランプ候補は、共和党の候補者指名選挙で元大統領である父と兄を持つジェブ・ブッシュを早々に蹴落とし、本番では大方の予想を覆しクリントン元大統領夫人でもあるヒラリー・クリントン氏を、接戦の末に打ち破って見せた。
 2期8年の任期の最後を迎えてもオバマ大統領が依然高い支持率を誇る中、なぜ米国民はオバマ政治の継続を望まなかったのだろうか。それは、オバマの次の担い手が、エスタブリッシュメント(支配者層)だと目されていたヒラリー・クリントン候補だったからではないか。
 筆者に言わせれば、長い大統領選の根底にあったのは、オバマ政権運営の評価でなく、エスタブリッシュメントが政権を独占し続けることに対する審判だったといえる。
 結局、1989年以降の28年間、米国大統領の座はブッシュ家が12年間、クリントンオバマという民主党政権が8年ずつ計16年占めてきた。もし、この先ヒラリー・クリントン候補が1期4年大統領を務めることになれば、米国大統領の座を32年のうちブッシュ家とクリントン家で24年=すなわち75%を独占することになったところだった。
 経済成長の裏で進む格差が大きな社会問題となっている米国では、国民はこうした権力の固定化を望まなかったと見ることもできる。
 翻ってわが日本はどうか。1989年6月に宇野宗佑内閣が誕生してからこれまで延べ17人の総理大臣が誕生しており、現在の第2次安倍政権が誕生するまでは、政権の固定化より、むしろ流動化が問題になってきた。
 短命内閣が続いたこともあり、顔触れという面では権力の固定化は見られない。しかし、1989年6月以降誕生した17人の総理大臣のうち10人は2世・3世政治家であり、細川護熙元総理を含め、こうしたいわゆるエスタブリッシュメントが支配してきた日数は合計約7000日、比率にして70%強にまで達している。
 こうした中、自民党は党総裁の任期を「連続2期6年」と規定している現在の党則を「連続3期9年」に改正し、安倍総理が2021年9月まで続投出来るような環境整備を行っている。
 仮に安倍内閣が2021年9月まで存続するとしたらどうだろうか。総理在任日数は歴代最長の3567日に達する。この数字は、一人で1989年6月の宇野内閣以降の日数の約30%を占め、いわゆる「エスタブリッシュメント総理大臣」が政権を担う比率は約77%に達することになる。
 これは、ヒラリー・クリントン大統領がもし1期4年政権を担っていた場合の、ブッシュ家とクリントン家が大統領の椅子を占める比率「75%」をも上回る数字だ。
 また、現在の第二次安倍内閣の閣僚20人のうち7人は世襲議員であるうえ、国会議員の3~4割が世襲議員で占められていることを考えると、日本のエスタブリッシュメント支配は米国より進んでいるということもできそうだ。
 「トランプ現象」が周回遅れで日本に起きる可能性
 バブル崩壊以降、日本では金融分野を中心に、「日本は欧米と比較して周回遅れ」だと指摘されてきた。そして、バブル崩壊後に限らないが、米国で起きたことは、数年後に日本でも起きるといわれてきた。
 日本では、トランプ大統領決定の原因をポピュリズム大衆迎合主義)の台頭によるものとする分析が主流だ。だが、仮に今回の大統領選挙の要因が、「エスタブリッシュメントによる大統領の独占」に対する危機感だったとしたら、こうした大衆の危機感は「周回遅れ」の日本でも起きることは十分に考えられるのではないか。少なくとも格差社会は、日本でも既に問題化している。
 今回の大統領選も、6月の英国国民投票も、事前の世論調査とは異なる結果となったのは興味深い。膨大なデータをもとに高性能のコンピューターを使って分析して出されたはずの調査結果が、結局は間違ったものだったということは、人々はこれまで蓄積されたデータとは異なった価値観で行動し始めていることを示唆するものでもある。
 エスタブリッシュメント政権の長期化を図る日本の動きは、泡沫候補といわれたトランプ候補を大統領にまで押し上げた米国社会の流れに逆行するものだ。安倍1強のもと、巨大与党に対抗できる野党が存在しない日本では、世論調査が大きく外れることは考え難い。しかし、米国大統領選挙で見えたエスタブリッシュメント支配の固定化を懸念する潮流が今後日本でも台頭してくる可能性は否定できない。日本は「米国と比較して周回遅れ」で動いているのだから。
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 近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト
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 2025年4月24日 時事ドットコムニュース 幼児回帰するアメリカが産み落としたトランプ現象◇アメリカと世界を救うには 浜矩子・同志社大学名誉教授【時事時評】
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 トランプ大統領の政策に抗議する集会に参加する人々=2025年4月19日、米オークランド【EPA時事】
 「ジジ抜き」という名のトランプゲームが世界的に流行るといい。このところ、筆者はそう考えている。被害妄想と覇権奪取願望がグチャグチャにないまぜとなったトランプ爺。その彼が引き起こす旋風から一線を画し、アメリカ以外の国々がジジ抜きで仲良くし、協力し合う。ジジ抜きワールドが、新しい本格的で多角的な国際経済秩序を構築する。トランプ旋風が、結果的にこのような方向性を生み出すことになれば、そこに一筋の光明がある。少し前から、このように考えるようになっていた。
 トランプの正体とは
 すると、ある新聞記事が目に止まった。4月17日付毎日新聞の朝刊である。取材に応えて、カーネギー国際平和財団欧州支部のローザ・バルフォア支部長が「『米国抜き』安保真剣議論を」と語っていた。おお、同好の士だ。勇気づけられる。もっとも、トランプ爺外しが進むことが、世界的に分断のブロック化をもたらしたり、習近平という名のもう一人の爺の突出をもたらしたりするのはまずい。この辺が厄介で注意を要するところだ。これらの点に留意しつつ、トランプ台風吹き荒れる中の世界について、思いを巡らしていきたい。
 米大統領のトランプ氏=2025年4月18日、ワシントン【AFP時事】
 まずは、ドナルド・トランプの正体は何なのかを見極めておこう。端的に言って、彼は「偽預言者」なのだと思う。典型的で筋金入りの偽預言者だ。真の預言者とは、神から託された言葉を人々に伝える役割を担っている。それに対して、偽預言者とは何者か。それを見極めることは、存外に容易だ。偽預言者には、ざっくり言って、三つの特徴がある。
 第一に、偽預言者は誰が悪いのかを教えてくれる。第二に、敵はどこにいるのかを示してくれる。そして第三に、彼は人々が聞きたかったこと、耳に心地よいことを言ってくれる。これら三つの特性をいかんなく発揮して、偽預言者は人々を自分が得する方向に引き寄せる。自分の思いが実現する世界に、人々を引きずり込むのである。
 ドナルド・トランプいわく、誰が悪いのかと言えば、それはジョー・バイデンだ。バイデン政権の愚策のおかげで、皆さんは生活が苦しくなった。不幸になった。敵はどこにいるのかと言えば、かれらは海の向こうにいる。そして不法移民たちの共同体の中にいる。
 その一、悪いやつらを権力の座から引きずり下ろそう。その二、敵をやっつけ倒そう。そしてその三、そうすれば、黄金時代がやって来る。メーク・アメリカ・グレート・アゲイン! この3点セットで、偽預言者の帝王、ドナルド・トランプは政権の座に返り咲いた。
 アメリカ落日物語の最終幕
 偽預言者の勝利が意味することは何か。筆者は、その中にアメリカ落日物語の最終幕をみる気がする。第2次世界大戦後において、アメリカはスーパーヒーローの座に就いた。
 若きスーパーヒーローだった。まさしく、かのスーパーマンのイメージだった。アメリカ以外の世界が焼け跡経済と化す中で、無傷の若者が求心力の核となった。「パックス・アメリカーナ」すなわちアメリカの繁栄がもたらす平和の時代が到来した。そうもてはやされたのであった。
 フォード米下院院内総務(右)らと話し合うニクソン大統領(中央)=1971年1月1日、ワシントン【AFP時事】
 だが、その時代は実を言えばさして長続きしなかった。具体的にいえは、1945年から1971年がその時代だった。1945年は、IMF国際通貨基金)とWTO(世界貿易機構)の前身だったGATT(関税と貿易に関する一般協定)を二本柱とするいわゆるブレトンウッズ体制が本格始動した年だ。
 1971年はいわゆるニクソンショックの年である。この時、当時のニクソン米大統領が、ドルの金交換を停止した。それまでのドルはいつでも公定価格で金と交換可能な世界唯一の通貨であった。他の諸通貨とは全く違う輝きを帯びていた。通貨の王様だった。通貨の太陽系における太陽の位置付けにあった。この地位を保ち続けることができなくなった。この敗北宣言がニクソンショックだった。そしてその時、ニクソン大統領は自国市場を守るために、10%の輸入関税の導入に踏み切った。
 ここに端を発したそれこそ「グレート」だったアメリカの終焉(えん)過程が、いよいよ最終局面を迎えた。そう思えてならない。今、われわれはアメリカの先祖返りを目撃している。幼児返りと言った方がいいかもしれない。自国市場を高関税の障壁で囲い込もうとするアメリカは、19世紀末から20世紀初頭のアメリカに逆戻りしているようにみえる。当時のアメリカは、新参者国で、まだまだヨチヨチ歩きだった。だから、先行する大物諸国たちの攻勢から自国経済を守る必要があった。少なくとも、そういう恐怖心に駆られていた。トランプ爺の強迫観念にあの当時のアメリカが重ね写しとなる。
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 2024年9月10日 WEBVoice「なぜトランプは圧倒的な支持を得るのか? 背景にあった「IT革命」敗者の怒り
 トランプが支持を集める理由
 なぜ、トランプはここまでの圧倒的な支持を得ているのか? キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏は、その背景には1990年代以降の米国社会の構造的変化があるという。本稿では書籍『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』より、この複雑なトランプ現象の本質を解き明かす。
 ※本稿は、宮家邦彦著『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。
 現在の「トランプ現象」の本質
 最近の米国内政の混乱は目を覆うばかりだが、なかでも際立つのが「トランプ現象」だ。では、なぜ「トランプ現象」はかくも長続きするのか。昔は、KKKクー・クラックス・クラン)など白人至上主義者のせいだ、などとする説明で済んでいたが、それだけでは現在の「トランプ現象」の本質は到底わからないだろう。
 筆者も最近までは「米国の白人・男性・低学歴・ブルーカラー労働者・農民を中心とする現状への不満が原因だ」などとお茶を濁していた。でも、振り返ってみれば、こうした説明すら必ずしも的を射ていなかったと反省している。
 「トランプ現象」の弊害に関する分析は多々あれど、この現象が「いかなる原因で起き持続しているか」の説明は意外に難しい。現在の筆者の仮説は、「トランプ現象」とは米国内政の「内向き志向」が原因というより、1990年代以降の米国社会の構造的変化がもたらした「結果」、ということ。
 興味深いことに、この点をグローバルに理解するうえで最善の解説は、最近の欧州極右勢力の台頭に関する『ニューヨーク・タイムズ』紙の分析記事だった。ここに同記事の重要部分を引用しよう。書いたのは欧州専門のロジャー・コーエン記者である。
第二次世界大戦後に優勢だった仏独の中道左派中道右派の支持基盤は徐々に風化し始めた。
•この傾向は冷戦後のグローバリゼーションや携帯電話の普及により加速され、より不平等で、分極化した、気難しい社会をつくり出した。
•その結果、共通の政治空間は縮小し、真理の定義は動揺し始め、政治の重心がソーシャルメディアに移るにつれ、議会や政党がより軽んじられるようになった。
•経済と政府の関係に関するイデオロギー的論争が解決したため、多くの人びとにとって穏健左派も穏健右派も区別がつかなくなってしまった。
•穏健勢力には移民大量流入問題の解決策がないため、労働者階級の多くは、拡大する不平等と収入停滞に関する不満を表明すべく、反移民を唱える右派勢力に流れていった。
•西側社会の対立の核心は国内問題ではもはやなく、国際主義と民族主義の対立である。
•それは、知識経済の「ネットワーク内に住む」人びとと、荒れ果てた工業地帯や田舎に住む「忘れ去られた」人びととの間の対立でもある。
•そこにある「忘れ去られた」人びとの不満や怒りがトランプ、イタリアのジョルジャ・メローニ、オランダのヘルト・ウィルダース、フランスのマリーヌ・ルペンといった政治家たちの活動の土台となっている。
•社会的伝統習慣を進歩的な方向に変えることは、(保守)政治家に新たな武器を与える。
•たとえば、プーチンは「西側のリベラルな都市エリート」が「家族、教会、国家、伝統的結婚・性別」を破壊する「退廃的文化自殺」を犯している、といった批判を繰り返している。
 「トランプ現象」は欧米社会共通の問題
 上記分析記事中の、穏健左派・中道左派民主党、穏健右派・中道右派共和党とそれぞれ読み替えれば、これはそのまま現在の米国社会にも見事に当てはまる分析ではないか。そうだとすれば、「トランプ現象」も近年欧州各国で台頭しつつある極右勢力と基本的に同根であることがわかる。
 続いてはコーエン氏の記事に倣って、最近の米国社会の構造的変化を分析してみよう。
第二次世界大戦後に優勢だった米国の民主党共和党の支持基盤は徐々に風化し始めた。
•この傾向は冷戦後のグローバリゼーションや携帯電話の普及により加速され、より不平等で、分極化した、気難しい社会をつくり出した。
•米国内でも真理の定義は動揺し始め、議会や政党がより軽んじられるようになった。
•米国人にとって民主党中道系と共和党中道系の区別がつかなくなった。
•中道系は移民問題に対処できず、労働者階級の多くは反移民右派勢力に流れていった。
•問題の核心は、知識経済の住人と工業地帯や田舎に住む「忘れ去られた」人びととの対立だ。
•「トランプ現象」は、リベラルによる伝統的価値の破壊という保守からの批判が有効な限り続く。ということだ。これをさらに筆者の個人的経験に基づいて分析すると次のようになる。
 トランプ氏が失脚しても、「トランプ現象」は続く
 筆者が初めてパソコンを使ったのは1980年代末、当時は高価な機材ながら、シングルタスクしかできないOS(MS-DOS)を使っていた。その後、パソコン向け32 bit CPU の普及、動作周波数の向上、メインメモリの容量増加とパソコンの低価格化が進むなかで1995年にWindows 95が発売され、時代は一変した。その衝撃はいまでも忘れられない。
 しかし、その後の一連のIT技術革命は米国社会を不可逆的に変えてしまった。それまでは、衰えたとはいえ、一定の競争力を保っていた米国の労働集約的製造業は大きな影響を受け、さらに衰退していった。こうした90
 年代以降のハイテク情報通信革命の直撃を受けたのは、田舎や非都市圏に住む白人・男性・低学歴・ブルーカラー労働者・農民だった。
 彼らは先端技術革命のスピードに追いついていけない。半導体の演算処理速度が等比級数的に向上するなか、彼らの生産性は等差級数的にしか増えないからだ。しかも、こうした技術革命を支え驚くほどの高給を取る若者の多くは、新参移民の1世、2世たちを中心とする非白人系プログラマーやエンジニアたちだから、彼我の経済格差は広がるばかりだ。
 以上の分析が正しいとすれば、「トランプ現象」とは「90年代以降の技術革新に乗り遅れた、白人・男性・低学歴・ブルーカラー労働者・農民のエスタブリッシュメントに対する逆襲」とも定義できる。彼らの怒りはワシントンに象徴される既得権層や非白人社会に向かうので、仮にトランプ氏が失脚しても、「トランプ現象」は続くと見るべきである。
 著者紹介
 宮家邦彦(みやけ・くにひこ)
 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問
 1953年、神奈川県生まれ。東京大学法学部を卒業後、外務省に入省。在中国大使館公使、在イラク大使館公使などを経て、2005年に退官。キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問、立命館大学客員教授外交政策研究所代表。著書に『語られざる中国の結末』『劣化する民主主義』『通説・俗説に騙されるな! 世界情勢地図を読む』(いずれもPHP研究所)など多数。
 関連書籍・雑誌
 気をつけろ、トランプの復讐が始まる
 宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)
 トランプ氏が再び米大統領になったら、ロシアとの戦争でウクライナは敗北、イスラエルの暴走で中東はさらに混乱、米中貿易戦争が再発、朝鮮半島と台湾の複合危機...世界と日本が直面する「最悪のシナリオ」とは? 大統領選を約50年ウォッチしてきた外交のエキスパートが、トランプ再来後の国際政治と日本が待ち受けるシナリオについて分析。米大統領選の楽しみ方も解説。
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 2016年11月15日 東愛知新聞「トランプ現象を読み解く
 暴露合戦とFBI捜査まで飛び出した混乱の米国大統領選挙が終わりました。
 11月20日に、第45代大統領に就任するトランプ氏は、戦後一貫して従米路線を貫いてきた日本政府が驚くような今までとは全く違うスタンスを日本にとってくる可能性を秘めています。それは、70年続いた戦後という時代の「不連続点」が訪れることを意味しているのかもしれません。この70年間続いた「アメリカありき」の前提条件が砂上の楼閣のように崩れ去る時を迎えるかもしれないということです。
 ところで、フランスの碩学エマニュエル・トッドは「帝国以後」(藤原書店2003年)で、今から十年以上前にパックスアメリカーナの終焉を的確に分析しています。著者のトッドは、乳児死亡率の上昇を根拠にソビエト連邦崩壊を独特の視点で見事に予言した「最後の転落」(1976年)を書いたこと、フランスのシラク政権のブレインだったことでも有名です。それでは、この本の内容を少し紹介します。
 「1950年から1990年までの世界の非共産化部分に対するアメリカの覇権は、ほとんど帝国の名に値するものであった。(略)
 共産主義の崩壊は、依存の過程を劇的に加速化することとなった。1990年から2000年の間に、アメリカの貿易赤字は、1000億ドルから4500億ドルに増加した。その対外勘定の均衡をとるために、アメリカはそれと同額の外国資本の流入を必要とする。この第三千年紀開幕にあたって、アメリカ合衆国は自分の生産だけでは生きて行けなくなっていたのである。教育的・人口学的・民主主義的安定化の進行によって、世界がアメリカなしで生きられることを発見しつつあるその時に、アメリカは世界なしでは生きられないことに気づきつつある。(p37-38)
 どのようにして、どの程度の早さで、ヨーロッパ、日本、その他の投資家たちが身ぐるみ剥がされるかは、まだ、わからないが、早晩身ぐるみ剥がされることは間違いない。最も考えられるのは、前代未聞の規模の証券パニックに続いてドル崩壊が起こるという連鎖反応で、その結果は、アメリカ合衆国の「帝国」としての経済的地位に終止符を打つことになろう。(P143)」
 また、トッドは20世紀にはいかなる国も戦争によって、もしくは軍事力の増強のみによって、国力を増大させることに成功していない、米国は長期間にわたって旧世界の軍事的紛争に巻き込まれることを巧みに避けることができたために、20世紀の勝利者となったと冷静に分析しています。
 ところで2015年の人口動態調査によると現在のアメリカでは、45~54歳の白人の死亡率が1999年以降、上昇し続けているという異常な事態になっています。トッドは、このこともグローバル化疲れ(グローバリゼーション・ファティーグ)によるものの一つだと分析しています。
 これが今回のトランプ現象を創り出したものであり、英国のEU離脱、多くの米国民がTPPに反対している背景にあるとも指摘しています。
 終戦後70年間、アメリカシステムの中に組み込まれてきた日本も21世紀にふさわしい今後の在り方を考える時を迎えたようです。地方も同様です。
 (統括本部長 山本正樹)
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 松下政経塾
 論考
 思想・哲学外交・安全保障
 国家の指導者とはどうあるべきか ~米国のトランプ現象にみる民主主義の危うさ~
 斎藤勇士アレックス
 第34期
 斎藤勇士アレックス
 2016/4/28
 今年のアメリカ大統領選挙では、イスラム教徒やメキシコ系移民への排外的な言動で大きな批判を浴びつつも、逆にそれを糧とする形で、ドナルド・トランプ氏が多くの支持を集めている。トランプ現象ともいえる前代未聞の米大統領選挙戦を通じて、国家の指導者とそれを選ぶ国民に求められている見識について考えたい。
 1.トランプ氏の予想外の健闘が意味するものとは
 “アメリカは世界中のあらゆる問題のゴミ捨て場にされている”
 “ (メキシコ移民)はドラッグを持ち込み、犯罪をもたらす。奴らは暴行魔だ”
 “残念なことに、アメリカンドリームは死んだ。だが、私が大統領に選ばれた暁には、アメリカンドリームを過去よりも大きくて、よくて、そして強いものにする。そして私たちはアメリカを再び偉大にする”
 ―ドナルド・トランプ氏、大統領選挙への立候補演説(2015年6月16日)注1から
 私は2015年9月から1年間、ワシントンDCに滞在して研究活動を行っているが、このアメリカの首都のどこに行っても、主な話題は大統領選挙の動向だ。2016年は4年に一度のアメリカ大統領選挙の年であり、また現職の大統領が出馬しない注2選挙でもあるので現職としての圧倒的アドバンテージを持つ候補がいない。共和党にとっては政権奪還のチャンス、民主党にとっては難しいといわれる3期連続の政権維持注3がかかっており、政権選択の選挙として注目を集めている。
 この大統領選挙において特に世間の関心を引いているのが、共和党候補として名乗りを上げている実業家のドナルド・トランプ氏だ。冒頭に紹介したのはトランプ氏の立候補表明時の演説からの抜粋だが、そこからはアメリカ国民の多くが抱える現状への不満を、他国や新しい移民に転嫁し、自らはそれらの外国や移民を攻撃することで人気を得ようとしている姿勢がうかがえる。昨年11月のパリでのテロ後には、イスラム教徒の入国禁止を打ち出すなど国際社会に波紋を広げ、またその攻撃の矛先は同盟国である日本にも及んでいる。トランプ氏によれば、日本はアメリカとの貿易で不当に利益を上げ、防衛面では日米同盟にタダ乗りして「アメリカを利用している」国であるらしい。
 アメリカ大統領選挙には、生まれながらのアメリカ市民であるなどの憲法上の要件を満たす市民であれば誰でも立候補出来るので、これまでも極端な政策を掲げる候補は存在した。しかし、今回の大統領選挙では、当初は泡沫候補と見られていたトランプ氏が共和党候補の指名を勝ち取るという、誰もが予想出来なかった事態になっている。予備選開始前には、トランプ氏の人気は実際の投票行動には結びつかないともいわれていたが、5月2日のインディアナ州予備選におけるトランプ氏の決定的な勝利をもって、7月の共和党大会でトランプ氏が共和党の大統領候補として指名されることが確実となった。
 今アメリカで何が起こっているのか。大統領選挙という国のリーダーを選ぶ選挙戦を通じて、国家の指導者とはどうあるべきか、さらに、それを選ぶ国民にはどのような判断基準が求められているのかを考察したい。
 2.トランプ人気の背景 ―アメリカ政治の変調-
 トランプ氏が人気を集める背景には、国民の政治、経済情勢に対する蓄積した不満がある。アメリカ政治は二極化し、連邦議会は機能不全に陥っている。その責任を誰が負っているのか(オバマ大統領か、議会の共和党か、あるいは議会の民主党か)についての意見の違いはあっても、アメリカ政治が史上まれにみる機能不全状態に陥っていることに関しては、多くのアメリカ国民が同意することのようだ。オバマ政権が発足して以降、世論調査注4で議会の仕事ぶりを「評価する」と答えた人は10%台に落ち込み、逆に「評価しない」は80%にも及ぶ結果が恒常化していることが、政治に対する国民の失望をよく表している。ワシントンDCで行われる政治に対する不信が高まっている背景としては、i) 政党の両極化、ii) 格差の拡大、の大きく二つが考えられる。
 i) 政党の両極化
 アメリカでは特に1990年代以降、民主党はよりリベラルに、共和党はより保守化するという政党の両極化が進行し、超党派での取り組みが行われにくくなり、議会そのものが機能不全に陥っている。原因や背景は全く異なるが、第一次安倍政権以降に発生した「ねじれ」による国会の機能不全を思い出してもらえれば、現在アメリカ議会で起こっていることもイメージしやすいだろう。
 アメリカ政治は民主党共和党という二大政党が担っており、従来は二大政党が適度に妥協し合いながら立法権を機能させてきた。アメリカの政治家は、連邦議会の議員であっても、その議員が選出された「選挙区の代表」という認識が一般的で、そのため選挙区の利益に沿った活動、投票行動が求められる。これは、選出された選挙区に関わらず国会議員は「国民全体の代表」として認識される日本やイギリスの議会システムと大きく異なる点だ。アメリカでは「選挙区の代表」であり、党の公認権も中央ではなく地方の党組織が握っている。このようなことを主因として、各議員に対する両党のコントロールは(近年強まる傾向にあるが)比較的弱い。議員は地域の利益に合致する行動をとることが求められるため、必要であれば党の意向に反した投票もするし、超党派で協力することも一般的に行ってきた。この、政党のコントロールが弱く、超党派での協力がしやすいという特徴を生かして、行政府の長である大統領と、上院と下院がそれぞれ別個に選出されるという三重の「ねじれ」が発生する可能性が高い統治システム注5でありながら、アメリカ政治は機能してきた。
 しかし、特に1990年代以降は両党のイデオロギーに基づいた意見対立が顕著になり、超党派での協力はめずらしいものになってしまった。議会で予算が成立せず、政府機関が長期間にわたって全面閉鎖される事態も起こっている。とりわけ深刻な影響を与えているのが、共和党内での「茶会派」と呼ばれるような純粋な保守政策に固執する議員の増加で、こうした議員の存在は、共和党民主党が協力する余地をさらに狭めている。例えば現在の、大統領は民主党、議会は共和党が多数派という状況では、議会の共和党は、民主党オバマ大統領の政策は(イデオロギー的な違いが大きすぎるため)何であっても反対する、といった対立状態を生み出している。アメリカ議会は「決められない政治」の様相を呈し、国民の信任を失っている。
 ii) 格差の拡大
 アメリカは、世界的な金融不況となったリーマンショックから、先進国の中で比較的早く立ち直ったといえる。2010年から2015年の実質GDP成長率注6は平均で2%以上となっており、日本や欧州のG7諸国よりも高い。国と地方を合わせた政府の単年度財政赤字の対GDP比注7は、2009年には13%に上っていたものが、2015年には3%強にまで落ち着いている。しかし、このように国家として捉えた場合ではなく、アメリカ国民の生活の実情をみると、そこには国民の不満の原因となる格差の問題がある。
 アメリカでは一貫して中間層が細り、その分だけ貧困層と富裕層が増えている。昨年12月に発表された調査結果注8によれば、1970年に全世帯の61%を占めた中間層は、2015年には50%にまで減少している。そして、1970年当時は富裕層が稼ぐ所得は全体の29%だったのが、2015年には49%に達しており、富裕層への富の集中が進んでいることがわかる。また前述のように、アメリカのGDPオバマ政権下で計10%以上伸びているのに対して、全家計所得の中央値は2%のマイナス注9となっており、経済成長の恩恵が国民全体の所得の底上げにはつながらず、富裕層ばかりが豊かになっていることが読み取れる。増加する低所得層はもちろん、経済成長にもかかわらず所得が減り続け、そしていつ低所得に転落するかもしれない不安を抱える中間層の多くは、政治家の国家運営に大きな不満を持っている。
 以上のような状況下でトランプ氏はまず、ビジネスマンという非政治家としての立場を最大限活用して、中央政界という敵を攻撃して共感を集めている。そしてトランプ氏の選挙戦の最大の肝が、集票ターゲットとする中~低所得層に対して、日本や中国という貿易で富を奪う「敵」、ラテンアメリカからの移民という職場を奪い社会を破壊する「敵」への攻撃である。貿易で富を奪われるというのは、前世紀の日米貿易摩擦の時から変わらずアメリカ国民が一般に抱いているイメージであるし、日々身近で増えていることが実感できるラテン系の移民と同様に、いずれも「わかりやすい敵」としてトランプ氏の恰好の攻撃対象となっている。
 多くの国民がアメリカの現状に不満を抱え、苛立ちを募らせているところに、わかりやすい敵を作り出し、得意の歯に衣着せぬ物言いでセンセーショナルに不満を代弁して人気を集めているのが、トランプ氏なのである。
 3.ポピュリズムの危険性
 “昔の文明は愛と正義を基礎にしていると主張した。われわれの文明の基礎は憎悪にある。われわれの世界には恐怖、怒り、勝利感、自己卑下以外の感情は存在しなくなる”
 ―ジョージ・オーウェル1984年』注10から
 上記は全体主義国家の恐怖を描いたSF小説としてあまりにも有名な『1984年』からの引用で、主要な登場人物の一人である全体主義国家の幹部が、彼らの国について説明したセリフだ。全体主義国家とは、個人の自由や言論を封殺し、すべてのものを国家の統制下に置く政治体制であり、その典型例としてナチスドイツや、スターリン時代のソビエト連邦が挙げられる。当時のドイツやソビエトで行われたホロコーストや大粛清で明らかなとおり、自国内の「敵」に対する迫害は全体的支配の特徴であり、その政治体制を維持するための要素になっている。一般大衆の不安や恐れを利用するために特定の社会集団や人種、民族を攻撃し、それによって自らの人気や権力を得ようとするポピュリズムに関しては、全体主義や、それにつながる専制、独裁、一党独裁への発展が究極的には懸念されることを、歴史は教えている。トランプ氏に対してと同様に、全体主義ポピュリズムを例にとって、野党や反対勢力が政権を批判する事例が世界中に溢れており、かなり使い古された表現になってしまっているが、トランプ氏の言動とその支持者たちが醸し出す雰囲気は、『1984年』で描写されている全体主義の下での恐ろしいディストピアを想起させる。
 4.理想の指導者像とは
 では、それらのポピュリズム等と対極にある指導者、民主主義国の指導者としての理想の姿とはどのようなものか。本稿は現在のアメリカ大統領選挙を通じて民主主義の危機を論じているが、一方で歴代のアメリカ大統領には、民主主義の指導者としての理想の姿を見出すこともできる。松下政経塾の設立者である松下幸之助も、アメリカの「民主主義の下での繁栄」から学ぶべく、戦後間もないころ、まだ日本が連合国の統治下にあった時期にアメリカを3か月に渡り訪問し、見聞を広めている。そんな松下幸之助が自身の著書や、あるいは松下政経塾での塾生に向けた講義で触れていたのが、第16代大統領のエイブラハム・リンカーンや第35第大統領のジョン・F・ケネディといった指導者たちであった。
 リンカーン大統領の有名な発言に「一部の人を長い間だますことはできる、また、全部の人を一時的にだますこともできる。しかしすべての人をだまし続けることはできない」というものがある。この発言自体に重要な教訓が込められているが、松下幸之助はこの発言を通じて、指導者は常に「世間は正しい」ということを肝に銘じなくてはならない、と説いた注11。広がる経済格差や議会の機能不全に有効な手立てをとらず、世論を無視する格好になってしまった既存のアメリカの政治家は、まさにこの「トランプ現象」の出現によって、世論を無視したことのツケを払う形になった。また、具体的な政策もなくそれらの問題を解決すると言い張って人気を集めているトランプ氏が大統領になれば、その主張の虚構が暴かれ、やがて世論を敵に回すことになるだろう。世間に耳を傾けない指導者は国民にそっぽを向かれるし、世間を騙す政治家も、やがて国民はその嘘を見抜き、彼らのさらなる怒りを買うだろう。
 一方で、ケネディ大統領の「アメリカ国民よ、国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何を成すことができるのかを問うて欲しい」という有名な言葉には、民主主義国の国民の在るべき姿が示されている。選挙で選ばれる民主主義国のリーダーにとって、国民に嫌われる政策(たとえば増税社会保障の削減、各種補助金の削減など)を唱えたり実行したりすることには大きなリスクが伴う。得てして、選挙で勝つために、大衆に迎合し、耳当たりの良いことだけをいい、果ては政策論争ではなく、特定の集団を攻撃することのみで人気を得ようとするトランプ氏のような人物が、民主主義国家では出現しやすい。それはつまり、国民の側にも、国家の主権者であり国家の将来に責任を持っていることを忘れ、そういった耳当たりの良いことをいう人ばかりに投票しがちであることを示している。ケネディ元大統領の上記の発言は「指導者として国民に正直であることの大事さ」と同時に、「国民が持つ指導者を選ぶという重大な責任」という民主主義の重要な原則を指摘しているのだ。
 5.真の民主主義国にふさわしい指導者を
 トランプ氏が、民主党の大統領候補になるであろうヒラリー・クリントン国務長官との本選に勝利し大統領になるか、と問われれば、やはりその可能性は低いといえるだろう。もちろん、そもそもトランプ氏が共和党の予備選に勝利すること自体が歴史的な番狂わせであるので、秋の本選で何が起こるかはまったく想像できない。それでも、身内であるはずの共和党内からでさえ相当の反感を買ってしまっているトランプ氏では、クリントン国務長官に勝利する可能性は極めて低いといっていいだろう。
 だが、今回のトランプ氏の躍進は、単独で生じている現象ではなく、低成長時代を迎えている先進国共通の課題を象徴している現象とみなすべきだ。トランプ現象の背景には、議会政治の機能不全や、経済的な格差の拡大という問題があることを既に述べたが、特に後者の問題は先進各国が共通して抱えている問題である。これらを解決しない限りは、アメリカ以外の国でも第二、第三のトランプ氏が現れることになる。
 日本も例外ではない。ポピュリズム現象が今の日本で生じていないからといって、将来にわたって不安がないわけではない。確かに、日本国内の経済格差は近年開いてきているとはいえ、アメリカとは比較にならないほど、小さい。また、例外的な事件はあっても、大規模な外国人排斥運動のようなものが力を得ているわけでもない。しかし、格差は着実に広がっているし、生涯賃金や雇用の保証が大きく劣る非正規雇用は増え続けている。また特に非正規での雇用が多い女性の活躍促進において、実質的な変化を促す政策にも欠くなどして、今後も国内の経済的格差の拡大が止まる道筋はみえてこない。これ以上格差が広がらないよう、また雇用形態や性別によって不当な賃金格差が生じないよう、政治には早急な対応が求められる。また、外国人排斥運動のようなものが起こっていないのは、単純に日本国内に外国人労働者や移民が少ないからだともいえる。今後、海外からの労働者や移民が増えた時にトランプ氏が唱えているような外国人への攻撃が日本で再現されないよう、外国人労働者などの受け入れ方や共生の仕方に大きな関心が払われるべきだろう。
 私たちは、この混乱するアメリカ大統領選挙を、国家の指導者にどのような人間が相応しいかを考える契機とすることができる。過去の偉大なアメリカ大統領が述べてきたように、指導者には常に「世間は正しい」という意識を持ち、それを尊重し、正直にそれと向き合うことが求められている。そして、日本を含むあらゆる民主主義国の将来は、その指導者を選ぶ主権者一人ひとりの選択に委ねられているということも、また改めて確認する必要がある。アメリカでのトランプ現象は、不満、恐怖、他者への憎悪といった人間の醜い部分ではなく、ビジョンと政策の裏付けをもって、人々の責任感に訴えかける政治家を選ぶ大事さを、改めて問い直す機会を与えてくれているのではないだろうか。
【注】
 注1 演説の様子は以下で確認できる。 http://www.c-span.org/video/?326473-1/donald-trump-presidential-campaign-announcement 
 注2 アメリカ大統領の任期は特別な場合を除いて、2選が限度と憲法で規定されている。
 注3 第二次世界大戦後、同じ党が3回以上続けて大統領選挙に勝ったのは、ハリー・S・トルーマンが再選された1948年の選挙と、ジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)が当選した1988年の選挙の2回のみ。
 注4 ギャラップ社 (2015) http://www.gallup.com/poll/1600/congress-public.aspx
 注5 アメリカ議会では上院と下院が同等の権能を持っており、両院が一致しなければ立法を行うことができない。また、上院では議員一人ひとりの権限が強く、少数党であっても議事の進行妨害などで多数党に抵抗できる。さらに、大統領は議会で通過した法案に対して拒否権を持つので、議会の両党と大統領がそれぞれ妥協する意思を持たないと、政府が機能しなくなる。
 注6 国際通貨基金 (2015) 「World Economic Outlook Database, October 2015」
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2015/02/weodata/index.aspx
 注7 同上
 注8 ピュー・リサーチ・センター(2015) 「The American Middle Class Is Losing Ground」 http://www.pewsocialtrends.org/2015/12/09/the-american-middle-class-is-losing-ground/
 注9 セントルイス連邦準備銀行のデータべースFRED (Federal Reserve Economic Data)の数値を元に計算。データベースは以下から参照できる。https://research.stlouisfed.org/fred2/series/MEHOINUSA672N
 注10  ジョージ・オーウェル(著)、高橋 和久(訳) (2009) 『1984年(新訳版)』 早川書房、P414
 注11 『実践経営哲学』(PHP研究所)の中の、「世間に従う」を参照
 【参考文献】
待鳥 聡史 (2009) 『<代表>と<統治>のアメリカ政治』 講談社
牧野 雅彦 (2015) 『精読 アレント全体主義の起源』』 講談社
松下 幸之助 (1977) 『政治を見直そう』 PHP研究所
松下 幸之助 (2001) 『実践経営哲学』 PHP研究所
松下 幸之助 (2014) 『指導者の条件』 PHP研究所
渡辺 将人 (2008) 『現代アメリカ選挙の集票過程 アウトリーチ戦略と政治意識の変容』 日本評論社
ジョージ・オーウェル(著)、高橋 和久(訳) (2009) 『1984年(新訳版)』 早川書房
 George Packer. 2013. The Unwinding: An Inner History of the New America. Farrar, Straus and Giroux.
 Roger H. Davidson., Walter J. Oleszek., Frances E. Lee., Eric Schickler. 2015. Congress and Its Members (fifteenth edition). CQ Press.
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