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2024年8月24日 YAHOO!JAPANニュース クーリエ・ジャポン「米国大学は外国勢力によるスパイ活動とプロパガンダの温床になっている
この記事は、ベストセラーとなった『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』の著者で、ニューヨーク大学スターン経営大学院の経営学者であるスコット・ギャロウェイによる連載「デジタル経済の先にあるもの」です。月に2回お届けしています。
【画像】米国大学は外国勢力によるスパイ活動とプロパガンダの温床になっている
私が育った時代、最大の恐怖は「原爆」だった。私が生まれた年に『博士の異常な愛情』が公開された。心配ご無用、明るい閃光が見えたら……机の下に隠れるだけでいい。そう、勉強机が熱核爆発から守ってくれるはずだなんて、本気で信じていいのだ。
今週、私は歴史学者のニール・ファーガソンにインタビューした※1。彼は、私たちが第二次冷戦に突入して数年経っていると考えている。同じく地政学の憎まれ役、ファリード・ザカリアは、これを冷たい平和と呼ぶ。いずれにせよ、冷たい前線が迫っているのは間違いないが、米国を見ている限り、そうは思えない。私たちの心は別のところにあり、油断している。
戦争とイノベーション
死が目前に迫っているとわかれば、人はそれ以上に注意を集中できるものはない。敵に向かって石を投げるのに投石器を使った最初の男は、イノベーターの走りだったのだ。
銅と錫の合金で剣と盾を鍛造した人々は青銅器時代を生んだ。南北戦争では、偵察用の熱気球が登場し、初の組織化された陸軍救急部隊が誕生した※2。鉄道が大規模に導入され、電信が普及し、写真ジャーナリズムが芽吹いた。第一次世界大戦がもたらしたものと言えば、ステンレス鋼、ファスナー、そして夏時間(ありがた迷惑だ)などだ※3。
前世紀半ばにヨーロッパを荒らし回った狂人のおかげで、インフルエンザワクチン、ペニシリンの大量生産、血漿輸血、レーダー、コンピューターなど、数え切れないほどの製品が生まれた※4。冷戦時代にDARPAが行ったプロジェクトが商用インターネットの礎を築かなければ、この連載は郵便で届いていただろう。20世紀は、紛争と進歩の共生関係によって定義された。
21世紀も同じように、紛争と進歩がその特徴を決定づけることだろう。イスラエルの精鋭部隊8200の退役軍人たちは、Palo Alto Networks、Waze、Wizをはじめとする数多くのスタートアップを立ち上げている※5。イラクやアフガニスタンでの戦闘は、特にロボット義肢の使用や外傷性脳損傷の理解を深めるなど、医学の飛躍的な進歩を後押しした※6。
圧倒的に強力な敵と対峙するウクライナ人は、わずか3万ドル(巡航ミサイルの価格のほんの一部)で、ロシア国内の数百マイルも離れた目標を攻撃できる長距離ドローンを開発している※7。戦場では、ロシアとウクライナが、500ドルからの戦術ドローンを生み出すイノベーションレースの真っ只中にある※8。
予測:その戦争が終わるころには、配送ドローンは当たり前になり、最高のものはウクライナ製になるだろう。
ハイブリッド戦争
グローバル経済の世界では、あらゆる接点が攻撃の標的となり得る。ハイブリッド戦争とは、通常の軍事作戦、サイバー攻撃、偽情報の流布、ゲリラ戦術、法律戦、外交、政権交代、経済戦争など、あらゆる手段を巧みに組み合わせた紛争のカクテルだ。ウラジーミル・プーチンは、このハイブリッド戦争の第一人者と言える。彼は、米国人とヨーロッパ人を分断させるために、国家の資源をこっそりとハイテクとローテクの手段に投入し続けてきた。
ビッグテック企業が、「私たちは進歩を誇りに思う」と語る好感度の高い幹部による偽情報に最大の投資効果があると気づいたように、プロパガンダは今でも、国家が物理的な軍事力を超えて強烈な一撃を見舞うための手段であり続けている。
ラジオ・フリー・ヨーロッパ
米国もハイブリッド戦争の実践者だ。ラジオ・フリー・ヨーロッパは、プロパガンダをロックンロールに織り交ぜて東側諸国に流し込んだ。私たちは毎年5億ドルもの資金を投じて、平和部隊が米国のソフトパワーの力強さを世界に誇示できるようにしている※9。
米国とイスラエルのコンピューター科学者たちは、一発の弾も撃つことなく、イランの核施設の遠心分離機を破壊するウイルス「スタックスネット」を生み出した※10。そして、軍事力に年間8200億ドルもの大金を費やしているにもかかわらず※11、私たちの最大の武器は経済なのだ。私たちは制裁の世界で他の追随を許さない。
無防備
中国共産党が、米国の若者の世界観、米国観、自己認識の枠組みを形作ることを可能にしているのが、バイトダンスが所有するTikTokという名のトロイの木馬だ。問題は、中国共産党が米国の地位と繁栄を損なおうとしているかどうかではない(実際、そうしているのだが)。問題は、私たちがこれほどまでにそれを容易にさせるべきかどうかなのだ。米政府は、ようやくTikTokの脅威に気づき始めたところだ。
影響力が衰えつつあるコミュニケーション・プラットフォーム(テレビやラジオなど)については、米国の法律が外国人の所有権を制限している※12。(ちなみに、ルパート・マードックは、米市民権を取得することでこの法律を巧妙にかわしたのだ※13。)
国家安全保障、エネルギー、インフラに影響を及ぼす投資も、厳しい精査の対象だ。敵国に武器システムを制御させたり、電力網を遮断させたり、港を閉鎖させたりする力を与えるのは愚かとしか言いようがない。そして、若者の脳内に神経ジャックを埋め込ませるのは、言葉の本来の意味で、愚の骨頂だ(上記のTikTokを参照)。
だが、米国の大学は無防備のまま。ビジネスに門戸を開放している。2019年、3700もの高等教育機関のうち、25万ドルを超える外国からの贈与や契約を報告することを義務付けた法律に従ったのは、わずか3%にも満たなかった。翌年の教育省報告書は次のように結論づけている。
「米国の教育機関は、ナノサイエンスをはじめとする最先端かつ国際的に競争力の高い分野が急成長を遂げている技術の宝庫だ。これらの機関は長年にわたって、透明性と監視が欠如する環境の中で、外国政府とその関連機関に前例のないレベルのアクセスを提供し続けてきた」※14。
その後の取り締まり強化により、ハーバード大学、イェール大学、MIT、その他の大学への外国からの資金の流れに疑問の目が向けられている。しかし、ジャーナリズム界のデッドプールとウルヴァリンとも言えるウッドワードとバーンスタインは、カネの流れを追跡するだけでなく、その出所をも暴いたのだ※15。
中国
高関税のせいで、フロリダ産オレンジは中国市場から締め出されている。しかし、180万ドルの契約により、中国の栽培者はフロリダ大学の柑橘類研究にアクセスできるようになった※16。あるフロリダの栽培者は、この取引を「知的財産の強奪」と呼んだ。
中国の配車サービス会社で、政府資金で設立され、Uberを市場から追い出したDiDi Globalは、ミシガン大学と約100万ドルの契約を結んでいる※17。ある中国の機器メーカーがIPOを申請したとき、同社はミネソタ大学との関係により「世界トップクラスのR&D機関の最新の成果を享受できる」と投資家に告げた※18。キャンパスで知的財産を大幅な割引価格で購入できるのに、なぜ知的財産の盗難を心配する必要があるのだろうか?
サウジアラビア
62もの米国の大学がサウジアラビアから数十億ドルもの資金を受け取っている。その見返りに、サウジは米国の頭脳集団へのアクセスを得るだけでなく、ブランドイメージの刷新も果たしている。サウジ王国は、プレミアリーグのサッカー、PGA、WeWorkなど、スポーツ界やスタートアップ業界にも同様の投資を行っている。米国企業が安価な資本を手に入れられるという点では、これは両者にとってwin-winの市場取引だと私は考える。
しかし、我々の価値観を共有しない君主制国家が、明日のビジネス界や政界のリーダーたちの価値観形成に影響力を持つことには、何か胸のすくまないものを感じずにはいられない。
元米国のサウジアラビア大使は、サウジ王国のこの「高等教育のイメージ洗浄」キャンペーンを、米国のソフトパワー戦略になぞらえた※19。確かに手法は同じかもしれないが、道義的には同列に語れない。サウジが米国の大学からブランドイメージの再構築を買うとき、そこには、カリキュラムや教授職を通じて、最も巧妙な方法で米国の価値観に疑問を投げかけるリスクが潜んでいるのだ。
カタール
1998年以来、カタールはドーハにある米国大学の分校に数十億ドルもの投資を続けてきた※20。「教育シティ」と呼ばれるこの地区には、ジョージタウン大学の政治・外交学部、カーネギーメロン大学のコンピューター科学部、バージニア・コモンウェルス大学の美術学部、コーネル大学の医学部、ノースウェスタン大学のジャーナリズム学部など、名だたる大学のキャンパスが集結している。
テキサスA&M大学もカタールに工学部を設置しているが、2028年には閉鎖されることになっている。その理由は何だろうか? 大学当局は中東情勢の不安定さを懸念材料として挙げている。
その一方で、「反ユダヤ主義とグローバル政策研究所」の名で知られるシンクタンクは、テキサスA&M大学のカタールキャンパスで進められている兵器開発や原子力工学の研究の「相当部分」に対する権利をカタールが保有していると主張した。テキサスA&M大学はこの主張を真っ向から否定している。
国家間の同盟やパートナーシップは、利他主義や友情ではなく、共通の利害関係に基づいて形成されるものだ。これこそが地政学の現実であり、米国とカタールの関係性を表している。カタールは人権状況が劣悪で、ハマスやイランとの繋がりも指摘されている。その一方で、中東最大の米軍基地が置かれているのもカタールなのだ。一筋縄ではいかない複雑な関係だ。
米国の外交政策にとってカタールは必要不可欠だが、米国の大学にとってはそうではない。一流大学は数十億ドル規模の潤沢な基金を有しており、学生一人当たりの年間授業料は高級車1台分に相当する。カタールからの資金が途絶えたとしても、彼らにとってはさほど痛手にはならないだろう。
愛国心
第二次世界大戦中、UCLAだけで300名近い卒業生が命を落とした。私の母校だけが特別なわけではない。全米の大学が戦争に動員されたのだ。どの学校も卒業生を最前線に送り出した。メリーランド大学は入隊者数を増やすため、3年で卒業させるコースを設けた。コロンビア大学は戦時に役立つようカリキュラムを改編した。
1942年までには、3,000人もの軍人がハーバード大学で学んでいた。そしてもちろん、全米の研究大学は原子爆弾をはじめとする、戦争に勝利するための知的戦力を提供したのである。最も偉大な世代は、今日、お手本とされる義務感と愛国心を体現した。祖国への愛が、米国を救う原動力となったのだ。
今日、私たち、とりわけ若い米国人の間で愛国心が失われつつある※21。独裁者たちが米国国内外で民主主義を脅かしている今、これは大学の管理者や教員にとって明白かつ差し迫った危機のはずだ。私たちは最も偉大な世代を愛国心で武装させた。だが今日の学生からは、ナルシシズムによって愛国心を解除しているのだ。
矛先
大学は、次世代のリーダーやイノベーターを育成する米国の矛先となる存在だ。私たちの使命は、学生が情熱を探求し、信念に挑戦し、批判的思考力を養える環境を提供することにある。
米国を貶めることで学生や教員がオンラインで影響力を得られるかもしれないが、現実世界ではそれは愚かな行為でしかない(カリフォルニア大学バークレー校のカルロ・チッポラ教授は、「愚か」を「自分自身を傷つけながら他人を傷つける人」と定義している)※22。私たちは愚かさへと続く道を進んでおり、その道は敵対勢力からの資金で舗装されているのだ。
米国人の最大の強みは楽観主義だ。だが、その楽観主義のアキレス腱は、米国人を欺くことの方が、欺かれたと納得させるより容易いということだ。これに加え、金に執着する肥大化した大学が、知的自由と言論の自由という米国の価値観を逆手に取っている。
がんとは、宿主自身の細胞が宿主に立ち向かうことを指す。そして今、米国を蝕むがんとは、私たちの言説の荒廃と、大学生の間でブームとなっている米国嫌悪の風潮である。米国の大学に流れ込んだ140億ドルは、私たちと他国の間に橋を架けようとする試みなのか。それとも敵対勢力が、私たちの細胞(若者)を利用して私たちに立ち向かわせる長期的な戦略なのか。答えは明白だ。
リスクが見返りを上回るポイントはあるのだろうか? 大学に寄付をしてきた者として、私は、どんなに善意であっても、寄付者は何かしらの見返り──カリキュラム、奨学金の受給者、教員の採用への影響力など──を期待していることを知っている。
キャンパスのリーダーたちは、シンプルな問いを投げかける必要がある。外国勢力は、その数十億ドルと引き換えに何を求め、そして何を手に入れているのか、と。
人生は実に豊かだ。
スコット
Scott Galloway From No Mercy No Malice
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