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2022年9月16日 YAHOO!JAPANニュース ナショナル ジオグラフィック日本版「アイルランド最大級の考古学的発見 ピラミッドより古い遺跡への旅
泥炭地にあった、6000年前の農業コミュニティー
地元の人々や農家の人々は、長年、このストーンサークルは「妖精の輪」で、石を動かすと災いがふりかかると信じ、避けてきた。その後、考古学者の発掘調査により、これは青銅器時代の円形住居の基礎であることが判明した。(RM IRELAND)
アイルランド西部のメイヨー県のバリーキャッスルとベルマレットの間には、ドラマチックな断崖と大西洋に挟まれた、広さ13平方キロメートルに及ぶ湿原が広がっている。木々がほとんどなく、丘も高くはないため、何もない土地のように見える。が、この孤立した海岸には「アイルランド最大の考古学的発見のひとつ」と称される遺跡がある。
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アイルランドには、はるか昔の社会を垣間見せてくれる泥炭地がいくつかある。そこから、聖杯や大量の金製品、中世の詩篇書といった宝物、2000年前の「ボグバター(乳脂肪から作ったバターの塊を保存のために泥炭地に埋めたもの。ボグとは泥炭地のこと)」や、「ボグボディー」(泥炭地で良好な状態で保存された人間の遺体。最古のものは紀元前2000年のもので、カシェルマンと呼ばれている)などが発見されてきた。
しかし、アイルランド最大の新石器時代の遺跡が見つかったのは1930年代と比較的新しい。この発見をきっかけに、紀元前3800年ごろの、世界でも最も古い時代の石垣に囲まれた農地が見つかった。紀元前3800年といえば、エジプトのピラミッド(紀元前2550年)やストーンヘンジ(紀元前3500年)よりも前である。
ケイジ・フィールズと呼ばれるこの場所は、ユネスコの世界遺産暫定リストに入っている。同じアイルランドのバレン高原ほど有名ではないかもしれないが、2022年6月にオープンした新しい体験型観光施設は、そんな現状を一変させるかもしれない。施設では、石垣の歴史や石垣が取り囲んでいた古代の農地、そこに住んでいた人々について学べるインタラクティブな展示が行われている。
沼炭に埋もれた宝物
ケイジ・フィールズは、数千年にわたり、湿地の腐敗した植物の中に埋もれていた。これを発見したのは、アイルランドのベルデリッグ出身である教師パトリック・コールフィールド氏である。燃料にするための泥炭を切り出していた彼は、泥の中の深いところに大きな石が長く積まれているのを見つけた。彼は1934年にダブリンの国立博物館に手紙を書き、この発見を知らせた。しかし、当時の博物館には調査する余裕がなかった。
それから30年近くたった1963年、パトリックの息子シェイマス・コールフィールド氏が率いる考古学チームがこの地を調査。住居の基礎やスクレーパー(掻器[そうき])、矢じりなどの新石器時代の道具、崩れた石垣などが見つかった。炭素年代測定の結果、遺跡は約6000年前のもので、組織化された農業コミュニティーがこの地を開発していたことが明らかになった。
アイルランドのユニバーシティー・カレッジ・ダブリンでケルト考古学の名誉教授であるガブリエル・クーニー氏は、「初期の農場の姿を見せてくれるケイジ・フィールズは、世界的にも非常に重要です」と説明する。「この遺跡は、人々が環境と相互作用していたことを示す証拠です。農業とその起源を理解し、世界で農業が始まった背景を解明するうえで欠かすことのできない遺跡です」
パトリックの孫であるデクラン・コールフィールド氏は、ベルデリッグ・バレー・エクスペリエンスという会社を設立して、一族の遺志を引き継いでいる。彼は、石垣が最初に発見された泥炭地で、2時間から2日間の個人ツアーを開催。ツアー参加者は、古代の石臼で穀物をひいて、地元の穀物がどのように製粉されていたかを体験したり、石と木を使って建物を立てる方法を学んだりできる。
「祖父は、古代のものに対する優れた洞察力を持っていました。彼の発見は、ケイジ・フィールズについて語るうえで重要な部分だと思います」とデクランは言う。
何十年もの間、地元の人々や農家の人々は、円形に並べられた石は「妖精の輪」あるいは「妖精の砦」であり、石を動かすと災いがふりかかると信じ、この地を避けてきた。その後、考古学者によって発掘調査が行われ、青銅器時代の円形住居の跡であり、ケイジ・フィールズを建設する際に出た石で建てられたものであることが判明した。
年間250日の雨が形成する泥炭地
ケイジ・フィールズの一部は発掘されているが、泥炭の下には数十万平方メートルにわたって歴史的遺物が眠っている可能性がある。1981年に学生としてケイジ・フィールズの発掘チームに参加し、現在はこの施設を管理している考古学者のグレッタ・バーン氏は、「まだ膨大な量の資料が地中にあることが分かっています」と言う。「けれども、その多くは手つかずのまま残されるでしょう。すべてを調査しようとしたら、あと5000年はかかるでしょうから」
見学者は、3億7000万円を投じて改装された体験型観光施設で、この土地に住み農業を営んでいた人々についての謎解きを試みることができる。ここは、アイルランドの西海岸をめぐる全長2600キロメートルの観光ルート「ワイルド・アトランティック・ウェイ」の立ち寄り地のひとつだが、まだあまり知られていない。
施設には、最新のオーディオビジュアル展示やアーティストによる当時の建物の復元、海食崖の風景を一望できる展望台があり、石器時代のアイルランドをより深く理解できる。最初の農民がどのようにしてアイルランドに到着したかを示す丸太船のレプリカ、森林を切り開いて住居や家畜小屋を建てる様子を描いたイラスト、農民が死者を追悼するために石のモニュメントを建てた様子を解説するディスプレーもある。
イタリアのトリノから来た観光客のロベルタ・リチエロ氏は、この施設を訪れることは「時空を超える経験です」と興奮気味だ。「世界の終わりのような崖に立ち、世界の始まりに向かって、歴史に足を踏み入れていくのですから」
バーン氏は、この遺跡の広大さを観光客に理解してもらうために泥炭地をめぐるガイドツアーを行い、この地域の地理や生態、雨の重要性について説明している。「遺跡を覆い隠す泥炭地を形成するには、1年に225日間、1270ミリメートルの降水量に相当する雨が降る必要があります。ここでは1年のうち約250日は雨が降っています」
バーン氏は、考古学者が石垣を発掘するために泥炭を切り出した場所を案内してくれた。ある区画では、人々が建物を建てはじめたときの地面が示されており、その後、集落の上に泥炭が4メートルも堆積した様子を見ることができる。
バーン氏は、研究しなければならない部分は多いが、ケイジ・フィールズの多くの場所が手つかずのまま残っているのは「良いことだ」と言う。「現在の技術では、発掘によって地面から土を除去すると、その土は基本的にだめになってしまいます。けれども、将来的には、考えもつかないような新しい技術が開発されるかもしれません。それが考古学の魅力で、常に新しい発見があるのです」
文=Yvonne Gordon/訳=三枝小夜子」
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